第14話  恵南 奏について

私が小学生の頃、学校では女の子同士で恋バナをすることが多かった。

あの子が好きだとか、こういう人がタイプだとか。

周りの友達はよくそんな話で盛り上がっていた。


「奏ちゃんは誰が好きなの?」

「あ、私もそれ知りたい! ねぇ教えてよ」

「え、私?」


その日も恋バナが行われ、その話は私にも振られた。


「私は………………」


考えもしなかった。私は一体誰のことが好きなのだろう。

そもそも彼女たちが言う好きって何だろう。

そして気づいた。


「私は、お父さんとお母さんが好き!」



私が知っている『好き』は、彼女たちの言っている『好き』とは違うということに。



それから私は恋というものを知ろうと思い、本屋で恋愛漫画を一冊購入して

家に帰って早速読み始めた。

その漫画は、主人公の女の子がある男の子と出会い物語が始まる。

初めはその男の子のことを気にもしていなかった主人公が、

1ページずつめくっていく度に心情が少しずつ変化していき、

たくさんの過程を経て、いつもそばにいてくれたその男の子に恋に落ちる。

最後まで読み終えた私はまだ恋というものを理解はできなかったが、

この二人がこの先どうなっていくのかはとても気になった。

すぐに私はもう一度本屋へ行き、次巻を買って読んだ。

毎月お小遣いを貰っては続きを求めて本屋へ向かい、

その漫画が完結したら、新しい恋愛モノの漫画や小説を探して買って読んだ。

気づくと私は恋というものをある程度理解し、物語に登場するキャラたちが

好きな人と結ばれて幸せになっていくことに幸福感を抱くようになっていた。


「奏。彼について相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

「なになにぃ、恋愛相談? それなら恋愛マスターであるこの私に任せなさいっ!」


中学生になった私は、友達からよく恋の相談を受けていた。

今までに読んだ恋愛漫画や小説はニ百冊を超え、

当時私は恋愛について全てを知った気でいた。


「それは彼、絶対意識してるよ。これからもっとアピールすれば

きっと上手くいくと思う!」

「本当? なんか勇気出てきた。ありがとう奏」


その頃も私は今だに誰かを好きになったことはなかったけれど、

物語で主人公が想い人と結ばれるように、友達が好きな相手と付き合うことになって

喜んでいる姿を見るだけで私は満足だった。

皆の幸せは私の幸せでもあり、少しでもその人たちのために自分ができることが

あれば何でも手伝った。


私はこれから先も誰かを好きにならなくていい。

皆の恋が叶うだけで、私は満足だから。


「恵南、君のことが好きだ。僕と付き合ってくれ!」

「………………え?」


だけど私の望んでいたものは、彼の発言によって一瞬で全てを壊された。

その日も私は友達の恋愛相談に乗っていた。

すると突然、教室の扉が開いて隣のクラスにいる私の男友達である彼から

呼び出され、皆が見ている前で私は告白された。

その彼は、その時恋愛相談を受けていた友達がずっと好きに思っていた相手だった。

その告白現場を見ていた彼女の表情は今でも鮮明に記憶に残っている。


「ごめんなさい…………」


私は彼からの告白を断った。

この言葉は彼に向けてのものではあったが、同時に彼女に向けたものでもあった。

それから彼とは関わることが全くなくなり、彼女からも避けられるようになった。

私は、大切な友達を二人失ってしまったのだ。

そういう告白は、その後も何度かあった。

私はその度に断り、仲がよかったその相手と気まずい関係になっていった。

私はみんなの恋の成功を願うただの傍観者であるだけでいいのに、

どうして相手が私なの…………


「俺はお前のことが好きだ! 俺と付き合ってほしい!」


今日の昼休みの告白だってそうだ。


「どうして…………」


どうして、告白なんてしてくるの?


皆が傷つくところを見たくない。

私は皆といつまでも一緒にいたい。


どうして、そうさせてくれないの…………

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