第7話 最初の死闘
「ギャオオオオオオオオン!!」
魔物の悲鳴で、ハッと我に返る。目の前に視線を遣ると魔物の尻尾が途中でなくなっていて、狂ったように振り回される残った尻尾の先からはどす黒い血が溢れ、辺りに飛び散っていた。
何が起こったのかまるで解らなくて、僕は辺りを見回す。神父様達の方を見ると、二人は信じられないものを見るような目で僕の方を見ていた。
その視線に、自分の体を見る。すると――。
「……これは?」
僕の手には、いつの間にか銀色に輝く剣が握られていた。美しい両刃の長剣。その刃には、新鮮な黒い血が付着している。
「……グルゥウウウウウウウウ!!」
何故僕が剣を、そう考えている余裕はなかった。こちらを振り返った魔物が、怒りの形相で睨み付けてきたのだ。
戦わなければ、殺される。そう咄嗟に判断した僕は、急いで剣を構え直した。
「今のうちに逃げて下さい。早く!」
僕がそう叫ぶと同時、魔物が大きく息を吸い込んだ。炎が来る、そう理解した本能は頭で考えるより前に言葉を紡ぐ。
「遮れ、盾よ!」
次の瞬間、僕は目を疑った。手にした剣がぐにゃりと歪むと、たちまちに体がすっぽり入るほどの大きな盾へと姿を変えたのだ。
直後、吹き付けられる炎。空気が焼かれ、激しい熱気が体を包むけど、今出来上がった盾に遮られて炎そのものは僕の元までは届かない。
間も無く、炎の勢いが弱まり熱さも薄れていく。僕の本能が、好機だと叫んだ。
「貫け、槍よ!」
盾が歪み、今度は銀色の大振りな槍の姿に変わる。僕は覚悟を決め、その先端を開いたままの魔物の口へと力一杯突き刺した。
「グギャアアアアアアアア!!」
再び魔物が悲鳴を上げる。余程苦しいのだろう、無茶苦茶に爪を振り回して暴れ出し始める。
「ぐあぁっ!」
その爪を、槍を手にしたままの僕は避ける事が出来なかった。肩に食い込んだ爪が服を裂き、皮膚を裂き、胸元の肉と血管を深く抉り取る。
「リト!」
「リト坊!」
神父様とダナンさん、二人の悲鳴が一瞬遠くなりかけた意識を保たせる。よろめいた僕の視界の端で、手から離れた槍が歪み、腕に吸い込まれ腕輪へと姿を変えるのが見えた。
(そうか……今までの武器はこの腕輪が)
奇妙だけど、納得するしかなかった。僕の言葉に反応し、その姿を変える。そういう力が、どうやらこの腕輪にはあるらしい。
ならば。今やるべき事は何故、を考える事じゃない。
倒れかけた体を、ぐっと後ろ足で踏ん張り踏み留まらせる。そして、今度は正真正銘、僕自身の意思で叫んだ。
「……煌めけ、剣よ!」
腕輪が形を変え、手に剣が握られる。それを確認すると、僕は両手でしっかりと剣を握り締めた。
「これで……終わりだああああああああっ!!」
渾身の力を込めて降り下ろした剣は。暴れ続ける魔物の眉間に吸い込まれ、その頭蓋を砕いた。
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