第36話 ミミックNPCと遭遇!【後編】
「そうだ、ねえ知ってる? 今度の土曜日、アイドルが慰問ライブで『TEWO』の中に来るんだって」
「慰問ライブ?」
王都に戻る直前、エルミーさんが斧を肩に載せて教えてくれた。
一ヶ月に一度、『TEWO』内の人を元気づける事を目的に、人気アイドルや人気声優によって『慰問ライブ』や『トークイベント』が行われるそうだ。
なるほど〜、定期的にリアルとかけたイベントが行われるのね……。
そういうイベントがあればゲーム不慣れな人もテンション上がっちゃうかも?
国営ってすごい。
「なんと! 今回来るのは世界に羽ばたく天下無敵のパーフェクトアイドル集団! 『
「「「…………」」」
「あっれぇ!?」
え、えーと…………くらうん……声優の、くらなしゆず、さん……だ、誰?
いや、アイドルとか声優さんなのね、うん。
「…………す、すみません……芸能人とか、よく知らなくて」
「うっそん、日本国内にそんな子いるの? 名前くらいはさすがに聞いたコトあるんじゃないかなー? 空風マオトとか」
「あ、はい、その人の名前は聞いた事あります!」
でも顔は浮かばないよ!
全ての女子高生がアイドルを知ってると思ったら大間違いだよ!
でもアイドルのステージ衣装はちょっと興味あるな!
なんかこう、キラキラしたイメージ!
「蔵梨柚子は!?」
「すみません……」
「ショックゥ……」
「なんであんたがショック受けるんだよ?」
「えー、だって私ファンだしぃ〜。推しの知名度低いと悲しいじゃーん」
「そういうもんなん? おれも声優とかよく分かんねーからなぁー」
「んもぅ! せっかく教えてあげたのに〜! まっ、当日しっかりチェックしてファンになれば許してあげる! 蔵梨柚子はマジでおすすめだから〜!」
とキャピキャピしてるエルミーさん。
声優かぁ……本当にあんまり興味がないんだよなぁ。
でも『蔵梨』……って、偶然?
私の高校の後輩にも『蔵梨』さんがいるんだよね。
私と同じように服のデザインに興味があるとかで、被服デザインコンクールにもよく参加している。
多分、学校で唯一私と会話してくれた後輩だ。
下の名前まで覚えてない。
そこまでは親しくなかった。
でも、デザインに関してはよく話した……優しくて良い子だったな……。
「…………」
「バアルさん?」
ボーッとしてる?
いや、なんか……怯えている?
なんとなくその表情が気になり、声がけだけでなくそっと腕に触れてみた。
ビクッと、バアルさんの体が震える。
「あ、は、はい……だ、大丈夫です……か、帰るんです、か?」
「はい。今日はもう遅いので……」
「おれもそろそろリアルに帰らないとな〜。ステータス空腹になってる。リアルの体、食事推奨んなってるよ〜」
「そんな事になるんだ……」
つまりビクトールさんは初めて会った時、それをガン無視してたわけですね?
ううう、本当に申し訳ない事をしたわ。
「!」
チナツくんが取り出したのは……は? 絵画の額縁……?
それをどうするんだ、と見ていたら──……。
「じゃあ、また明日!」
「へ? あ、あの、ちょっと!?」
「あー、大丈夫大丈夫」
軽〜い感じとゆる〜い笑顔でエルミーさんが手をパタパタさせる。
なにが大丈夫!?
なにに使うの、そんなもの!?
「ほっ」
自分の頭の上へ、額縁を掲げたチナツくん。
待って。
まさかでしょ?
そんな、まさかでしょ!?
「まったな〜!」
ぱっ、とチナツくんが手を離す。
すると額縁が落ちる。
落ちた額縁をくぐったチナツくんの姿は消えた。
額縁も地面に落ちると、即、消える。
「「………………」」
「あ、あの子、ログアウトアイテムなかなか斬新なの選んだね……」
「まさかの選択式!?」
エージェントプレイヤーにはログアウト出来るアイテムがある、とは聞いた事があったけど……ログアウトアイテムって種類があるの!?
「普通にペンダント式のやつもあるんだよ。私はこんなの」
「あ、かわいいですね」
「アレ選んだ奴は初めて見た」
「……」
チナツくんだからな……と、口にしそうになったが、理由になってないのでやめた。
この短期間に私の中のチナツくんの立ち位置がだいぶおかしな事になっている。
本人の自業自得だけど。
「じゃ、おやすみー!」
「おやすみなさい。今日はありがとうございました」
武具の試しも出来たし、宿舎に帰ってからご飯を食べる。
ロディさんに今日の出来事を説明すると、カルマ値の高いプレイヤーがいるなら、そのプレイヤーが捕まってから『桜葉の国』にいった方が良いのではないか、と心配されてしまう。
やっぱりその方がいいのかなー?
「バアルさんはどう思いますか?」
「え、あ……ぼくは、早く魔法を覚えたい、かな。今のままだと役立たずだし」
「そうですか……。私も早く『桜葉の国』に行ってみたいんですよね」
「それなら今日会ったエージェントに頼んで、護衛してもらいなよ」
えー、ロディさんったらしれっとそんな事を……相手の都合もあるでしょうに。
ましてエージェントプレイヤーは基本ボランティア。
リアル優先に決まっている。
しかし、一応お願いのメッセージだけは送っておこうかな?
ビクトールさんも平日夜ならたまに来るって言ってたから、一応……送るだけ……。
「…………でもビクトールさんは足手まといなような……」
「誰ですか?」
「私が最初に知り合ったエージェントプレイヤーなんですけど、ゲームに不慣れな人で強いんですけどあらゆる方向でダメなんです」
「ど、どういう事ですか……?」
主に手加減とか手加減とか手加減とか。
「あれ」
しかしメッセージを送るとまさかの返信!
『明日の朝から、知り合いのエージェントがログインするので頼んでおくよ』との事。
ついでに『彼はゲーム歴が長いエージェントプレイヤーだから、きっと頼りになると思う』と続いている。
ビクトールさんがアレすぎるだけだと思う!
とは、言わないですけど。
「……エージェントプレイヤーって、結構たくさんいるんですね?」
「そうですね?」
「普通は知り合ってもそんなに手伝ってもらえないよ。アンタが特殊なんだ」
「え……そ、そうなんですか?」
「まあ、エージェントが増えてきているのは間違い無いけどね。それでも強いエージェントは比較的限られてる。元々ココのプレイヤーだったエージェントが、後輩や知り合いを慮ってエージェントになるケースが増えてるとは聞くけど」
「…………」
そういうパターンもあるのか……。
あれ、それじゃあ……。
「私がもし、リアルに戻っても……あんことだいふくにはまた会えますか?」
ご飯の顆粒を食べ終わったあんことだいふくが、私に名前を呼ばれて顔を上げる。
キラキラした大きな瞳。
『抱っこしてくれるの?』と言わんばかりのその表情に、つい、二匹を抱き上げる。
「みぃ!」
「きゅーん」
もふもふした体に、顔の両側を挟まれる。
少しざらざらな舌が頰をぺろぺろ舐めるのでくすぐったい。
ああ〜、あったかいしもふもふだしふかふかだしかわいい〜!
「『ファンタジー・オン・エンヴァース・オンライン』ってゲームがあるのは知ってるかい?」
「……はい。このゲームのモデルになったゲームですよね? でも、持ち物は持ち込めないって……テイムしたモンスターも、ダメ、ですよね?」
「その辺りは王妃様や国王陛下にお願いして預かっておいて貰えばいいんじゃないかい? アンタがリアルに帰って、『FOEO』で遊ぶ時、事情を知ってるあっちの王妃様や国王陛下からあんことだいふくを送ってもらう事は可能なはずだよ」
「!」
そう、なんだ……出来るんだ……?
すりすりと頰を寄せてくる、もふもふの私の仲間たち。
「まあ、けど無理はしない方が良い。リアルに帰るのはお金を貯めてから、なんだろう?」
「あ、は、はい。……まだ全然貯められてないです」
「そうだねぇ……持ってると使っちまうっていうんなら、冒険者支援協会に持っていくと良い。預け入れも出来るからね」
「……もしかして、銀行口座も作れたり……?」
「ああ、大手から地方の銀行や信用金庫の口座を作れるよ」
「え、ええ!? このゲームそんな事も出来るんですか!?」
出来るんですよ、バアルさん。国営なので。
泣き虫な私のゆるふわVRMMO冒険者生活 もふもふたちと夢に向かって今日も一歩前へ! 古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中 @komorhi
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