勝利の余韻


「なんと!!!二位でゴールしたのは意外や意外!!princess and prism だあーーーーー!!!!」


じょうは大きな声を上げて実況した。

princess and prism が勝ったことにより、会場からは大きなため息が漏れていた。

しかしため息はそのうちまばらな拍手に変わり、拍手はそのうちねぎらいの歓声に変わっていった。


「お疲れさまー!」

「いいレースをありがとう!」


ゴールにたどり着いたキタキツネサーバルイエイヌはゴールラインから少し移動するとその場に倒れこんだ。


「そんなぁ...ボクが...げぇむに...負けるなんて...」


キタキツネはまさに呆然自失といった表情で手を地につけた。


「あっ…」


そのとき、キタキツネの妖しく光っていた目が通常の状態に戻った。気が抜けたのだろう。フレンズのわざが解除されたのだ。


これによりサーバルと秋田犬の目が正気に戻った。


「あれ?私は......」

「そうだ私は……。」


そんなサーバルたちのもとに接戦を制した4匹が駆けつけた。


「サーバルー!私の勝ちだったようね!」

「えへへへ......負けちゃった......」


小突くカラカル。

サーバルは頭をかいて微笑むと、カラカルに言う。


「頑張ってアイドルになってね!大丈夫。カラカルならできるよ!」

「もちろんよ!」


カラカルが大きくうなずいた。

その後、『あ』が秋田犬に話しかけた。


「秋田犬ちゃん......さっきの話......」

「ゴメン。レトリバー。気にしないで......みんなが毛に戻ったのは本当だけど。人間がやったことだから。レトリバーのせいじゃないことは、私もわかってた。だから。」


秋田犬は口をいったんつぐむ。

そして『あ』の目を見て、言った。


「その分、私たちが生きないとダメ。だからレトリバー。あなたたちは逃げ延びて。ここから逃げて、自由になるの。」


「......わかったわ。」


レトリバーが小さく返事をした。


「あなたもね。」


コロネも小さくうなずいた。


タイミングを見計らって、隣にいたキタキツネがしゃべりだした。


「ゴメンよ二人とも…ボク勝手に…勝手に二人の心を弄って競争心を高めてたんだ。」


キタキツネは内緒で精神操作を使っていたことを暴露したが、操られていた2匹の反応は意外にも好意的であった。


「別にいいよ。なんか初めて本当の自分を出せた気がするし。」

「私もー!楽しかったから気にしてないよ!」


秋田犬とサーバルはキタキツネに笑いかける。

キタキツネも笑った。


それを傍から聞いていたプリンセスは『あ』達に忠告する。


「精神干渉とはフレンズの技としてもとんでもないわね…やっぱりキツネ系の子はヤバイ奴しかいないって感じがするわ…あなた達も気をつけなさいね。」


『あ』は頷くと、今度はプリンセスに質問した。


「プリンセスさんありがとうございます。そしてお疲れ様でした。あなたのこと教えてください。石動さんとはどういった関係なんですか?」


プリンセスは全てを話した。

自分たち優良フレンズは人間達に忠誠を誓ったフレンズであって、それぞれ人間から依頼を受けて行動していること。

自分は研究員から脱走したイエイヌ達の捕獲を依頼されていたが、アイドルおーでぃしょんにはずっと前から参加したかったのでいっしょに参加するよう仕向けたこと。

はいいろは1次試験で落選して現在ドームの前で待っていること。

プリンセスは卑劣なことをしてしまった罪悪感に駆られていたが、『あ』とコロネはそんなことよりも全てを正直に話してくれたプリンセスに感謝した。

コロネが『あ』に尋ねる。


「これからどうします?歌選考、やります?」


『あ』は間髪入れずに答える。


「何言ってるの!はいいろちゃんを迎えに行かないといけないでしょう?」


『あ』は足に結ばった紐を外しながら叱るように言った。コロネは不満そうな顔になる。


「それじゃあ…アイドルはあきらめるんですか?パークから出られるチャンスなのに…」

「ええ、はいいろちゃんを置いていく訳には行かないわ。コロネちゃんの『ともだち』でしょ。」


これに対してコロネは下を見ながら言った。


「いえ…あたしはアイツにひどいことをし過ぎました…辛く当たたったり食べもの取ったり…ただ名前があるのが羨ましかっただけなのに…アイツ…はいいろは多分私をともだちだなんて思ってないですよ…」


コロネは至極反省したような顔だ。これに『あ』は優しく言う。


「大丈夫。謝れば許してくれるわ。あの子も優しいから。私も一緒に謝ってあげるから。」

「レトリバーさん...」


『あ』はプリンセスとカラカルの方へ振り返る。


「プリンセスさん。本当にごめんなさい。私達は棄権することにします。」

「やっぱり、そうするのね。」


プリンセスは仕方なさそうに首を縦に振ったが、カラカルは怒っていた。

言い分としてはアイドルになる気がないなら初めから参加するな!というしごくもっともな意見であった。

しかしプリンセスがイエイヌたちは今大変危ない状況であり、その状況に陥らせたのは自分であると必死に謝り説得した末、納得してくれたようだ。


チームの了承が得られたところで、じょうのところに行って棄権の旨を伝えに行く一行。しかしじょうの反応は想定外だった。


「ダメだ!!棄権は認めない!!!」


じょうは続ける。


「ここまで応援してくれたお客の気持ちを考えろ!!!!アイドルになりたいんだろ!!」

「なりたいのはやまやまなんですけど...事情があって...」

「黙れ!!!フレンズに事情も何もあるか!!!おーでぃしょんを最優先にしろ!!!」


何を言っても聞き入れてもらえなくなってしまい途方に暮れる『あ』達。


「ねぇ...歌選考だけ受けた方が速くない?」


カラカルが言うとじょうがすぐさま賛同した。


「そうだ!カラカルの言う通りだ!選考だけ受けて!会場を大いに盛り上げろ!!!」


じょうは走って実況席に戻る。


「これより!!最終選考を!!開始し...」

「ちょっと待つのだあああああ!!」


じょうが司会進行をしようとしたところ、甲高い声に遮られる。


「誰だ!!」


じょうは声のする方向に目を凝らす。

そこには青紫色の毛皮を着て頭にアルミホイルを被ったフレンズと、耳が大きい顔を隠した桃色のフレンズ、先ほど選考で落とした灰色のフレンズと、自分の娘がいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る