プリンセスの決意
サバンナちほーは若干ゃ草が生えており、ところどころに低木が生えている地域である。
会場から出て少し進んだところにはじょうの言っていた通り、看板があり、その後ろには川が流れている。
風が草をなでる音と、川がゆっくりと流れる音が優しいハーモニーを醸し出していた。
看板の前には先行していたチーム、じゃんぐるすたあがいた。じゃんぐるすたあの面々は難しそうな顔をして看板を読もうとしていた。
「なんて書いてあるのか、ぜんぜんわからん!」
「文字は読めないゾー!」
「ねえねえ、看板って地面から生えてるみたいで、おもしろいよね!!」
どうやら、誰も文字を読むことはできないようだ。コツメカワウソは読む気すらないようだが、そのうち彼女がある発見をした。
「あれあれ〜?ねえみんな!この看板矢印の形をしてない?」
これを聞いたじゃんぐるすたあの面々はすこし離れて看板を見てみた。確かに看板は矢印の形をしている。そうなれば彼女達の選択肢は矢印の方向に進むしかないのであった。
〜〜〜〜
少し遅れてprincess and prism が看板の前に到着する。
「イチ、二、イチ、ニ…ストップ!」
プリンセスの号令で一行は止まった。看板に書いてある文字を読もうと一同は試みる。コロネは『あ』に読んでもらうよう頼もうとしたが、ここでもプリンセスがしゃしゃり出て来た。
「文字なら私に任せて!優良フレンズになるためにいっぱい勉強したから!」
しかしプリンセスは看板の文字を見た瞬間固まってしまう。しばらくしてプリンセスは蚊の泣くような声で伝えた。
「えっと…じょうからのメッセージだわ…」
「それで、なんて書いてあるの?」
「えっ。それは…」
「言えないようなことなの?」
カラカルがプリンセスに詰め寄る。たじろくプリンセス。実は彼女は漢字が読めなかったのだ。しかし皆の前で読めると言った手前、読めないと言う訳にはいかない。プリンセスが適当に書いてありそうなことを言おうとしたとき、右からカラカル以外の視線を感じた。コロネのものだ。
コロネと目が合うプリンセス。彼女は何かを訴えかけているようであった。目の中からは相手を励ますような、何か応援するような意味合いを感じる。
コロネに応援される筋合いなどないと思っていたプリンセスだが、コロネは見透かすようにつぶやいた。
「フレンズによって得意なことは違うと思います」
プリンセスはハッとした。
自分が先程のコロネと同じことをしていると気づいたからだ。自分の小さなプライドを守るために仲間に迷惑をかけるのより、プライドを捨てて仲間に頼る方が絶対にいい。それは先程わかったことだ。
しかし彼女は怖かった。文字が読めないとなると優良フレンズとしての沽券に関わる。加えてそれがバレてしまえば皆が自分にとる態度は一変してしまうのではないか。
優秀なフレンズとして見られていたいというどうしようもない想像が彼女を支配していた。
頭を抱えるプリンセスに『あ』は優しく言う。
「プリンセスさん…私はあなたのこと、みんなのためにチームを引っ張ってくれるあなたのこと、ともだちだと思っています。だから、あなたが困っているなら、助けたい。」
「レトリバー……」
彼女が右を見ると、2匹のフレンズが力強く頷いた。プリンセスは決意を固め、メンバーに頭を下げて言った。
「ごめんなさいみんな!私この文字読めないの!」
プリンセスは言い切ると手で顔を覆い、膝から崩れ落ちてしまった。足がむすばっているので当然両隣にいた『あ』とコロネも一緒に倒れてしまう。
「いいんですよ。プリンセスさん。正直に言ってくれて、ありがとうございます。」
しかし転げた犬たちはプリンセスを責めず、ただやさしく頭をなでた。
プリンセスのプライドは確かに崩れた。しかしそれ以上に大切なものを彼女は手に入れたのだ。
カラカルは倒れた三匹に声をかける。
「ねえ、感傷に浸ってるところ悪いんだけどさ、看板の文字はなんて書いてあるの?あんたが読めなくちゃ誰が……」
「それなら、私が読めます」
カラカルが言い切らないうちに『あ』が立ち上がって言った。
「赤い花を持って会場に戻れ!!じょう。と書いてあります。」
「赤い花…?花なら何でもいいってこと?」
コロネもゆっくりと立ち上がる。
「てっきりもっと難しいお題だと思ってた」
コロネは膝についた砂を払うとプリンセスの方を見た。
「……そうね。」
プリンセスは神妙な面持ちで立ち上がる。
「ともだちみんなで力を合わせて、会場に戻りましょう!」
おー!と掛け声が上がる。
ここでプリンセスは軽く咳ばらいをして『あ』の方を見た。『あ』が訝しげな顔でプリンセスを見返すと、彼女はゆっくりとしゃべり始めた。
「えと……ありがとう。『あ』。」
「え?なんのことですか?」
思わず『あ』は聞き返した。
「もう!漢字を読んでくれたことよ!感謝してるわ!」
プリンセスは少し顔を紅潮させて言った。当の『あ』はにこりと微笑みをかけた。
「いえいえ、ともだちですから。」
プリンセスは顔をさらに赤くして慌てた様子で本題に戻した。
「次の目的地のことだけど!赤い花が生えている場所、カラカル知らない?」
このあたりの地形に詳しいカラカルは少し考えこんでから言う。
「そうね……確かちょうどこの川を越えた先にサルスベリの花が咲いているはずよ。」
看板の向こうに目を凝らしてみると、確かに赤い花をつけた木が見える。
さっそく行こうと川の方に向きを合わせるプリンセスにカラカルは付け加えて言う。
「ちょっと待って!川を渡るには橋を渡らなければだめよ!だからまずは橋へ向かって進むの!」
プリンセスが川の方を確認する。流れこそほとんどないが川幅は30メートルくらいはあり、そのまま突っ切るのは難しそうだった。
「橋ってどれくらい離れているの?」
プリンセスはカラカルに質問する。
「ここから私の足で5分くらいよ。この状態なら15分はかかりそうね。」
「わかったわ。行きましょう。」
プリンセスが歩調を合わせるために掛け声をあげようとすると、看板の後ろから別のチームがやってきた。チームぺぱぷだ。どうやら川を泳いできたみたいだ。
驚く一同。手にはサルスベリの花を持っている。
呆然と会場の方へ過ぎ去るぺぱぷをながめていると、『あ』が疑念の声を上げた。
「おかしい…いくら何でも早すぎるわ…」
疑心暗鬼になっているレトリバーをプリンセスが励ます。
「大丈夫よ!ほら向こう見て!」
プリンセスが指さす向こうを見ると、かすかに橋の輪郭があり、ぼんやりとフレンズたちの陰が見えた。
「まずはあそこに行きましょう。前にいるチーム……キタキツネたちは、頑張れば抜かせるわ!そしたら2位で選考を通過できる!行くわよ!せーの!」
イチ、ニ、と声を上げ、再び進み始めたprincess and prism 。そのペースは先ほどよりも明らかに速く、まさに一丸となって進んでいる様子であった。
一方、会場の中継画面から様子を見ていたじょうは、何者かと連絡を取り始めた。
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