熱
サンダルウッド
「熱」
「休憩いただきます」
そう言って、私はそこから離脱した。相方の女性職員は何も答えない。
今日も失敗した。
勤めて二年になるが、未だ一度も成功していない。他の職員も苦戦はしているはずだが、全敗者は私だけだ。
いつものように、屋外の喫煙所へ行く。煙草は
冷やさねば、気ぜわしく張りつめた中の温度により、熱発や
二月の夜気は、肌に刺さるように冷たい。空は、いつもの濁った漆黒色をしている。
星屑の一つ二つでも見えれば、郷愁じみた逃避に拍車をかけることも出来ようが、都会の空は冷たく黙するだけだ。相方は今ごろ、時折居室から出て来る彼と、精彩を欠いた表情でもって持久戦を展開しているだろう。
「あんたには熱を感じないのよ」
かつての恋人が口にした台詞は、確かに
事を進めるための気概や情熱や豪胆さのようなものが、私には不足している。努力を怠っているつもりはない。自分なりに考え、工夫して日々を生きてはいるが、届かないのだ。
気ぜわしさや煩わしさの波をかいくぐるだけの熱を、私は持っていなかった。まんじりともせずにいる彼は、そんな私の胸中を見透かしているのだろうか。
イヤホンをつけ、
感傷に
休憩時間が終わる五分前、喫煙所を出て、熱を帯びた部屋へと向かう。
彼女の言葉に、負けたくはないと思った。
私の心は、まだ冷えきってはいない。
廊下に出ると、休憩前よりもいっそうの熱を湛えた彼のうなり声が聞こえた。
熱 サンダルウッド @sandalwood
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