第15話  相談

「なるほど、そんなことがあったのか」


恵南の話を聞き終え、彼女の事情は大体理解した。

皆の恋を応援する傍観者。

恵南が、俺が柚木のことが好きと勘違いをしてやたらと応援してくる

理由がやっと分かった。


「お前のことは大体分かった。

要するにお前が皆から告白されなければいいんだろ?」

「うん」

「だったら話は簡単だ。

恵南が周りからドン引きされる行動をたくさんとればいい」


例えばガニ股で歩いたり、常に変顔をしたり、不潔な状態を保ったりなど。

そんな行動をとれば、どれだけ可愛い女子でも男子は好きにならないだろう。

まさに完璧な案だな。


「それを女の子に提案してくるのはちょっとどうかと思うよ水原くん」


俺の提案に恵南は苦笑する。


「え、駄目なのか?」

「むしろ友達が減るよ」


結構いい案だと思ったんだけどなぁ。


「まぁ、水原くんに相談したいのは今日の昼休みの件についてなんだ」

「あの久我って奴のことか?」

「うん」


俺はあの告白現場で聞いたことを振り返る。

さっきの恵南の話に基づくと、彼女は久我のことを大切な友人の一人として

接していたが、久我は恵南と一緒にいるうちに告白するほどに

好きになってしまった。

しかし断られてしまい、恵南にいつも通りみたいに振る舞えなくなって

しまったといったところか。

二人は同じ生徒会メンバー。

必然的に生徒会室で会うことになるが、このままでは生徒会は気まずい雰囲気に

ずっと包まれることになるな。


「久我くんはこの学校で初めてできた友達なんだ。

生徒会に誘ってくれたのも彼なの。おかげで私は生徒会の皆と出会うことができた。久我くんは私の友達の中でも特別なの。だから絶対に彼との関係を失いたくない。

どうしたら、友達のままでいられるかな?」


俺はしばらく考える。

そもそも、恵南と久我の関係が壊れたとはまだ限らない。

明日の朝になると昨日のことがどうでもよくなっているということはよくあるし、

明日には久我もいつものように恵南に接してくるということも有り得る。

それは、明日にならなければ分からない。


「まずは久我に話しかけてみないとな。それをしないと始まらない。

向こうももう気にしていないかもしれないし」

「そうなのかな…………」


恵南は不安そうに俺を見る。


「俺もお前たちが元の関係に戻れるように手伝うから、まぁ元気出せよ」

「うん、ありがとう」


その日はそれで話は終わり、俺は自分の家に帰った。

次の日、普段通りに授業を受けたあと、

放課後に俺は一人教室に残って自習をしていた。

そろそろ生徒会が終わった頃だろう。

そう考えていると、教室の扉が開き恵南が顔を出した。

表情は暗く、落ち込んでいる様子から大体の結果の予想はつく。


「駄目だったのか?」

「うん。何度も話しかけてはみたんだけど、目も合わせてくれなかった」

「そっか…………」


一番いい結果はこれでなくなった。

相談を引き受けた以上、どうにかして二人を仲直りさせたい。

昨日のことは気にしてないから、これからも友達でいよう。

これで終われば苦労はしなかったのだが、それが無理なら方法を考えるしかないな。


「俺もどうしたらいいか考えておく。だから今日は帰ってまた明日にしよう」

「うん、分かった。ごめんね、迷惑かけちゃって」

「気にするな。友達の頼みだからな」


そう言うと、恵南の表情に微かに笑顔が戻った。


「ありがとう。じゃあまた明日よろしくね」


恵南は俺に手を振って教室を出ていった。

俺も帰ろうと思い、自習用具を鞄の中に入れていると再び扉が開き、

今度は柚木が入ってきた。


「あれ、なんで水原がこんな時間に教室にいるの?」

「一人で自習してたんだよ。お前は部活か?」

「うん、さっき終わったところ。水原は今から帰るの?」

「そのつもりだけど」

「じゃあちょっと待っていて。私も一緒に帰る」


柚木はそう言うとすぐに自分の机の上にある鞄の中に、

彼女がさっきまで着ていたであろう運動着が入った袋を入れた。

帰る準備が終わると、鞄を持って俺たちは学校を出た。

静かな帰り道で、俺は恵南たちのことを考えていた。

何も喋ろうとしない俺を見て、柚木が声をかける。


「どうしたの水原? 考え事?」

「あぁ、ちょっとな」

「ふーん、そっか」


もっと何か訊いてくると思ったが、柚木の反応はそれだけで、

会話はすぐに途切れた。

しかししばらく歩くと、突然柚木は歩みを止め、あるものを指差した。


「私、あれ食べたい」


俺がその指先を視線で追うと、そこにはケーキ屋があった。


「じゃあ買って帰るか」

「いや、あそこで食べて帰りたい」

「持ち帰って食べても同じだろ」


正直早く帰りたいのだが、柚木が俺の顔をじっと見てくる。


「だめ?」


そんな首を傾げて見つめられてもなぁ…………


「…………分かった。さっさと食べて帰るぞ」


とうとう俺はじっと見つめてくる彼女に屈し、

俺たちはケーキを食べにその店に入った。

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再会した彼女はお隣さん ムラコウ @kakeru01

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