入学編・中

「学部選び、ミスったーーーーッ!!」


「ちょっ、食堂とはいえうるさいわよ!」


 午後の学食、私は思わず立ち上がって叫びます。

 テーブルの向かい側に座る友人は手で制してきますが、こればっかりは叫ばずにはいられませんとも。


 といってもこれだけではただのヤバイ人ですね。

 時にクールな一面を見せてこそのヒロイン。まずは冷静に状況の確認をば。


 ……コホンッ。


 まず私こと白河シラカワ 真澄マスミはこの四月で学年がひとつ上がり、今は早応大学の二年生です。

 そして学部は文学部。


 そう……今回の話、この文学部がネックなのです!


 この早応大学は有名私大ということもあって、首都圏各地にキャンパスを持っています。

 その中でもメインとなるのが横浜市にある『港北キャンパス』と都内にある『田町キャンパス』の二つです。

 そして主に文系学部の一二年が港北キャンパスに通い、三年に進級したら田町キャンパスへと移るのが原則となっています。


 英人さんが入った経済学部はまさにそうですね。

 しかし文系学部の中に一つだけ例外があります……それは私のいる文学部。


 何故かここだけは他の文系学部と違って二年生から田町キャンパスに通うことになっているのです!

 つまり同じ大学に入っていても、物理的に英人さんと離れてしまう状態。全く意味がない!


 なんてこった……こんなことになるなら数学をちゃんと勉強しておくべきでした。

 白河 真澄、一生の不覚ッ……!


「いやまだです……まだ慌てるような時間じゃない」


「今度はブツブツ独り言……」


 そうです、現状を悲観していても仕方ありません。

 今はとにかく英人さんに会える条件を考えましょう。


 まずは、そのままこのキャンパスで待つ場合。


 英人さんも同じ大学に通っているわけですから、進級さえすればいずれこのキャンパスにも来ます。

 しかしそれではスムーズにいったとしても、早くて二年後。

 その時私は四年で英人さんは三年……うん、遅すぎますね。


 その頃の私は就活しなきゃですし……いやもう既に永久就職先は決めているのですが。


 となると、私が直接港北キャンパスに行くしかなさそうですね。

 一応講義の選択次第でははあっちで受けることも可能ですし。


 そしてもう一つ考えられるのは……サークルですね。

 学年やキャンパスを超えた交流となると、もうこれしか思いつきません。


 入るサークルによってはリスクもありますが、そこはどう手綱を握っていくかですね。

 あんまり人数の多いサークルに入って一緒にいる時間が減ったら本末転倒ですし。


 幸い今はサークルの新歓期間。

 私もサークルには入っていませんし、一緒に探すという体でついて行っちゃいましょう!


 さあ、思い立ったが吉日です!





「え、サークル? 俺は別にいいよ」


 アカン、凶日や……っていやいや、ここで引いたらいけません!


「でもせっかくの新歓期間ですし、少しだけ見ていきましょうよ!」


「うーん……」


「これでも私、英人さんより一年先輩ですからね。

 その辺りの事情はそこそこ知っていますし、サークル選びはどんと任せて下さい!」


「んー確かに一理あるか。

 分かった、ここは真澄ちゃんに任せるわ」


「はい、任されました!

 じゃあ早速行きましょう!」


 そして私は英人さんの腕を引きました。

 うわ、私ってば大胆。


「ちょっ真澄ちゃん」


「さあさあどんどん行きますよー!」


 こうして英人さんのサークル探しの旅が始まったのでした。




「演劇サークルやってまーす!」


「手芸どうですかー!?」


「スポーツチャンバラで世界行こうぜー!」



 そして歩くことわずか数分。

 キャンパス内からは、そんな勧誘の声があちこちから響き渡ります。


 入学式からおよそ二週間の間は、サークルの募集が最も加熱する期間。

 サークルの種類によってはこの時期にしか加入できない所もあるみたいですし、入る方も誘う方も中々の熱量です。


 だからこそ、先輩である私がしっかり見極めねば。

 そもそも去年はあまりに勧誘がしつこくて、結局どこも入りませんでしたし。


「そういえば、英人さんは何か希望ありますか?」


 危うく聞き忘れそうになってしまいましたが、これ結構大事。


「まあ、比較的落ち着いてる所がいいかな

 あんまりテンション高いサークル行っても浮くだろうし」


 落ち着いた所……となると文化系のサークルですかね。

 どうしよう、私あまり詳しくない!


 去年勧誘くらったのってテニサーみたいなとこばっかだったし!


「むむ……分かりました。

 よしこうなったら文化系サークルの勧誘ビラ、片っ端から貰いに行っちゃいましょう!」


「ああそうだな……ってうん?

 なんだあれ?」


 そうして再度出発しようとした時、不意に英人さんがある方向を指さしました。

 私もそれを目で追ってみると、そこにはかなりの人だかりが。


 新歓期間中はキャンパス内どこでも混雑しがちではありますが、それを差し引いても結構な規模です。


「確かに、何でしょうね?

 イベント的なものでもやっているのでしょうか」


「せっかくだし、外側からちょっと覗いてみるか」


「ですね」


 というわけでその人だかりの所まで近づいてみると……



東城トウジョウさん、是非うちのサークルに!」


「いや、俺らのサークルにこそ!」


「ゴルフ、楽しいよー!」


「ウチのサークル、イケメンぞろいだから!」



「皆さんこんな熱心に……ありがとうございます!

 でもどのサークルもとても魅力的で、迷っちゃうな」



 それは一人の美女に大挙して群がる男たちの姿がありました。

 どのサークルもどうにかして彼女を我がサークルに引き入れようと躍起になっているようです。


「すげぇ人気だな……。

 まあ確かに綺麗ではあるが」


「ですねぇ」


 艶のある綺麗な黒髪に、大人っぽさとあどけなさが共存した美貌。

 なんだろう、「どうやったら男ウケがいいか」を計算しつくしているような女性ですね……。


 よし、昨年のミス早応は君に譲ろう。

 つまり今日からは君がミス早応大学だ!

 なぁに遠慮せんでいい、もう私にはもう必要ないものだからな。ハハハ!


 あ、ちなみに私は「どうやったら英人さんウケがいいか」を計算しつくしている女です。


 ……いやお前の計算ガバガバじゃねぇかって? それは言うな。


「でも勧誘受けてるってことは俺と同じ一年か。

 ま、語学で同じクラスにでもならない限り接点はないか」


「……英人さんって、ああいう人が好みだったりします?」


「へ?」


「あっすみません!

 今のは忘れて下さい!」


「おう……」


 おっとしまった! 

 なんかついこんなしょうもない質問をしてしまいました。

 男女問わず、こういうのっていきなりぶっこむとかなり面倒ですからね……気を付けないと。


 でもあの一年生を見てたらちょっと不安な気持ちになったのも確かです。

 確証はないのですが、いずれ恋敵になってしまいそうな予感が……うーむ、どうした私のセンサー。


 あ、でも今のやり取りってすごいラブコメっぽくていいかも。

 意識せずにこなせてしまうとは、やはり私は天才じゃったか……!


「さ、ここはもう後にして私たちはビラ貰いに行っちゃいましょう!」


「ん、そうだな」


 とはいえここは英人さんとの時間を優先する場面。

 さあ、華のサークルライフの為に頑張りますよーっ!


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