第34話 ミミックNPC



「あ、『桜葉の国』に行くためのクエストについても教えてもらえたりしますか?」


 さすがにちょっと図々しいかな?

 と、思ったが、ガンズさんは「良いぜ」とあっさり教えてくれた。

『桜葉の国』へ行くには、三つのクエストを行わなければいけないらしい。

『クノ街道温泉』で最初のクエスト、『桜の落としもの』を受諾する。

 近くの森にたくさん宝箱があるので、その中からアイテムを探し出す。

 ただし非常に範囲が広いので、数人で探した方が効率的。

 サイファーさんが言ってたのは多分この事だ。

 そして、その落としものを持ち主に届けると続いて『梓のお願い』というクエストが発生するので、それを受諾。

 そのクエストは門番をしている兄さんに、お弁当を届けるという簡単なクエスト。

 ……と、思われるのだが、ビック種のボスモンスターと戦って勝利しなければならないそうだ。

 そして、そのクエストで門番のお兄さんは怪我をしてしまう。

 ここでお弁当を渡すとお兄さんは回復するそうなのだが、傷薬を渡すと「貴重な傷薬をありがとう」と言われて追加報酬があるそうだ。

 まあ、それは良いんだけど……そうしてお兄さんと共闘し、助けた事で実力を認められれば、『桜葉の国』への通行証申請が出来るようになる。

 最後のクエストはここ……王都へ戻り、お城にいるであろうハイル国王陛下に申請許可を頂くというもの。

 そういえばハイル様が「俺の許可が必要だからな!」とかなんとか言ってたよね。

 ハイル様の許可が下りれば、晴れて『桜葉の国』への通行が可能となる……なるほど〜!


「確かに結構難易度高い……」

「俺様も一緒に行ってやりてぇが、他の店の集金もしねーとならねぇんだよなぁ……在庫もなくなってきてるだろうし、新しい武具用に素材集めにも行かねーと」

「大丈夫です。自分たちでなんとかしてみます」

「そうか? まあ、『鍛治師』の職業スキルは今教えてやるよ。手を出しな」

「え? は、はい」


 と、手を出すと、ガンズさんに握られた。

 え? えええ!?


「? ……あれ、これ……」


 これは、前に『氷結の洞窟』前にいた魔女のおばあさんの時と同じ……?

 頭に言葉が浮かぶとかではなく、やり方のようなものが流れ込んでくる。


「よし、これで『鍛治師』のスキルツリーが開放されてるはずだ。確認してみ」

「は、はい」


 え? 嘘、これだけで?

 半信半疑だったけど、ステータスを確認したら確かに『鍛治師』のスキルツリーが開放されてる!

『鍛治師見習い』のスキルツリーもだ!

 す、すごい!?


「そこからは自分でスキルツリーを開放していけ。こればかりは自分でやる事だからな」

「はい! ありがとうございます!」

「他にも分からない事があったらこの師匠! になんでも聞いていいんだからなぁ!」

「え? ……は、はい! よろしくお願いします、師匠!」


 ガンズさんに……い、いや、なんか『オレンジスミス』に弟子入り出来たようなので、今後は師匠とお呼びしよう!

 生産職で『頂きの虹』に上り詰めた人!

 普通にすごい人だよね!


「おお、そうだ。で、モンスターについてだけどな」

「うっ……」


 くっ、忘れていたかった。

 やっぱり集めないとダメなのかな。

 聞くからにヤバそう、強そうなモンスターばかりで絶対無理だよ〜。

 あんことだいふくは『幼体』……赤ちゃんだからなんとかなったっていう感じだし。


「とりあえずいっぺん『グランドスラム』に戻って、他の奴らにもあんたの事を話してくる。んで、モンスターの居場所についても調べて連絡するわ。必要なら手ェ貸すから呼んでくれや」

「!」


 ぽん、と現れる『フレンド申請』のモニター。

 うっ、マジですか。

 うわぁ……っ、上級プレイヤーからの申請……ドキドキするなぁ。


「は、はい。分かりました……出来るだけ、まあ、その、頑張って、みます……」

「おう、頼んだぜ! マジで!」


 マ、マジでかぁ……。

 ……そんな事言われてもねぇ……?


「なあなあ、これから刀のある国に行くんだろう? おれも行って良い?」

「まあ、人手が欲しいクエストだし、うん……」


 と、チナツくんも普通についてくる事になった。

 まあ、さっき聞いた感じだと、かなりのPSがあるみたいだし、クエストの中でビッグ種と戦う事になるみたいだし……戦力になるならいてくれた方が頼もしい。


「あ、そうだ。『桜葉の国』に行くんならいっこ注意点!」

「え! な、なんですか?」

「クエストが時々、変更される事がある」

「え、クエストの内容が変更される事があるんですか?」


 聞き返したのはバアルさん。

 普通のゲームならクエスト数が増える事はあっても、重要クエストの内容そのものが変更されるなんて聞いた事がない。

 重要クエストは攻略法が鍵だ。

 その攻略方法の情報が売り買いされる事もある。


「時々『ビッグ種』の種類が替わるらしい。一番厄介なのは『ビッグランサーオーガ』。槍を持ったどでかいオーガだ。弱点は『斬撃』と雷属性の魔法だが、中央大陸に攻撃魔法のスキルを持ってるプレイヤーはまずいねぇ。エージェントプレイヤーくらいだろう。嬢ちゃんならそこの『舞剣乱闘』で優勝してる奴が仲間にいるから大丈夫だ。なにしろ俺の打った刀も持ってるしな!」

「おう! なにが出てきてもおれがやっつけるぞ!」

「そ、その自信は一体どこから……」

「けど、まあ、その……頼もしいです、ね?」

「そ、そうですね……」


 バアルさんと二人、苦笑いする。

『舞剣乱闘』ってそんなに有名なゲームなのかな。

 一応私も名前は知っていたけど。

 PSで遊ぶゲームは全然やらないからなぁ、私。

 けど、なんか「優勝した」とか言ってたし世間的には有名なゲームなのかも?


「あと気をつけるべきビッグ種ボスは『エジソンタートル』。クソデケェ魔法を使う亀だ」

「ま、魔法を使う亀!」

「弱点は『突』。あと雷属性の魔法。防御力がクソ高くて、ビギナーはこれに遭ったらまず勝てねぇ」

「やっぱり行くにはエージェントプレイヤーにパーティーに入ってもらった方が良いって事ですか?」

「知り合いにエージェントがいれば、その方が間違いねぇだろう」


 ……ビクトールさんがログインするのを、待とうかな?

 それまでクエストを進めておけば……。

 とはいえ、ビクトールさんの魔法は不安が多い。

 初めて会って以来、クエストの手伝いはしてもらうんだけど……まぁ、相変わらず色々酷いんだよね。

 主に、魔法の威力がっ。


「…………もしくは、ミミックNPC……」

「んん? ミミックNPCが出たのか?」

「え? は、はい。支援宿舎の大家さんが『桜葉の国』の国境付近にいるって……」

「マジか……。…………。そうか、分かった。俺の方でも確認しておく」

「? え? どういう……」

「ミミックNPCが出る時は『カルマ値』の高いクズ野郎が歩き回ってる事が多いんだ。まあ、NPC殺しだな……。NPCは殺してもデータが破損してなければ別な地域に復活する。だが、他の地域で殺されたNPCがその地域に復活するなんて稀だ。特定の地域からNPCがごっそりいなくなるんだよ」

「そ、それは──」


 NPCがいなくなるという事は、NPCの支援が受けられなくなるという事だ。

 なんでそんな事するの?


「多分『コレフェル』帰りのプレイヤーだな。『コレフェル』から出てきたプレイヤーは攻撃的で、クソみてぇな奴になってる事が多い。『コレフェル』と違って普通の大陸のプレイヤーは殺すと『カルマ値』が上がるだけでなく『指名手配』になる。だから普通に暮らしてるNPCを殺して憂さ晴らししてんだろ。普通のプレイヤーやNPCじゃ太刀打ち出来ねぇ」

「……っ」

「いや、分かんねーんだけど」


 と口を出すチナツくん。

 普通に「なんでそんな事をするのか」と首を傾げる。

 あと、「『コレフェル』ってなに?」……って、ああうん、そこも説明が必要か。


「『コレフェル』は無法地帯の島だって。NPCや他のプレイヤーを傷つけさせないためにある島らしいよ」

「え? じゃあその島に戻れば良いじゃん」

「ごもっとも……」


 その通りだな?

 なんでわざわざ『カルマ値』になる法治地帯でそんな事を始めたのだろう?


「満足出来なくなる奴が、たまに出るんだとさ」

「満足出来なくなる奴? なにそれ?」

「……殺しが楽しくなった奴、だよ。まあ、俺も知り合いに一人やべぇ奴がいるから、分かるけどなぁ……あいつはまだ殺す相手を選んでるから……いや、やべぇっちゃやべぇんだけどぉ〜」


 …………とりあえず危ない人なんだな……。


「つまりよ、『コレフェル』にいる奴は殺される覚悟がある奴だ。まあ、ゲームん中だから、殺しつったってただのPKプレイヤーキルだ。プレイヤーは指定の場所で復活する。それは『コレフェル』内でも同じだ。でも、なんかそれじゃ満足しなくなる奴がたまに出るんだとよ。その……抵抗されるより、悲鳴を上げて逃げ回る奴を……NPCでも、プレイヤーでも、とにかく狩りたい、って異常者がよぉ」

「……ま、待ってください……このゲームの主旨は、プレイヤーのリアルへの復帰、ですよね? そんな異常者だなんて……」


 バアルさんの言う通りだ。

 このゲームの主旨は、自殺志願者がリアルに復帰出来るよう、治療するのが目的。

 でも、それは真逆……。


「…………。お前らがなんでこの世界に逃げ込んできたのかは知らねーけど……俺みてぇな……クソクソゴミゴミって言われて、居場所をなくしちまった人間はよぉ……、自分が強ェと勘違いしたら調子に乗るわけだよ。ちっとだけだが暴走する奴の気持ちは、俺にも分かるぜ」

「っ……」

「ま、ビギナーしかいねぇ中央大陸の国境付近なんて、半端に強くて弱い、嬲るのに丁度良いプレイヤーやNPCがいる辺りを根城にしてる辺りたかが知れてるけどよ! つまり、テメェよりも確実に強ェ奴がいる場所じゃなくて、確実に弱くて逃げ回る奴がいるところを選んでんだ、ソイツァ! クソだぜ!」

「……!」


 あっさりやられない程度には、強くなっているプレイヤーが集まるところ……。

 ゾッとする。

 そんなプレイヤーが……いるなんて。


「ミミックNPCがいるっつーのはそういう事だ。支援宿舎の大家NPCがプレイヤーに情報を流してるって事は、そんだけ犠牲者が増えてるって意味もある。はっきりと言わねーのはNPCの仕様上だな。NPCはプレイヤーを立ち止まらせる事は極力しねぇからよぉ」

「そ、そうだったんですか……」

「ミミックNPCの事を先に説明したのも情報制限があるんじゃねぇかと、俺は思う。だから、調べて確認するわ。まあ、ミミックNPCに会えりゃあ、ぶっちゃけ怖いもんなしだろう。ミミックNPCもいつまでも好き放題にはさせるはずねーし」

「は、はい」

「けどまあ、ムカつくからオメーらの装備を作ってやる。ちょっと待ってな」

「「「え?」」」


 ……めっちゃ良い装備を作ってもらいました。


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