おーでぃしょん閉幕
「パパ!!あたしは見損なったぞ!!なぜこんなことをするんだ!!!」
じょうこはぺぱぷのうちわを高く掲げて叫んだ。親譲りの大きな声は会場に響き渡り視線を独り占めにする。
「おいおいあれって……」
「ぺぱぷのグッズ……?なんでもうあるんだ?」
先ほどまであれだけうるさかったじょうが黙った。怒りにまみれたアライさんが会場のぺぱぷを指差して叫ぶ。
「答えるのだ!初めからそいつらが勝つことが決まっていたのだろ?!それならばおーでぃしょんを開く必要などなかったはずなのだ!!」
次第に観客が騒ぎ始めると、会場スタッフがアライさんたちを止めに入った。
アライさんたちは抵抗したが結局会場から追い出されてしまった。
じょうは何事もなかったかのようにマイクを持つと、司会を続ける。
「ではこれより予定通り!!歌選考を開始します!!ルールは簡単!!チームで歌を歌って貰って!投票で票が多かったチームが優勝!!晴れてアイドルになれるのです!!」
しかし観客の反応は悪く、あちらこちらから野次が飛んでいた。既に帰り支度を始めている人も大勢いた。
「どういうことだー!」
「うちわの説明をしろー!」
「歌選考も投票操作するつもりだろー!?」
ここで司会席に所長が来た。気付いたじょうはマイクを持って言った。
「…しばらくお待ちください!!」
「じょう君…このイベントはパークの命運をかけたイベントだということを分かっているのかね?ぺぱぷが苦難を乗り越えてアイドルになったことを演出してくれないと困るんだよ。」
所長はマイクが音を拾わないように小声で言う。
「わかっております!!」
じょうも小声で言ったつもりであったが、マイクはしっかり音を拾っていた。
「もうバレちゃったからどうにもならないけどさ、とりあえずペぱぷの曲だけ披露しちゃって。」
「かしこまりました!!」
じょうはマイクを口元まで持っていくと叫び始めた。
「先ほど!チームPrincess and prismから棄権の申し出がありました!!よってこのオーディションの優勝者はチームペぱぷとします!!ペぱぷ!!おめでとう!!それでは前に出てきてください!!」
会場からブーイングが飛び交う。ペぱぷのリーダー、コウテイが前に出てスピーチを始めた。止まらぬ野次に申し訳無さそうに謝りながら、コウテイはスピーチを終えた。それを確認したじょうはマイクを口元に持っていって発言した。
「それでは!アイドル誕生記念に!!1曲歌ってもらいましょう!!曲は!!世界初公開!ようこそジャパリパークへ!です!!」
収まらぬブーイングのなか、ペぱぷたちは歌ったのだった。
~~~~
そんな中『あ』たちは会場外に連れていかれたはいいろを探して外に出ていた。
「はいいろちゃーん!どこー!?」
『あ』が大声を出してはいいろを探すが、コロネは人差し指を鼻につけて囁いた。
「しー!レトリバーさん…そんなに大声を出したら研究員に見つかっちゃいますよ…!」
「た、確かにそうね…」
そんな二匹にプリンセスが意見する。
「ねえ、犬らしく臭いで探してみたら?」
『あ』はハッとした顔になると、鼻をクンクンさせしきりに辺りの臭いを嗅ぎだす。
「あっちから臭いがするわ!」
ゴールデンレトリバーの嗅覚はやはり卓越している。四つん這いになって臭いを辿る『あ』。残りの3匹はそれに付いて行くと、そのうち『あ』は立ち止まった。
「ここから向こうの方へ行ったみたいね…アライさんの臭いもする…」
『あ』は立ち上がるとドームの反対の方向を指差す。
「そっちはじゃんぐるちほーの方角ね。」
プリンセスは言った。
『あ』はコロネを少し見た後、プリンセスとカラカルの方を向き、言う。
「プリンセスさん。カラカルさん。私達は臭いを辿ってはいいろちゃんを追いかけます。良ければあなた達もいっしょに来てくれませんか?」
「もちろんよ!アンタが困ってるなら助け合うのが…」
カラカルは二つ返事で了承しようとしたが、プリンセスがこれを遮った。
「ダメよカラカル。私達は行けない。」
カラカルは、なぜ行けないのかと反論する。
「タグがあるからよ。これのせいで位置がバレてしまう。『あ』とコロネはこれがないから逃げるのが比較的容易だけど、私達が付いて行ったら難しくなるわ。」
カラカルは納得して残念そうな顔に変わると、『あ』達に別れを告げた。
「『あ』…ゴメンね、付いて行けなくて…いままでありがとう。感謝してるわ。」
続けてプリンセスも言った。
「私からもありがとう。必ず逃げ切って、パークから脱出するのよ!」
「プリンセスさん…カラカルさん…離れても、ともだちですから!」
コロネは若干涙目になってそう告げると、足早にじゃんぐるちほーに向かって行った。
すると、
「ちょっと待って!!」
プリンセスが駆け寄って来る。振り返る『あ』とコロネ。
プリンセスは手に持っていたものをコロネに手渡して言った。
「これ…これ持ってって…!絶対役に立つから!」
「あ、ありがとうございます!」
コロネは感謝の意を伝えると手の中のものを見る。そこにあったのは先ほど動画が流れていた板状の端末だった。
〜〜〜〜
カラカルとプリンセスは二匹の犬たちが見えなくなるまでそこに立っていた。
そのうちカラカルはプリンセスにしゃべりかける。
「ねぇ……これからどうすんの?」
「わたしはみずべちほーに戻るわ。もう優良フレンズじゃないから、いつまでも帰らないとお仕置きされちゃう。アイドルにもなれなかったし。」
「そっか……残念ね……」
「…………」
カラカルはうつむき、ちらりと隣を見る。
「プリンセス?」
プリンセスは口をへの字に曲げ、上を向いてふるふる震えていた。
「ねぇ、泣いてもいいのよ」
カラカルの一言で、プリンセスが決壊した。
「悔しい゛!ぐや゛じい゛よ゛おカラ゛カル゛!!い゛っぱい゛練習したの゛に゛!あ゛ん゛なに頑張ってきたの゛に゛!!人間が!人間が!うわあ゛ああああんんん!!」
カラカルはプリンセスを優しく抱きしめた。
そして、一緒に、泣いた。
~~~~
研究員が何者かと連絡をとっている。
「もしもし、優良フレンズさんでしょうか…?あの、依頼があるのですが。」
『手短に話せ』
「え、あの、研究所からイエイヌが3匹逃げ出しまして、捕まえてほしいのです。なるべく早く。いや、今日中、20時までに。」
『写真は?』
「後で送ります。」
『生死は?』
「せいし?」
『生け捕りか?殺していいのか?』
研究員は少し悩んだが、こう告げた。
「…この際死んでても構いません。」
『わかった』
つづく
イエイヌ逃亡記録〜 from ジャパリパーク 〜 はいいろわんこ @8116dog
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