第4話 幕間 月白の大神殿



 まだ明るい空に巨大な白い三日月がうっすらと浮かんでいる。

 これは、ここでしか見えないものだ。

 この世界で最も高い山の頂に大神殿とその象徴たる尖塔がある。冷たく荘厳な雰囲気を持つ月白げっぱく色の石で作られた建物は、教会を取りまとめるものが棲む。

 尖塔の一室、全面が窓と柱で構成された部屋で紺色の着物を着た男が立ったまま分厚い本を捲っていた。塔と同じ月白の色をした紙には次々に新しい文字が浮かぶ。

『取りこぼしたレイアウトを確保しました』

 本から声が響いた。

「ご苦労さま。どちらに?」

『湖底の教会です』

「ああ、それは、まあ…………仕方ないね」

『到着前に王都が試し斬りをしたそうです』

「うぅん、あれね、視たけど…………」

 男が窓の下にずらりと並ぶ舷窓げんそうによく似た硝子の一枚に手を翳すと、荒れた荒野に倒れた荒くれ者たちの姿が映った。

「刃物使わなきゃ試し斬りって乱暴な話じゃない? 結果的に無傷だったらしいけど、あれ、下手したら大怪我するよ」

『怪我くらいは気にしないのでしょう。結果として、非力な少女の使用で撃退を果たしました』

「見ました、見ました。って、いいんだけどさ、あれ、鈍器だよね? うちでしょ」

『王都は鎌の形状から刃の可能性があるので、自分たちが欲しいそうです』

「いやいやいや。確かにどっちも人材不足だけど、刃が生えたらそっちに渡すってことで話つけてくれない?」

『………………すでに交渉しましたが、信用できないそうです』

「そうは言ってもねえ。まあ、まだまだ使えるようには見えないから時間をかけておいおい擦り合わせて行きましょ」

『その件ですが、本体に博士が直接働きかけると』

 男は真顔でばっさりと言い切った。

「いや、駄目でしょ。博士は人の気持ちなんかわからないし」

 彼は開いたままの本をサイドテーブルに置くと、何かを払うように左右に大きく手を振った。

 部屋中の窓と舷窓が紺色に染まり、無数の星のような煌めきがチカチカと点滅する。

「女の子ねえ…………私、未来とかも少し視えるけど、あの子は戦わないねえ。

 いつも思うけど、こっちにはたくさんの頼りになる同志がいるんだからさあ」

 突然、輝く星のひとつが眩しく光り、消えた。

 光を受けた男の表情が薄暗い部屋で冷たく浮き上がった。

「────ほんと、だけ欲しいよねえ」

 小さな星ひとつ消えたことにどれほどの意味があったのか。ともかく、紺色の中では何事もなかったように数多の星たちが先程と変わらずに瞬き輝く。

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