第35話 ミミックNPCと遭遇!【前編】


「こんなに……良いのかな?」

「本当ですよね。でもせっかくだからありがたくもらっておきましょうよ!」

「う、うん……そうですよね」


 バアルさんと私、あとチナツくんも、ガンズさんに防具を作ってもらった。

 そう、新しい装備……つまり!


「試したい試したい! 新しい装備試したい〜!」

「くっ……今回ばかりはとても気持ちが分かる……!」

「ぼ、ぼくも……」

「みぃ!」

「あぉん!」


 ぴょん、と肩に乗ってくるあんことだいふく。

 ふわぁ、とした毛が両頬を包んでくる……くっ、もふぅ!

 これは、行くしかない。


「マッピングで、行けるところまで国境に近づいてみましょう!」

「さんせーい!」

「は、はい! ぼくも杖のスキルツリーを覚えられるように……なりたいです」


 おお、バアルさんもやる気になってくれている!

 これは、行くしかない!

 私がリーダーで、パーティーは結成済み。

 地図を開き、『桜葉の国』がある北の国境付近への街道を辿り、行った事のある村を選択する。

『タモの村』……ここでは田んぼを荒らす害鳥の駆除のクエストで行った事があるな。

 同じクエストは村からも受注する事が出来るので、とりあえず今日はこのクエストを受けてみるのはどうだろう?

 提案してみると、二人とも異論はないとの事。

 本格的にパーティーとして国境を目指すのは、明日!

 あ、でもチナツくんは平日の夜しか動けないんだっけ。

 まあ、手前の町や村でミミックNPCと知り合えればチナツくんがいなくてもなんとかなるし?


「行ってみよーう!」


 転移!

 ぽちり、と地図をタップすると、一度来た事のある『タモの村』にいた。

 ほおー……ここは、村の入り口だね。

 転移するとこうなるんだ〜。


「クエストを受注しに行こう」

「おう! 行こう行こう!」

「みゅー!」

「おぉん! わおん!」

「んもう、跳ねないで! 危ないっ!」


 私がテンション上がっちゃったから、あんことだいふくもぴょんぴょん跳ねる。

 前にそれで転んだ事があるので、飛び跳ねるのだめ!

 叱ればちょっとだけ落ち込んだ顔をされる。

 くっ、可愛い……!

 でも飛び跳ねるのは危ないのでだめです。


「村でのクエストはどうやって受けるんですか? シアさん」

「依頼人のNPCがいるんです。えーと、確か村の真ん中辺りに…………」


 私がパーティーリーダーだからしっかり誘導しないとね!

 村の真ん中の辺りにいる、女の人のNPC。

 彼女に「なにかお困りな事はありませんか?」と聞くと、やはり「実は田んぼに害鳥が出て困っている」と返事がきた。

 うん、やはり受けられるみたい。


「そうだわ、あなたたち、冒険者なら田んぼの害鳥を倒してくれない? 十羽程倒してくれれば報酬を出すわ」

「もっと多くても良いよ!」

「ちょっ! チナツくん!?」


 なに勝手に討伐数引き上げてるの!?

 慌てて否定しようとしたが、NPCは「まあ、頼もしい! それじゃあ五十羽くらい倒してくれるかしら」と笑顔で言って、目の前にピコン、とウィンドウが表示された。

 くっ……遅かった……やってしまったっ!


「チナツくんはエージェントプレイヤーを目指してるんだよね?」

「一応?」

「プレイヤーの邪魔をするなら『その資格ありません』って伝えるよ」

「え! じゃ、邪魔とかしてないよ!」

「まだ刀のスキルツリー覚えてないでしょっ! 五十羽って絶対大変だよ!」

「え、え〜っ。だって十羽とかあっという間だよ〜。おれが全部やるから……」

「全部やられたら私たちの熟練度がなくなっちゃうでしょっ!」

「えぇ〜……」


 ゲーム初心者は黙ってて!

 と叫びたいけど、私もゲーム開始一ヶ月の若輩者。

 とはいえ、クエスト依頼は出てしまった。

 断るとまた会話を最初からやり直し……。


「緑の髪に、黒い狐と白い犬のテイムモンスター……。へぇ……君がそうかな?」

「?」

「そのクエスト受けなよ! 手伝ってあげるから」


 顔を上げる。

 声をかけてきたのは……白いカーソルの、NPC?

 大きな斧を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべている。

 装備も、少し特殊なように思う。

 毛先の赤いピンクの髪に、ピンクの冒険者服。白い鋼の胸当て。

 ミニのプリーツスカートに、ニーハイソックスとニーハイブーツ。

 可憐な少女のようだけど、持っている武器はエグいなぁ……戦斧なんて、この辺りでは初めてみたかも?


「え、えっと……」

「私はエルミー! 冒険者だよ。まあ、先にクエストを受けると良いよ」

「あ、は、はい! ……受諾、します」


 五十羽……。

 重くのしかかる、その数。

 幸い期限やクエストペナルティーはないものの……これ、夜の十時まで終わるのかなぁ?


「パーティーに誘ってくれる?」

「あ、は、はい。えっと、勧誘、エルミーさん」

「ん! よろしく〜」


 なんかこの人もNPCっぽくないNPCだな。

 NPCにパーティーに入れろ、なんて初めて言われた。


「うんうん、全員『カルマ値』はゼロだね」

「? え? あの……」

「いやー、騙してごめんね。私、NPCのフリしてるエージェントプレイヤーなんだ。あ、事情は今から話すけど……ここじゃなんだから歩きながら話そ」

「! ミミックNPC……?」

「あれ、知ってたの? じゃあ話は早いかな?」


 こ、こんな事あるのぉ!?

 そんな、北寄りの村に来て即行でミミックNPCに会うなんて──……いや……まさか……?


「もしかして……プレイヤーを襲うプレイヤーが、近くに……?」

「! ……へぇ……そんな事まで知ってたんだ? 本当に聞いてたより優秀なプレイヤーだねー。まあ、そう。私以外にもエージェントプレイヤーがミミックして、各村や町に潜んでNPCやプレイヤーを護衛してるの」

「……そ、そんなを……」

「そんくらい派手にやらかしてくれたんだよねー、自称『切り裂きジャック』クン」

「切り裂きジャック……? それって……」


 バアルさんと顔を見合わせる。

 横を向いた事でだいふくのもふもふに邪魔されたので、気持ち良いけど緊張が緩むので二匹を地面に下ろす。

 あとで絶対もふろう。

 ……じゃ、なくて……。


「そう名乗ってるの! まあ、だからこの辺りに来たらミミックしてる私みたいなエージェントがパーティーに入るから」

「そうなんですね……じゃあ、他の町や村も……?」

「うん、町とかちょっと大きいところも二人くらいエージェントがミミックしてるよ」


 ……ちょいちょい「ミミックしてる」っていう表現が……気にならないでもない……。

 しかも「とっ捕まえられれば日常生活に戻れるんだけどぬぁ〜」と間延びした声で言う。

 日常生活犠牲にしてまでエージェントやってる人なの?

 ビクトールさんは「エージェントもさすがにリアル優先」って言ってたけどな!?


「まあ、私がいるところは平和だよ。もっと北に行くと危ないかもね。まさかとは思うけど、行く気かな? 捕まったあととかじゃだめな感じ?」

「え、い、いえ……でも……」

「そんなに警戒態勢なのに、行くの危ないの?」


 私の代わりにチナツくんが問いかける。

 エルミーさんは先頭に出て、くるりと後ろ向きになって歩き出す。

 その表情はニンマリとした笑みのままだ。

 なんというか、掴みどころがない人だな。


「そんな事ないけど……ぶっちゃけエージェントって忙しいんだよね、基本社会人ボランティアだから」

「ふ、ふーん?」

「けど、暴れすぎたから自称『切り裂きジャック』クンは処刑決定だよ。処刑つってもゲームん中じゃあただの監獄行きだけどねー。悪人を裁くのは悪人に任せておけばオッケオッケー」


 え、えー?

 ……全然質問の答えになってないような?


「どういう事ですか?」

「んふふふ。……そんな事より!」


 いや! 気になるよそんなあからさまに話変えられたら!

 なんなの!?

 今の笑いは一体なんなの!?


「ここがクエストの田んぼ?」

「! あ、そ、そうです」


 辿り着いたのは村の側にある田園地帯。

 とりあえず見渡す限りは田園……。

 このとても広ーいフィールドに出る『ゾンビガラス』という害鳥モンスターが対象だ。

 弱点は『突』、『火属性魔法』。

 まあ、序盤で『火属性魔法』の攻撃魔法を使える人はいないし、この見事に実った稲穂を前に炎を使うアホはいないはず……と、信じたい。

 一応田んぼの中はプレイヤーもNPCも立ち入りが不可で、一メートル以下のモンスター……あんことだいふくは侵入可能だった。

 地味に稲へのしっかりとした配慮がなされている。


「……ゾ、ゾンビなんですか? 対象モンスター……」

「は、はい。でも物理攻撃で倒せましたよ」

「中央大陸外に出るゾンビ系モンスターは『魔法付加』を使わないと倒せないからねー」

「そうなんですか?」


 それは私も初めて聞いた。

 思わず聞き返すと、エルミーさんは笑顔で「うん」と言う。

 もしかして、エルミーさんはビクトールさんよりベテランなエージェントなのだろうか?

 いや、ビクトールさんは普通に強いけど……バトルスタイルとアバターの能力がアレなので……うん。


「あと、ゾンビガラスは割と空中の高いところまで飛ぶから、近接武器だと厳しいよチミィ」

「えー? そうかなぁー」


 ……そしてなんとなくチナツくんとエルミーさんのノリが似ていて苦手だな……。

 バアルさんは大丈夫だろうか、とチラ見すると、顔がとてもゲソってなってる。

 ……ですよね。


「まあ、ヘイトがプレイヤーに向きやすい攻撃的なモンスターだから、比較的よく降りてくるけどぉ」

「え、お、襲ってくるモンスターなんですかっ」

「は、はい。けど、この装備だとダメージはゼロだと思います」


 怯えたバアルさんに笑顔で言い切れるレベルの装備をもらった。

 それを思い出して、バアルさんも少し安心した表情。

 ……そういえば……エルミーさん、私たちの装備についてなんにも言わないな?

 序盤だとこの装備はなかなか目立つ、というか……かなり珍しいものだと思うのだけれど……。

 ちらりと見て、目が合うと微笑まれる。

 いや、微笑むというよりはニンマリと笑われる?

 なんか、今まで会った人の中では一番、なんか……うう、形容し難いな。

 でも、エージェントプレイヤー……プレイヤーをサポートするのが仕事のプレイヤー。

 悪い人では、ないはず。


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