あきらめてはいけない
princes and prism 一行は順調に歩みを進め、橋まで残り半分という地点までたどり着いた。
前方のキタキツネサーバルイエイヌとの差は徐々に縮まってきていて、あと数分で抜けそうな位置まで来ていた。
四匹の掛け声が次第に大きくなっていっていくのが分かる。
しかしここで、コロネが異常に気付いた。
「あれ?前のチーム止まっている……?」
コロネの発言に皆が前方のチームを注視する。
確かにキタキツネのチームの一番左端のフレンズが地面にうずくまって、止まっているように見えた。
「……ちょっと様子を見てから抜かしましょうか。」
プリンセスの発言に同意する一同。
しばらくして『あ』達は前のチームに追いついた。
「ねえ。大丈夫?秋田犬ちゃん?」
『あ』が問いかけると、うずくまっていた右端のフレンズはすぐさまその手に持っていたものを隠した。
「いや……何でもない。私に構わないで。」
明らかに不審な態度を示す秋田犬。彼女が隠した手を見てみると赤い液体がポタポタと流れていることに気づく。
「秋田犬ちゃん……それ、血?」
「何でもないから!!」
秋田犬は声を荒げて手を隠すが、その拍子に手に持っていたものを落としてしまった。
落ちたものはなんと赤いバラの花であった。
「これ…赤い花…?ねぇ……これどこで」
プリンセスがバラに手を伸ばそうとしたが、すぐさま秋田犬に引っ込められる。
「これは私達のよ!」
プリンセスは困惑した。この三匹は少なくともアイドルになる気などさらさらなかったはずである。なぜ血を流してまで赤い花を死守しようとするのか。
そう思ったとき、秋田犬が涙ながらに叫んだ。
「レトリバー!あんた研究所の仲間がどうなったか分かってるの!?」
『あ』はびっくりして秋田犬を見た。秋田犬は声を荒げて続ける。
「マルチーズもグレーハウンドもパグくんも!ハスキーもチャウチャウちゃんもセントバーナードさんも!みんなみんな毛に戻されたの!全部アンタらが逃げたから!その責任だって!人間がやったことだから仕方ないって思ってたけど!あんたのせいだと分かった!
だからあたしはここで勝って!皆の仇を討つ!あんたにこそ毛に戻ってもらう!」
レトリバーはしばらく黙って聞いていたが、そのうち目を妖しく光らせながらほくそ笑むキタキツネに気付き、言った。
「……秋田犬ちゃんにこんなこと吹き込んだの。あなたね?」
キタキツネは全く悪びれずに言った。
「そうだよ。フレンズの技だよ。ちょっと闘争心を煽ったんだ。」
なにか異常なことを感じ取ったカラカルは真ん中にいたサーバルに問い詰めた。
「ちょっとサーバル!あんたどう思ってるの?」
「カラカルには負けないんだから!!」
サーバルはカラカルに敵意むき出しで言った。どうやら彼女もキタキツネによる洗脳を受けてしまったようだ。
カラカルは軽くショックを受けた。
「キタキツネ…どうしてこんなことをするの……?アイドルになんか興味無いって言ってたじゃない。」
プリンセスは戦慄した顔で尋ねる。
「べつに。せっかくの競争げぇむ。どうせなら勝ちたいし。優良フレンズになりたいし。それだけだよ。」
キタキツネは隣の2匹に声をかけて、今から会場に戻ることを伝えた。方向転換を始める三匹。その間にもバラの花を握りしめる秋田犬の手のひらからは血が流れ続けている。
「さあ行くよ。」
三匹は方向転換を終えると、会場に向けて進み始めた。
プリンセスはただ茫然と見ているしかなかったが、急に思い出したように叫んだ。
「ちょっと待って!その花はどこで見つけたの!?」
「そこのプランターにあったんだよ」
「……!?こんなところにプランター?」
見ると、確かにそこにプランターがありバラが栽培されていた。
「カラカルさん……これって……」
「知らないわよ!こんなとこに花なんか無かった!」
princess and prism 一同は焦った。作戦の練り直しだ。あのチームはまもなくゴールしてしまうだろう。コロネはプランターのバラを摘む提案をしたが、優良フレンズがこれを断った。そうなればカラカルの言うサルスベリの木まで行くしかない。
しかしそこまでたどり着くまでには上流にある橋を渡る必要があり、単純に計算して今までの三倍の距離を進まねばならない見込みである。
「どうやっても間に合わないじゃないですか……」
コロネは完全にあきらめていたが、ここでプリンセスが一つ提案をした。
「こうなったら川を泳いで渡りましょう!」
しかしこの提案はそうやすやすと受け入れられるものではなかった。
「そんなの無理に決まってるでしょ!あたし泳げないし!泳げても足がむすばったまま川を渡るなんていくら何でも危険すぎるわ!」
「あたしも水が怖いです……」
カラカルとコロネは泳げなかったのだ。
「『あ』!あなたは?」
「私は泳ぐの大好きで得意ですけど、やっぱり危ないと思います。」
『あ』は相変わらずの心配性であった。
「それでも私はこの方法しかないと思う。フレンズによって得意なことは違う。私は頭が切れる優良なフレンズなんかではなくて、泳ぎが得意なフレンズなの。みんなを担いで、安全に向こう岸までたどりつかせてみせるわ。みんな、私を信じて。」
プリンセスの決意に満ちた目を見て、『あ』は口を開いた。
「分かりました。みんな、プリンセスさんを信じましょう。私も手伝います。こういうのはどうでしょう。」
『あ』は自分とプリンセスがうつぶせで泳ぎ、その上にカラカルとコロネを仰向けで乗せることを提案した。こうすれば全員の足を結んだまま泳ぐ体勢を整え、なおかつ泳げない二匹を水につけることがなくなる。
コロネとカラカルは多少の恐怖心もあったようだが、頷き、作戦に同意した。
体勢を整えるため『あ』はカラカルと、プリンセスはコロネと背中を合わせた。
「信じてるわよ。『あ』」
「信じてます。プリンセスさん」
二匹は無言でうなずくと、勢いよく川に飛び込んだ。
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会場では。
「チームぺぱぷ!今ゴールテープを!!切ったー!!見事一着でゴールです!!!素晴らしい!圧倒的なチームワークを見せつけました!!」
じょうの実況に会場が沸き上がる。
完走したぺぱぷたちは疲れたのかその場にへたり込んだ。
「いやあー!お疲れ様です!まさかこんなに圧倒的な強さを見せつけるとは予想外!会場の皆さま!どうぞ彼女らに暖かい拍手をお送りください!」
会場から盛大な拍手が鳴り響く。
ぺぱぷたちはそれに応えて手を振った。
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