帰還編・中

という訳で早速『あの人』と感動の再会を果たしたのですが……


「やあ、真澄ちゃん。久しぶり」


 何かスゴイ渋い感じになってるー!!


 まあ確かに以前から落ち着いた、というか暗い感じの人ではありましたが……ここまででしたっけ!?


 身長はあまり変化はないようですが、体格はすごい引き締まっていると言うか……筋肉質になってます。

 こちらを見てくる瞳も何だか悟りでも開いたかのようなものですし……兄さん、アナタはどこかの戦場で暮らしてでもいたんですか!?


「えーと……ま、真澄ちゃん?」


「す、すみません。少し感極まっちゃいまして……改めてお久しぶりです、『英人』さん」


 私はペコリと頭を下げる。

 以前は『お兄ちゃん』と呼んでいましたが、今後はあえて『英人さん』と呼びます。

 これは前々から考えていた事。

 でないといざ告白した時に「ゴメン……俺真澄ちゃんのこと妹としてしか見れない」なんて事態になりかねませんからね。


 あくまで私は一人の女という事をアピールしなくては。


 しかし改めて英人さんの姿を見ると、思わず見とれてしまいそうです。

 八年という月日が私にそうさせているのでしょうか……でもさらに私の好みに合わせて戻ってくるなんてお兄ちゃん、グッドです。


 しかし、これだと私以外にもその魅力に気付いてしまう人が出てくるかも。

 世の女性が惚れてしまう前に、私が守護まもらねばなりませんね……。



 そしてその日は、英人さんと私の家族でちょっとした帰還祝いのホームパーティーをやりました。

 主賓の隣には、もちろん私が陣取ります。


「あ、グラス空いたようなので注ぎますね」


「お、ありがとう真澄ちゃん」


 ビールを注ぎつつ、さりげなく二の腕を押し当てます。

 何千回と練習してきた動きだけに淀みはありません。


 安易に胸を押し付けたり、ビールを股間に零して拭こうとするなど愚の骨頂。

 そんなことしたら最悪ドン引きされかねません。アピールはゆっくり焦らず順序を立てて。

 世のラブコメヒロインの方たち、聞いてますか?


「しかし八年もの間に真澄ちゃんも変わったよなー。

 今大学生なんだっけ? すごく大人になった感じがするよ」


 想定通りのセリフですが、実際言われてみると嬉しいものですね。


「そ、そんなことないですよ~。ねぇ、父さん?」

(今です、父さん)


「いやー私としても娘がこんなに綺麗に育ってくれて、感無量だよ。

 それに……二人が並んでいる姿を見ると、まるで仲のいい新婚夫婦みたいだな!」

(これでよいのか、娘よ)


「もー! 何を言ってるんですか父さん!」

(グッジョブです)



 こんな感じでその後も様々な仕掛けを発動しましたが、英人さんの反応はイマイチ。

 ま、初回ですからね。今日のは今後のアピールの為の布石という事にしておきます。


 そもそも今回の本命は別にあります。

 そろそろ英人さんのご家族が話題に出してもいいのだけれど……


「なあ英人。とりあえず家には帰ってきた訳だが、これからどうするよ?」


 お義父様、ナイスです。これこそ待ちに待っていた瞬間です。


「だったら、大学受験をするのはどうでしょう? 勉強なら私が教えられますし」


 英人さんが答える前に、間髪入れずに割り込みます。先手必勝です。


「おっそうだな」


「あらいいじゃない。26歳高卒職歴ナシというのもなんだし、とりあえずやってみたら?」


 もちろん家族からの援護射撃も準備済み。

 最終的には英人さんのご家族も同意し、私が受験勉強を付きっきりで教えることになりました。

 計画通り、です。


 何せ18歳と26歳ですからね。間違いが起きても不思議ではありません。

 今は九月なので入試まで約五か月。濃密な時間が送れそうです。

 何なら一年延長してもいいくらいですしね。


 そんな訳で新生活がスタートした訳ですが……



「お、A判定取れた」


「お、お見事です。英人さん」


 ……おかしい、まだ勉強を始めてから二か月も経っていないんですけど!?

 なのに受験当時の私の成績すら超えてくるなんて……絶対におかしい。


 以前もそれなりに成績は良かったと聞いてましたが、流石にここまでではなかったはずです。

 早速訳を聞いてみます。


「実は俺、旅してる間に完全記憶能力が発現したんだよね。

 だから教科書丸暗記すれば、難問以外は何とかなるのよ」


 え、何ですかそれは……(困惑)

 そういうのって普通、後天的に開花するものじゃないと思うんですけど。

 この人、本当に「自分探しの旅」なんてしていたのでしょうか……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る