勝負の行方は
一行は流されつつも、なんとか川を渡ることに成功した。
「プリンセス!レトリバー!すごいわ!」
「ハァ……ハァ……行くわよ!みんな!せぇの!」
一行は渡り切るとすぐに掛け声を上げて、下流に向い走り始めた。
プリンセスたちは向こう岸を進んでいるキタキツネたちを横目で見ながら、ついにサルスベリの木までたどり着いた。
しかしここで問題が発生した。
サルスベリの花は木の上の手の届かないところにあったのだ。メンバーの中で1番背の高い『あ』が背伸びしても腕2つ分ほどの距離が足りず届きそうにない。
「木登りとかできませんかね…?」
『あ』はそう言ったものの足が結ばっている状態では木など登れないのはわかっていた。第一サルスベリの木の表面はつるつるしているため登るのは非常に難しい。サルでも滑って登れないのだからサルスベリというのだ。
「それなら私が皆を抱えてジャンプするわ!」
カラカルはそう言って他のメンバーを抱え込む。フレンズの力なら三匹くらい持ち上げることは可能だ。しかし、持ち上げた状態でジャンプすることは非常に難しく、膝1つ分くらいしか上に飛ぶことはできなかった。
花は見えているが取ることができない。
皆どうすればいいのか途方に暮れて悩んでいたが、別のことでも悩んでいたフレンズもいた。『あ』だ。
それにいち早く気付いたのはコロネだった。
「レトリバーさん……さっきのことですか……?」
「うん、私たち……自分の置かれていた状況忘れかけていたかもしれないわね……秋田犬ちゃんの言うことがもし本当だったら、私は……石動さんのところに……」
「石動…いするぎ…ハっ!!」
コロネは何かをひらめいたようだ。
「ゆするき!揺する木ですよ!レトリバーさん!サルスベリを揺すって花を落とすんです!」
やや強引に突破口を見つけたコロネ、さっそくサルスベリを揺すってみるとぽとりと花が落ちてきた。
「やった!すごいわコロネ!」
カラカルは花を拾い上げるとコロネに目配せをした。
川の向こう岸には今にもドームに入っていきそうなキタキツネたちが見える。うかうかしてはいられない。
「花は手に入れたわ!急ぐわよ!せーの!」
「おいロイヤルペンギン。」
掛け声を上げたプリンセスに後ろから野太い男の声がかかる。
四匹がギョッとして振り返ると、サルスベリに白衣を着た男がもたれかかっていた。
「石動さん……どうして……」
「依頼ご苦労だな。レトリバーと814番はそのまま見張っておけよ、後で引き取るからな。816番はどこにいるんだ?」
プリンセスは口をつぐんだ。研究員は口調を変えずに問い詰める。
「人間に逆らうのか?優良フレンズじゃなかったのか?お前?」
「プリンセスさん……一体どういうことですか?」
コロネの問いに答えず、プリンセスはただ唇を噛んでいた。
「ねえプリンセスさん!」
叫ぶコロネ。頭を抱えて悶えるプリンセス。
「私は……私は……!!ああああ!!」
プリンセスは胸元についていた『あかし』を引きちぎると研究員に思いっきり投げつけた。
『あかし』は研究員にぶつかると軽い音をたてて地面に転がる。
「私は優良フレンズをやめる!!友達はあなたに渡さない!みんなでアイドルになってパークから出るから!行くわよ!」
「何!?おい……今……なんて言った!?」
研究員は信じられないことを聞いたような顔をしてプリンセスを見たが、プリンセスたちは構わず掛け声を上げてゴールへと向かっていった。
ひとり残された研究員は唖然として地面の『あかし』を見つめる。
「畜生共め!!また失敗だ!」
研究員が声を上げたときにはチームはすでに川を渡り始めていた。
〜〜〜〜
「じょうこのパパはここかー!?」
会場の屋内をアライさん達が捜索中だ。
アライさんの捜査方法は単純極まりなく目についたドアを片っ端から開け、調べていくというものだった。
「アライさーん。どうやらここは倉庫のようだねー。ここにもヒトの気配はまるでないよー」
フェネックはアライさんに呼びかけるが、アライさんは気にも留めずにずんずん奥へ進んでいった。
離れるわけにもいかないので、フェネックはアライさんについて行く。じょうことはいいろもついでについて行った。
「段ボールの中に隠れているかもしれないのだ。よく探すのだ。」
「……」
アライさんはそう言うと倉庫の段ボールを開けて中身を取り出し調べ始めた。
フェネックとはいいろ、そしてじょうこは後ろからアライさんが段ボールから取り出すものを見ていた。
アライさんがはじめに取り出したのは固そうな紙のようなものだった。
「フェネック?これは何なのだ?」
「ははーん。これはうちわだねー。人間はこれを扇ぐことで風を起こして涼をとるのさー」
「じゃあ手がかりではないな」
アライさんはうちわをポイ捨てした。
はいいろは投げ捨てられたうちわを見てみると、そこにはフレンズの絵が描かれていた。
誰だろうと思いはいいろはうちわを覗き込む。
はいいろは驚愕した。そこには先ほどオーディションで出会ったコウテイが描かれていたからだ。
「これって……?」
はいいろは隣にいたじょうこに尋ねる。
「ああ!そいつはコウテイペンギンのコウテイだな!!今度パパがプロデュースするアイドルだ!!すごいだろ!!」
じょうこは自慢げに言った。アライさんが投げ捨てた色違いのうちわを拾い上げ、じょうこは説明を続ける。
「こいつがジェンツーペンギンのジェーン!!で、こいつがイワトビペンギンのイワビー!!そしてこいつがフンボルトペンギンのふるるだ!!!この四匹でぺぱぷっていう、フレンズ初のアイドルユニットを作るんだって!!!あたしのパパはすごいだろ!!」
「……え?」
はいいろは絶句した。まだアイドルおーでぃしょんの途中であるのになぜじょうこはそんなことを知っているのか。いや、それよりもまだ決まっていないアイドルのうちわがあること自体おかしい。はいいろはフェネックに意見を求めると、フェネックは遠い目で答えた。
「ははーん。どうやら最初からおーでぃしょん勝者は決まっていたみたいだねぇー。どうするー?アライさーん?」
フェネックは続けてアライさんに意見を求めた。アライさんは探っていた手を止め、眉を吊り上げ声を荒げて言った。
「これは許されることではないのだ!!!!」
〜〜〜〜
一方会場内では。
まだ紐結びができていない3チームはあきらめモードでひもをいじくっていた。しかしそんな彼女たちを気にとめる観客は一人もいない。観客は皆スクリーンに映された2つのチーム、あるいはすでにゴールしたぺぱぷのヒーローインタビューに夢中だったのだ。
「ズバリ本日の勝因は!!なんだと思いますか!!?」
「やはりチームメンバーがいてこそのものですね。私一人では今日の勝利はなかったと思います。つらい練習にともに耐え抜いてきましたしその成果が出てとてもうれしいです。」
「素晴らしい!!素晴らしいです!!!」
ヒーローインタビューのさなか、新たなチームが会場に戻ってきた。じょうがすかさず実況に戻る。
「おっと!!!ついにキタキツネサーバルイエイヌが会場に戻ってきたぞおおおおおお!!!!」
会場が一気に沸き上がった。
「キタキツネ!キタキツネ!キタキツネ!」
鳴りやまないキタキツネコールに応えるようにキタキツネチームが進んでゆく。
キタキツネたちがトラックの半分まで進んだあたりで、チームprincess and prism も会場に入ってきた。
そのペースは明らかにキタキツネたちよりも早く、みるみるうちに差が詰まってくる。
会場からどよめきが起こる。
「キタキツネー!負けるなー!」
「がんばってーーーー!」
残り50メートルほど。プリンセスチームがキタキツネたちを今にも抜かしそうなところまできた。
「おおーっと!これは!接戦だー!!果たして!?どちらが勝つのか!?!キタキツネは逃げ切れるのか!!??」
じょうの実況に合わせて、観客の声援が一段と増す。
「キタキツネーー!!!」
「ファイトーー!」
キタキツネはみるみる焦った表情に変わっていくと隣にいた秋田犬に何かを吹き込んだ。
次の瞬間。なんと秋田犬は隣を走っていた『あ』に足をかけたのだった。
「わっ」
つまづく『あ』。にやつく秋田犬。
みるみるうちにレトリバーの体は前のめりに傾いてゆく。
転倒が目前に迫ったそのとき、プリンセスが『あ』の背中の毛皮を引っ張り体勢を立て直した。
「あ!プリンセスさん……ありがとう……」
「お礼はいいわ。あと少し!頑張りましょう!イチニイチニ……」
そのままprincess and prism はキタキツネたちを抜かし、見事二位でゴールインしたのだった。
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