Immortal

天気 雨晴

Immortal

 赤い、とても、とても。ずっと眺めているとそれこそ、狂ってしまいそうな深紅が私の世界を包んでいる。

 熱い、とても、とても。ただ立っているだけでも、目の奥が燃え尽きてしまいそうな業火が目の前に佇んでいる。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ。頭の中で警鐘が鳴り響く。冗談じゃない、事実、耳を通して聞こえる。

 泣きたい、泣きたい、泣きたい、泣きたい。純白な欲望が私の脳内を独占しようと、攻め込んでくる。

 脳が焼き切れそうな葛藤の末、私は走り出した。世界を見捨てて、業火を背に。

 空を舞う鋼鉄の翼は、容赦なく火に油を注いだ。

 白く光っていた石材は崩れ落ち、黒くくすんでしまった。


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 ここはクリミア。十数年前までは、「世界一長寿な国」として、世界に誇っていた。先進的な医療技術を持ち、国としての平均寿命ですら世界一だと私たちは信じて止まなかった。

 「よしっ、うまくいったかな?」

 ある一軒家の中、その広いとも、狭いとも言えない台所で一人の若い女性がそう声を漏らす。手元には丸くて白い、ちょうど良い大きさの皿を持っている。彼女は、フローレンス・リーシャ。嬉しそうな笑顔で、良く火の通った目玉焼きを皿に移す。

 「おばあちゃん!朝ごはん!出来たよ!」

 長く、艶めかしい黒髪をなびかせるようにリーシャは後ろへ振り向いて、祖母を呼び出す。しかし、いくら待っても、繰り返しても声は返ってこない。リーシャは、ほんの少しだけ口角を上げて、またかな、と心の中で呟いた。穏やかに進む時間の中で、リーシャは完成した食事を食卓へ運んでいると、あることに気づく。ただ、どうやら彼女はこのことを予見していたようで、何一つ驚いた様子を見せず、食卓に着いた。

 「ふふっ、やっぱり。毎日、同じ事をされても驚かないよ。・・・あーっ、もうっ、拗ねないでっ。分かった、分かったよっ!驚きました!まさか、そんなところからでで来るなんて思いませんでしたっ!」

 食卓に着いたまま、リーシャはちょっとだけ大きな声を出した。少し困った様子だったが、リーシャは徐々に口角を上げていって、遂には笑い声をこぼした。

 「ははっ、ごめんっ。ホントに、ありがとうね、おばあちゃん。私を心配してくれてるんでしょ?」

 確かに彼女の境遇は、全く以て良いものではなかった。十一年前、ここクリミアに戦火が広がった。民が信じて止まなかった想いは、その時、確かにヒビが入る音がしたのだ。

発端は、一体何だっただろうか。列強の席に腰を下ろしたブリンク帝国がクリミアの征服を開始したのだ。医療技術を発展させ、平穏を謳歌していた国は、圧倒的な力の前に容易く屈した。その初動として、ブリンク帝国はクリミアの有力者の土地へと空爆を仕掛けた。たった三日、長い歴史の中でただ一つの瞬きのような時間でクリミアはブリンクの手に落ちた。荘園の惨状を聞きつけた王は直ぐさま、ブリンク帝国へ白い旗を掲げた。その日から、この国はブリンク帝国の属国となったのだ。

 「もう一回、言わせて?ありがとうね。」

 

 リーシャは歓談を交えながら、よく焼いたパンを口へ運んでいく。その度に大きく口角を上げて、嬉しそうに笑みを浮かべる。良く噛んで、飲み込もうとしたとき、リーシャは不思議そうに正面を見つめた。

 「え?仕事?うん、楽しいよっ。国立病院の皆はいい人たちだし、患者さんも嬉しそうにしてくれるから。新人でも、優しくしてくれてる。」

 リーシャはクリミア随一の看護学校を首席で卒業するほどに、卓越した能力を持つ人間だ。それはひとえに、彼女の努力の賜物と言えるだろう。

 「それに、アンジュ先輩がいるから!何があっても大丈夫だよ。」

 リーシャは付け加えて、笑顔を見せた。その瞬間、リーシャはあることに気づき、少し慌てる様子を見せる。

 「あっ!もう、こんな時間だ。急がないと。」

 壁に立てかけた時計の針が示す時刻に後を追われて、彼女は忙しそうに残っている朝食を口へと運んでいく。口が少し膨れてしまうほどに朝食を口に含み、素早く丁寧に咀嚼し、飲み込んでいった。そして、完食の後、手早く台所へと空になった皿を運んでいく。

 「あれ、おばあちゃん。まだ、全然食べ終わってないね。話すのに夢中で気づかなかった。ちゃんと、食べてよ?可愛い孫の手作りなんだから。」

 リーシャはササッと、洗い物を済ませ、まだまだ、忙しそうに身体を動かす。お次は、身支度の調えだ。長い黒髪を緩まないようしっかりと後ろへ巻き上げ、少々強く結ぶ。馬の尾のように髪をまとめた後、服装を整えて、荷物もまとめる。火の消し忘れがないかをよく確認し、窓をしっかり閉めた後、最後にしっかりと鍵を握りしめて玄関へ向かう。その途中で、リーシャは後ろへと振り向いて、

 「おばあちゃん!心配しなくても、大丈夫だからね!じゃあ、行ってきます!」

 端正な顔立ちの上に眩い笑顔を見せつけて、リーシャは元気よく玄関を開ける。瞬間、一軒家の中に光が差し込む。そっと、開いた扉を閉めて、鍵をかける。そして、明るい日に向かって、眩しそうに顔を上げ、彼女は声を漏らす。

 「おはよう!」


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リーシャが元気よく挨拶をした太陽がちょうど、南の空に高く浮かんでいる頃。彼女は二ヶ月ほど前から勤務しているクリミア国立病院のデスクで昼食を取っていた。多くの医師、看護師・看護婦の集まる中で、リーシャはある人物と楽しそうに会話をしながら、食事を口へと運んでいく。

 「アンジュ先輩、どうですか?患者さんとは?」

 何気なくリーシャはアンジュ先輩、と敬称を付けて呼ぶ人に疑問をぶつける。そして、当のぶつけられた本人、アンジュは少し嫌そうな顔を見せながら、声を返す。

 「リーシャ、休憩中に仕事の話するの?」

 「あっ、ごめんなさいっ。」

 少々強い声で迫られたために思わず謝罪の言葉が出るリーシャ。そんな困った様子のリーシャを見つめて、アンジュはその赤みがかった黒髪を小さく揺らせて身体を小刻みに震わせる。アンジュの異常にリーシャは気づき、下からアンジュの顔を覗き込むと、そこには小さな吐息を漏らしながら笑みを浮かべた表情があった。

 「アンジュ先輩っ!もうっ!」

 思わず大きな声が出てしまう。小さく院内に反響し、周りの視線がリーシャに集まる。

 「あっ、申し訳ありません!」

 軽く謝罪した後、アンジュがリーシャに向かって声をかける。

 「ふふっ、真面目だねぇ、リーシャは。ごめんねぇ、慌てるリーシャが可愛くって、つい。」

 「つい、じゃないですよぉ。もうぅ。」

 アンジュの声に素早く反応しつつも、情けなく感じる声でリーシャは返した。

 「次は、引っかかりませんよー。覚悟しておいて下さい!」

 「そう、期待してる。」

 頬杖をつきながら、アンジュは正面に座るリーシャに向かって、口角を上げながら言う。本当ですよっ、と小さく憤慨するリーシャを見つめながら、途切れた話をアンジュは拾い直す。

 「で、患者さんとどうか、だったっけ。やっぱり、何とも言えないなぁ。不平不満を言ってくる理不尽な人もいるし、毎日感謝してくれる人もいるからねぇ。まっ、こんな時勢だし、しょうがないもんなんかねぇ。」

 突然戻った話に少し反応が遅れながらもリーシャは少しだけ首を傾げながら、アンジュの言葉に疑問をぶつける。

 「そうですか?私はいつも楽しそうに接してくれますけど。」

 ははっと、小さく苦笑いしながらアンジュはストレートかつ、純粋な経験から来ているであろう疑問に答える。

 「それは、リーシャぐらいだよ。あんまり、大きな声では言えないけどね。私たちだって、いつ戦場に駆り出されるか分かんないんだよ?平常心で接しようにも、厳しいものがあるよ。言い訳にしちゃ、いけないんだろうけどね。」

 少し、哀しそうな顔を浮かべるアンジュ。それが、誰に向けて表れた感情なのかリーシャは理解できなかったが、どうにか頭を回して、アンジュを元気づけようと声を上げる。

 「だ、大丈夫ですよ!何時か、終わります。戦争だって、無限に続くわけじゃないでしょ、ですよね!」

 顔に笑顔を浮かべて、語りかけるようにするリーシャに、アンジュはふふっと、小さく息を漏らして、同じように笑顔で言葉を返す。

 「ん、そうだ、そうだ。ごめんね、ちょっと暗い話になっちゃった。休憩中に、暗い話なんてナンセンスだった。前向きに、行こう!」

 その顔から哀しみを感じなくなったことで、リーシャがホッと一息ついて、安堵しているところに、アンジュは不意に声をかける。

 「そ~う~言えば~、敬語、うっかり忘れたな~?悪い子だっ!こうしてやる!」

 満面の笑みを浮かべながら、机越しに近づいてくるアンジュに、リーシャは不意を突かれて、防御も間に合わず、アンジュの巧みなイタズラが襲いかかったのだった。


 アンジュのイタズラに疲弊して、休憩だというのにリーシャは中々昼食を進めることが出来なかった。しかし、アンジュとの歓談はその分長く続いたため、楽しい一時が延びたと考えると、それも良かったとリーシャは感じていた。

 それも、思いのほか早く終わりが来た。いつもよりは、ゆっくりと昼食を取ることになったが、案外変わらないものだった。

 「おっ、ようやく、食べ終わったの?じゃ、休憩も終わり、仕事に戻りましょ~う。」

 軽い調子でアンジュは言うが、元はと言えばアンジュのイタズラが遅れた原因なのだ。ただ、リーシャはそのことを気にかけることなく、元気よく返事を返して、椅子から立ち上がった。

 そうして、休憩から仕事に戻ろうとしたとき、リーシャはあることに気づいて、少しの間、その場に立ち尽くした。前方を歩いていたアンジュは突然聞こえなくなった背後の足音に後ろを振り向いた。そこには病院の入り口をジッと見つめるリーシャの姿。思わず、アンジュは声をかける。

 「リーシャ?どうしたの?」

 ボーッとしていたリーシャは、突然降りかかってきた旧知の声に身体をビクつかせる。アンジュが、そんなに驚かなくても、と小さく声を漏らしている間にリーシャは思考を整え、投げかけられた疑問を咀嚼する。

 「え?ああ、はい。えっと。」

 どうやら咀嚼に時間がかかっているように見えたため、アンジュはゆっくりとリーシャの答えを待つ。そうして、約十数秒後にリーシャの口から答えが返ってくる。

 「お母さんが、来てるんです。何か待っている様子だったから、行った方が良いのかなって思ったんですけど、もう仕事の時間だし、どうしようと思って。」

 全く嘘をついている様子のない、心の中からそのまま喉を通して出てきたと感じさせる声で答えるリーシャに、アンジュはほんの少しの間、考える様子を見せた後、ゆっくりとリーシャに近づいて、笑顔でリーシャの頭をなで回し、大丈夫、の一言から言葉を綴る。

 「うん、行っても大丈夫。そのぐらいは、院長だって目を瞑ってくれるはず。何かあっても、私が何とかするよ。」

 突然、撫でられてリーシャは困惑しつつ、顔を赤らめる。ただ、恥という感情よりも不思議だという感情に包まれたような気がして、薄い赤色はリーシャの顔から自然と消えていった。

 「・・?どうかしたんですか?私、アンジュ先輩の子供じゃないですよ?」

 リーシャの純粋な疑問にアンジュはハッとしてリーシャの頭から手を離す。珍しく皮肉交じりのリーシャの疑問に今度はアンジュが困惑しつつも、茶化すようにして答える。

 「ああ、ごめんごめん。リーシャのボーッとしてる顔に、隠れてた母性が目覚めちゃった。やっぱり、リーシャは可愛いよ。反則級だね。じゃ、行ってきなよ。でも、そんな時間かけるなよ~。」

 笑い声を最後に漏らしてアンジュはリーシャの背中を押す。

 「何ですか、また、もう。でも、はい、ありがとうございます!アンジュ先輩、じゃあ、ちょっと行ってきます!」

 元気よくリーシャは一時の別れを切り出して、その背中をアンジュに見せながら、入り口へとゆっくり歩き出した。

 アンジュは自分より少し小さな背中を少しの間見つめて、しっかりと見送った。その瞳は少しだけ、陰っているように見えた。


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 太陽に挨拶をした時刻から、おおよそ、十時間ほど経ち、日はゆっくりと着実に就寝の準備をしている頃。リーシャとアンジュはその日の必要な雑務を終えて、二度目の休憩に入ろうとしていた。

 「くーっ!やっぱり、結構疲れるなぁ。私、デスクワークちょっと苦手だ~。リーシャは?」

 椅子に座ったまま身体を伸ばして、アンジュはリーシャに向かって問いかける。不意な質問だったが、リーシャは驚くことなく丁寧に答えを返す。

 「そうですね~。ずっと座ってるのは、辛いですけど、デスクワーク自体は嫌いじゃないですし、得意って訳じゃないですけど、苦手でもないですよ。」

 嘘偽ることなく、正直にリーシャは答える。アンジュはその性格を知っているので、その言葉が真実だということがすぐに分かった。そっと、微笑みを向けてくるリーシャにアンジュは同じく微笑んで言葉を返す。

 「やっぱり、すごいなぁ、リーシャは。看護学校の時もそうだったっけ?」

 アンジュの思い返すような仕草についつられてリーシャも過去を思い返す。


 四年ほど前、努力の末に入学した国立の看護学校。クリミア随一の学校であり、その門も決して広くはなかった。ただひたすらに、何故看護師を目指したのかも忘れてしまうほどに勉学を積んだ末にリーシャが入学した時、アンジュはその学校の一番上の階級、つまり、四年生だった。本人が言うには、落ちこぼれだったらしい。四年も続けられたのは奇跡だと、何処かで言っていた気がする。アンジュとは、数少ないサークル活動で出会った。何の変哲もないサークルで、でも、その中で楽しそうに活動しているのは、アンジュくらいしかいなかった。学校の課題が忙しかったのもあったんだろう。アンジュは何年か留年していて、最低限の課題すら放り投げていた。ただ、楽しそうに生きるアンジュの姿に不思議と心惹かれて、翌日には声をかけていた。

 アンジュと仲良くなったのも、そうして直ぐだった。不思議と気があって、ちょっとだけ意地悪な面もあったけど、たった一年の短い時間の流れは瞬いた後にはもう過ぎ去っていたように感じた。

 一緒にサークル活動と称して、色んな場所に訪れて、戦時中だったけれど、とても楽しくって、上級生のアンジュに勉強も教えたりしてたっけ。

 とにかく、その甲斐あってか今の私も楽しいし、アンジュだって遅れていた分を取り返して今笑っている。十年間を、たった一年に凝縮したような感覚だったのを今でもしっかりと覚えている。

 

 「そうですね。ほら、一緒に勉強してたときだって、アンジュ先輩の方が先にリタイアしてたじゃないですか。」

 笑い声を交えるようにリーシャは答える。嫌な思い出を掘り起こされたかのようにアンジュは不自然に口角を上げて苦笑いをする。

 「はい、そうでした。返す言葉もございません、、、。」

 鮮明に記憶を掘り起こしたようで、アンジュは顔を落とすようにして、珍しく敬語でリーシャに言葉を返す。リーシャがそんなアンジュを見て微笑んでいると、アンジュはバッと顔を上げ、明るい調子で声を上げる。

 「じゃあ、今日も早めにリタイアしよっかな!」

 アンジュのその言葉にリーシャは目を見開いて驚く。慌ててリーシャはアンジュへ、駄目です、と声をかけようとすると、アンジュはリーシャに方へニッと笑みを浮かべて振り返る。

 「なーんて、ウソ、ウソ。もう終わってるよ。さすがにそこまで不真面目じゃないからね、私。」

 またもや、アンジュの言葉に騙される。本気になって大声を出そうとしていたリーシャは、ムッと頬を膨らませて、アンジュを睨みつける。だが、そんな顔もお構いなしにアンジュはリーシャの机に回り込んで、調子の良さそうに声をかけてくる。ついでにまた、頭も撫でられる。

 「ふふふ、かーいいなぁ。リーシャ。私の癒やしだよ、全く。じゃ、休憩に入ろ?リーシャは、勿論必要なノルマ終わらせてるよね?」

 「勿論です!」

 少し怒った様子で答えるリーシャに、ごめんごめん、と軽く謝ってアンジュは身支度に入っていく。リーシャもそんなアンジュについていくのだった。


 服装を看護服から、普段着に着替えて、二人は出入り口へと向かって進んでいく。街の中心街に位置する国立病院は、直ぐ側に大きな道路を添えられている。勿論、玄関から出るとその大通りに出る訳で、二人も例外ではなかった。

 そこには、いつもとは少し違った様子で騒ぐ人たちがいた。リーシャはそのことに違和感を覚えつつも、アンジュと横並びに歩いていた。二度目の休憩時間を使ってすることとして、アンジュが提案したのは、軽い散歩だった。

 「あーっ、外の空気もおいしいねぇ。やっぱり、人間、身体を動かさなくっちゃ楽しくないよね。」

 ゆったりと散歩を続けながら、アンジュはそう声を漏らす。

 「そうですね、今日はちょっとデスクワークも多かったですし、ちょうど良いです。」

 「あ、やっぱり?なーんか今日多いなぁって思ってたんだよね。」

 他愛のない会話を進めながら、道に沿って歩いていると、背後の方から連続した人々の声が聞こえてくる。何かに平伏するようなそんな声。アンジュもその声に気づいたようで、しまった、という顔をしてリーシャに話しかける。

 「そうだ、今日はブリンクの奴らの帰国日か、、。また、凱旋パレードみたく見送られるつもりか。・・・ごめん、リーシャ。こんな日に、タイミング悪く散歩なんて提案しちゃった。忘れてた私の失態だ。」

 瞬く間に猛省するアンジュに、リーシャはその顔に一切影を落とすことなく、むしろ笑顔でアンジュと正対する。

 「いえ、大丈夫ですよ。だって、アンジュ先輩がいますし。」

 リーシャはまた、全く嘘をつく様子もなく、真剣な眼差しでアンジュに答える。笑顔のままの表情は、何処か無感情のようにも思えて、アンジュは一瞬だけ黙り込む。すぐ後、気を取り直したアンジュがいつもの調子で言葉を返す。

 「ははっ、嬉しいこと、言ってくれるなぁ。」

 そんなやり取りをしていると、段々と平伏の声は近づいてきたのだった。

 

 サッと声の方へ振り向くと、道の端で中央に向かって頭を垂れる人々が長い列を形作っていた。その頭の先には、異国情緒漂う豪華絢爛な衣装を身に纏う、いかにもな一行だった。一行の姿、それに伴う諸動作の全てがこの街に漂う雰囲気を見事なまでに打ち砕いていた。先頭には頭に冠を被った皇帝という言葉通りの人間が大通りを我が物顔で突き進む。周りには屈強なボディーガードと思しき男性の列を作っており、危害を加えんとする輩を徹底的に排除しようという意図が見て取れた。

 ブリンク皇帝一行がリーシャたちへと近づくにつれ、人々の平伏する声は同じように近づいてくる。

 「今からでも病院に戻りたいけど、それは許してくれそうにないなぁ、くそぉ。」

 小さく文句を垂れつつ、アンジュはその場にゆっくりと腰を下ろしていく。リーシャも同じく腰を下ろしていき、他の人々と同じく頭を垂れた。多くのものはブリンク皇帝一行を敬う姿勢を見せるように声を上げるが、二人はそうしなかった。実際、敬服の姿勢を見せるためだけの声であり、元々の意味合いなどあってないようなものであることや、多くの人々の声に紛れるように口を動かすだけでもバレないからでもあるが、何よりブリンク帝国の起こす戦争を憎んでのことだった。ただ、武力では何も解決することはない。それはおろか、憎い相手と同じ土俵に立ってしまうことが何よりの屈辱である。だからこそ、”何も言わない”ことが唯一の反逆行為に相当するのだ。

 皇帝一行が彼女らの正面を通り過ぎ、ブリンク諸貴族の列に入って少し経ったとき、異変が起きた。ほんの少し遠いところで男性と思しき怒声が耳に入ってきた。それも、皇帝一行が通り過ぎていった方の耳へとだった。

 (ああ、耐えられなかったのか、、、。)

 リーシャはその場にいる誰もが思ったであろう事を心の中で口にする。

 戦争を憎むということはつまり、憎むに足る理由があるということだ。それは当たり前のことなのだろう。属国であるクリミアはやはり、一般市民が戦争へ駆り出されることがある。それは、男女平等に機会が設けられてると言っていいもので、男性は戦力として、女性は支援兵として、戦場へ赴く理由がそれぞれ存在する。そこで、考えられる”憎むに足る理由”というのは他でもない、家族や友人・恋人の死だ。おそらく、いや、ほぼ確実に怒声を上げた男性は、誰かをブリンク帝国が起こした戦争で失った。悲しみに暮れる日々の中で、のうのうと現れた元凶に、”さあ、頭を垂れよ”などという態度を見せつけられたら、とてもじゃないが、堪ったものではないだろう。その感情は、誰しも心に抱えて然るべきもので、ただ、降りかかる屈辱の嵐に耐え忍ぶしかない時勢なのだ。

 カラン、カラン

 弱々しい金属音がそっと耳に入ってきた。リーシャがそっと、ほんの少しだけ顔を上げて、皇帝一行の通っていった方向へ顔を向けると、遠目だったが状況が確認できた。男性は、憎き皇帝に向けて包丁の切っ先を突きつけていたのだろう。だが、その凶器は1ミリたりとも、皇帝に突き刺さることはなかった。先程確認できた屈強なボディーガードたちに阻まれ、男性は気絶させられたようだ。あまりにも呆気なく男性の反抗は終わりを告げてしまった。男性の手から落ちた包丁と石の道がぶつかった音が虚しく空へと消えていく。

 気絶させられた男性はボディーガードに背負われ、連れて行かれる。そんな様子を寸劇のように楽しんでいた様子の皇帝は高笑いをリーシャたちの脳へと響かせる。心の底から湧き上がる感情に、瞼の奥が熱くなる。だが、誰一人として涙は流さない。哀しい現実に身を打ち拉がれるだけ。ブリンク帝国の一行はつられて、高笑いを返す。空を見上げて、側で跪くクリミアの人々に目もくれず。

 ああ、それでいい。人間の屑たちに同情などされて堪るものか。被征服国民はそう強く心を保たせる。

 でも、気づいた。気づいてしまった。たった一人が、たった一人を見つけてしまった。

 「・・あ、、、。」

 リーシャは高笑いに混じって小さく声を漏らす。

 いた。高笑いの檻の中、たった一人の男性が、辛く、苦しそうに下を見下ろしている。

 ほんの一瞬だけだった。でも、確かに見つけた。

 その苦悶の顔は、とても哀愁の滲み出たもので、”関係ない”そう思っても、どうしても、惹きつけられる、惹きつけられてしまう。この思いは一体どの感情から湧き出ているのだろう。

 その答えを見つけられることなく、アンジュの一声によって、リーシャは我に返るのだった。


===================================== 周りはもうとても暗い。ねっとりとした闇に包まれながら、深夜にリーシャは帰路へついていた。既に見覚えのある道に辿り着き、二~三時間ほど前の出来事を思い出す。

 

 「今日はホントにごめんね。よりにもよって、あんなことが起きるなんて。ホント、私の人生一番の失態かもしれない。申し訳ない限りだよ。」

 リーシャとアンジュの二人は、ブリンク帝国一行の帰国を見送って、病院での勤務を終えた後、憂さ晴らしに少しだけ高級な飲食店で夕食を取っていた。

 リーシャの正面にアンジュが座り、注文をする前に深く頭を下げてきた。その姿にリーシャは困惑した様子を見せるも、アンジュはいつものようにからかってこない。そのことから、リーシャはアンジュの言葉が心の底から出たものだと瞬間に理解した。

 「いえ、そんな。謝らないで下さい。私だって、アンジュ先輩の提案に乗ったわけですし、帰国日だと言うことに気づかなかったのは私も同じですよ。」

 「いや、でも、、」

 アンジュはリーシャを視界から外すようにして何か言いかける。

 「・・・?どうかしたんですか?」

 リーシャが不思議そうに問いかける。アンジュは顔をリーシャにハッと向け直して、何でもない、と答える。

 「と・に・か・く!私は、申し訳ない気持ちでいっぱいだから!今日は私に奢らせてくれ!お願い!」

 かなり強めな声で懇願してくる先輩の姿に、リーシャはまたもや困惑してしまう。その気迫に押されて、リーシャはつい甘えてしまうのだった。

 「えっと、、はいっ、はいっ、分かりましたっ!ど、どうぞ!奢って下さいっ。こ、こちらからもよろしくお願いしますっ。」


 その後、アンジュの口から漏れ出続けた愚痴をおよそ二時間もの間、リーシャは聞き続けて、最後に結構な額になった代金をアンジュに約束通り奢ってもらい、今に至る。そろそろ家が見えてくる頃になると、ふとある顔を思い出して、その場に立ち止まる。もう既に、玄関は見えていて、身体も疲れ切っているので、すぐにでも家に帰り、ゆっくりとしたいのにも関わらず、自然と両足は動きを止める。

 (関係ない、、、どれだけ、あんな顔をされても、許してはいけない人たちの一人だ。そこに何の変化もない、、、その、、はず、、。)

 確信、とは言えなかった。未だに、ブリンク帝国の、その更に腐っているだろう部分であるはずの上流階級の人間たち、貴族の中にあんな顔をする人間がいるという事実と、今まで想定していた人物像や、国家像が一瞬、噛み合わなくなって、頭が痛くなる。

 リーシャは痛む脳内で、無理矢理結論を付けて、家へ帰ることを先決させる。ゆっくりと、ふらつきながらも、家へ辿り着き、玄関にある郵便受けを確認する。そこには、色んな広告用紙があり、その中に、一通だけ手紙が入っていた。

 (何だろ、、、?誰から、?)

 一通の手紙を受け取りながらも、リーシャは確認を取らず、先に家へ入ることを決めた。多くの広告用紙を持ちながら、玄関の扉を開ける。綺麗に整えられ、整然とした玄関口で靴を脱ぎ、こちらも丁寧に整える。

 「おばあちゃん。帰ったよー。」

 そう声を上げるが、朝と同様、返事は帰ってこない。

 (・・もう遅いし、寝たのかな?)

 リーシャはそう考え、そっと大きな音の立てないように部屋へ入る。すると、あることに気づく。

 (あっ、おばあちゃん。全然、食べてない。最近、ずっとそうだけど、大丈夫かなぁ。私としては、とても哀しいし、心配なんだけど、、、。)

 食卓の上に置かれ、少しだけ腐ったような匂いを放つ残飯と思しき、皿をそっと片付けて、生ゴミ用の袋へと詰め込んでいく。片付けが終わった後、ゆっくりと休憩するついでに、郵便受けに届いた紙たちを読み上げていく。

 (えっと、セールのチラシと、注意、、?)

 多くの広告用紙に混じって、注意書きが紛れ込んでいた。

 (えっと、最近、生ゴミが増えてきています、、?環境保全のために、出来るだけ量を減らしてもらえると、助かります、、か。うーん、、私、料理凝っちゃうからな~。努力しないと、、。)

 注意書きに対して、悩む様子を見せるリーシャはその後も、広告用紙に目を通していき、数分後、ようやく全てを見通した。

 そして、厳重に封をされた手紙に手を出した。

 (手紙が来てるなんて、一応毎日見る習慣を付けておいて良かった、良かった。)

 そっと封筒が破れないようにリーシャは丁寧に封を開けていく。一通の手紙を取り出し、宛名を確認して、自分宛であることをしっかりと確認する。そこに、書かれた内容とは、、、

 

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 数日前、ブリンク帝国領内の一等区、緩やかな斜面を登った頂点に白く光輝を放つ一つの絢爛な邸宅が建てられていた。外見は常に煌びやかに保たれ、全体を囲う緑に満ちた庭園は、優美に花々が咲き乱れ、木々はのびのびと身体を天へと突き出している。個々の部屋に取り付けられたベランダその全てから眼下に広がる街を見渡すことが出来る邸宅は、ブリンク帝国の上級貴族に当たるアレフガルド家の所有する一等住宅である。アレフガルド家当主であり、この街、及びこの土地の領主たるセン・アレフガルドの意匠がふんだんに取り入れられた内装は白を基調とされる。その中に、ある人物が黒色の衣装を身に纏って朝食を取ろうとしていた。

 顔の全面に影を落とす男の名は、ユーリ・アレフガルド。セン・アレフガルドの末男である。薄幸そうな顔立ちに影が落ちて、より一層暗さを感じさせる青年はまだ日は昇ったばかりだというのに、黒い宵闇に包まれているようだった。その姿は白の内装と反発するものであり、暗いのにも関わらず存在感を放っていた。

 ゆっくりと椅子へ腰掛け、執事が用意したであろう朝食にしては豪勢な料理を目の前にするユーリの視界に光る人影が堂々と立ちはだかった。朝食へ手を付ける前にゆっくりと視線を上げていくと、そこには全身を白の衣装で着付けられた、まるで結婚式の新郎のような、父・セン・アレフガルドの姿があった。

 「どうしました?父上、こんな朝早くに。」

 ユーリは恐る恐る父に話しかける。顔が服の白に似合わず、修羅のように彫りが深くなっていたセンは、情けのない声を出す息子に大きな声で喝を入れる。

 「どうしたではない!分かっているだろう!明日のクリミア凱旋、行くという言葉を聞いていないのはお前だけだ!」

 凄まじい剣幕に晒され、ユーリは少し態勢を仰け反らせる。

 「ですから、私はクリミアには訪れたくないのです。分かっていただけませんか?父上。」

 返ってくる情けない声にセンは、顔の緊張を緩め、大きく溜息を吐きながら、下を向く。そっとユーリの正面の椅子を引き、そこへ座り込んで呆れたようにセンは話し出した。

 「何度も言っているが、そういうわけにもいかないのだ、ユーリよ。今回のクリミア凱旋は、アレフガルド家全員で、との皇帝閣下からの勅令なのだよ。加えて、これは皇帝閣下の威を示すためのものでもある。逆らう気の起こさせんようにな。大貴族たる我らが出向かないわけにはいかないのだよ。」

 ユーリは何度も聞かされた言葉に呆れる気持ちを隠しながら、態勢を元に戻し、答えを返す。

 「ですが、父上。私も何度も言っております通りなのです。どうにか、諦めてはくれませんか。」

 ダンッ

 豪勢な食事が並べられた食卓にセンの握りこぶしがたたき付けられる。瞬間、高価そうな皿に盛り付けられた食べ物たちがほんの少しだけ宙に浮く。と、同時にユーリの身体も一瞬跳ね上がり、肩をすくませる。

 「駄目だ!お前の心情など、皇帝閣下は気にもかけん!令は、令だ。変えることなどできんのだよ。」

 もう一度、ただ少しだけ抑えた様子で、怒りを顕わにするセン。

 「そもそもだ。何故、お前はクリミアにそうも行きたがらん?小さい頃は、嬉々としてクリミアに行っては、”美しい国”だの、”空気がうまい”だの褒め散らかしておったではないか。」

 父の口から出た言葉に、ユーリは一層顔に影を落としていく。哀しく、儚く、薄幸そうな顔立ちは、よりその色を濃くしていく。そんなユーリの様子を気にも留めず、センは畳みかけるように問いかけていく。

 「それに、その服はなんだ。また、黒などという色の服を私に見せるか。私の嫌いな色だと分かっているだろう?私の最高傑作を馬鹿にしているのか?」

 最高傑作というのは、おそらくこの邸宅のことを言っているのだろう。白く光り輝くこの邸宅は、ユーリにとっては眩すぎるものとも言えるのだろう。だが、ユーリにそんな意図は全くなく、すぐさま父の言葉に反論を返す。

 「いえ、この色はただ、私が好きだというだけです、父上。何ものにも染まらないこの色が。」

 息子の言葉に反応して、センは思わず舌打ちをして、立ち上がる。呆れかえった様子でユーリを一瞥した後、決定を言い放つ。

 「お前の意志はもう関係ない。既に明日まで迫っているのだ。困った息子がどんなに抵抗しようと、その足引きちぎってでも連れていくぞ。」

 脅し文句を含めて、実の父親から辛辣な言葉を言い捨てられたユーリは、怖じ気づいて意図せぬ言葉を口にしてしまう。

 「はい、、分かりました。同行します。」

 センはすかさずその言葉を拾い上げて、実の息子に満面の笑みを浮かべて、声をかける。とても演技とは思えない様で。

 「やっと、自分の口から言えたな。じゃあ、さっさと朝食を済ませて、買い物へ出かけるぞ。やはり、その色は見苦しいからな。」

 あっ、とユーリが声を出しても、過去の事実は変えられず、呆然としたまま、朝食を取り始めるのだった。


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ブリンク帝国一行が帰国した翌日、同じくブリンク帝国領内に戻ったユーリは朝早くから身支度を済ませ、何やらとても焦った様子で忙しく公道で馬車を走らせていた。まだ日も高くなく、気温も上がりきっていないような時間帯でありながら、ユーリは多量の汗を顔面に滲ませていた。

 (クソッ、、、何なんだ、、あれはっ、、あんなこと、、許されて、、良いものかっ!)

 カチャ、カチャとユーリの手荷物が馬車に揺られて小さく音を出す。ユーリはその袋をしっかり握り、揺れを抑えながら、先日見た光景を思い出す。


 ブリンク皇帝は帰国する際、一人の男を捕獲した。

 その男は、許されない罪を犯した。

 国の全ての頂点に位置する皇帝に悪意を以て、凶刃を向けたのだ。

 男の殺意はその手を頂点まで届かせることは出来なかった。

 皇帝はその不敬を万死に値すると判断した。

 男は、その四肢を引き裂かれ、意識の保つ間に見せつけられた。

 自らの手足が、業火に塗れ、炭と化す光景を。

 その様を一瞥し、皇帝は高く笑い飛ばした。

 男の死後も、陵辱は続く。

 両の眼をくり抜かれ、鼻は切り落とされる。

 全ての歯は引き抜かれ、舌も同様にされる。

 最後には、頭蓋を割られ、四肢と同じく盛大に焼かれた。

 その炭は、墓へ向かうことなく、広大な海へと投げ捨てられた。

 必要のなくなった玩具に行うように、

 笑って、嬉々として、見せしめとして、

 存在全てを男は犯された。

 一人の貴族たる青年はあまりの光景に目を背けた。

 帰路につくことも出来ず、その音だけを聞かされて、

 無意識に想像する、その無残な姿。

 多くのものは、皇帝と同じく笑っていた。

 踏みにじられた人間の憎悪を知ることなく。


吐き気を催す邪悪に耐えきれず、ユーリは夜も眠れずに朝にはもう駆けだしていた。

 全身が恐怖に震える。小刻みに末端部が震えて、しっかりと力を入れているはずなのに、握った袋は未だに揺れている。

 向かう先は、何処に。

 思い出すだけで湧き上がる吐き気は、何処へ向けて放たれる?

 その当然の帰結にユーリは今、向かっているのだ。


 二時間ほど経った頃、ユーリは大きな門の真ん前に立っていた。

 まず、皇帝に謁見する許可を取りにユーリは動いた。いくつかの手順を踏んで、正々堂々と、真正面から皇宮の正門をくぐった。

 手荷物は何か、と聞かれたが、皇帝閣下への贈り物、とユーリは答えた。すると、警戒もされずに許可を取れた。

 (アレフガルド姓が役に立った、、。これからが本番だ。)

 いつの間にか謁見の間の扉に辿り着いていた。

 体が震える。

 ここまで来ても、どうやら覚悟が決めきれないようだ。情けない。

 少し、時間を取った。

 ゆっくりと、大きく深呼吸をして、全身に力を込める。

 

 今から、僕はかの皇帝を糾弾するのだ。


==================================== 

 「失礼します!私は、アレフガルド家末男!ユーリ・アレフガルドと申します!此度は、皇帝閣下に謁見したく参りました!どうか、扉をお開け下さい!」

 謁見の間と廊下を隔てる大扉の前で、ユーリは勇ましく声を上げる。十数秒おいて、扉の奥から返事が返ってくる。

 「良い、さぁ、扉を開けよ。」

 目に見えない皇帝は扉の奥のユーリに向かって、扉の開閉を促した。しっかりとその言葉を両耳で受けて、ユーリはゆっくりと歩を進め、扉の取っ手に手をかける。ユーリの両腕に引かれた扉は、ギィィ、と低い音を立てながら、奥に存在する様相をユーリの視界に突きつけた。

 赤く、長いカーペットが皇帝の鎮座する王座へ向かって敷かれ、その両端は黄色く装飾されており、天井は屋根がないかのように透明なガラスで張り巡らされ、日の昇っている時間帯であれば、皇帝の権威を表すかのように、常に日の光が差し込んでいた。ちょうど日は高く昇っており、謁見の間全体を強い光で覆っていた。日の光に照らされ、部屋全体が光り輝き、小さな装飾品など経て、光が乱反射、ユーリの網膜へハッキリと刺激として伝わる。

 眩い光の奥に、人となりをした影が視界に入る。初めは、座っていたその影は次第に、立ち上がっていき、声を発する。

 「どうした?アレフガルドの倅よ。皇帝たる我に何用か。」

 威厳漂う荘厳な身なりと全身に迸る屈強なオーラにユーリは思わず気圧される。 黄金と鮮血の皇帝は、絶対的存在感でユーリを圧倒するが、ユーリも負けじとこらえて、絶対の言葉に答える。

 「は。まずは、謁見の許可をいただき、恐悦至極に存じます。」

 眼前に存在する絶対の存在は、ふっ、と口角を上げて、ユーリの言葉に反応を見せる。

 「そう畏まるな。アレフガルドとなれば、我もただ捨て置けん。・・それで?何か用があって参ったのだろう?聞かせるがよい。」

 思った以上に好意的な姿勢にユーリは少しだけ体の緊張が解けたような気がした。だが、違う。問題はそこではない。今は一つのことだけを考える。

 「はい、私は、皇帝閣下、貴方様に戦争をやめていただきたいのです。」

 ハッキリと、口から言い放った。

 震えることはなかった。ひとまず、言い切れた。

 ユーリが言い放った言葉は、皇帝の顔を歪ませた。それまで口角が上がっていたのにも関わらず。

 「何?」

 一言だけで、皇帝はユーリに現在の機嫌を伝える。お構いなしにユーリは繰り返す。

 「貴方様に戦争を、これ以上戦火を広げないことを私めとここで誓っていただきたいのです。」

 「何故にだ?」

 皇帝は平静を保った様子で、冷静に訳を聞き出してくる。ユーリは一切後ずさりせず、毅然とした態度で答える。

 「私が、間違っていると、この心の底から思うからです。これ以上、この世界に悲劇を蔓延させてはならない、そう思う故にこそであります。」

 すると、皇帝は歪んだ顔をしたまま、笑い声を上げる。

 「くっ、はっ、くはははははっっ!何を言い出すと思えば、悲劇を無くしたい、か。まったく、おかしなことを言うものだ。戦争がその火種と、そう貴様は考えた訳か!馬鹿正直な輩もいたものだよ、まったく!」

 突然笑い始めた皇帝に困惑の色を隠せず、ユーリは拙く言い返す。

 「な、何がおかしいのです!」

 「貴様は人が、何故戦争をするか、分かって言っておるのだろう?」

 皇帝の言葉に、ユーリの瞳の色は一層困惑的な意味をもっていく。

 「それは、国の更なる繁栄と、存続のためである。だが、何よりも、この世に存在する”不変の栄華”、その一つをこの手中に収めるためだ。」

 「”不変の栄華”?」

 皇帝は更に口角を上げて、顔は歪みを増していく。

 「そうだ!何事も極めてしまえば、後は落ちぶれるものだろう?だがっ!”不変の栄華”は違う!永遠に存在できる!極めたままでいられる!誰もが望むところだ!手にしてしまえば、もう変わることはない!」

 部屋全体に長く響き渡る大声で皇帝は熱弁する。

 ”不変の栄華”?くだらない。そのために、人がどれだけ死んでいると思っている。 怒りがユーリの心を覆い始める。黒く、燃え上がるように赤く。

 「それが、理由ですか。」

 心とは裏腹に、冷ややかに言葉が出る。

 「くっ、はっ、違うなぁ。違うのだよ、アレフガルドの倅よ。」

 瞬間、ユーリは手荷物の袋の中から、一丁の拳銃を取りだした。

 そして、銃口をかの皇帝に向け、声を張り上げる。

 「何が!違う!」

 銃口を向けられた皇帝は依然として、歪んだ顔を保ったまま、目を見開く。

 「ほう?拳銃とはな。馬鹿なだけでなく、愚かでもあったか。」

 何一つ動揺した様子を見せない皇帝に違和感を覚えつつも、ユーリは糾弾を続ける。

 この皇帝は、この人間は、もう狂ってしまっている。

 ”不変の栄華”とやらに取り憑かれて、人を人として見ることが出来ない哀れな人間だ。

 ユーリは、力強く拳銃を握りしめる。瞳に怒りを込めて。

 「戦争をやめないのならば、お前をここで殺してやる。その凶行はここで僕が止める!」

 「はて?凶行とはな。貴様、今自分が何をしようとしているのか分かっていないのか?」

 「知るものか!」 

 ユーリは、拳銃のトリガーに指をかけ、力一杯に引いた。引いたはずだった。

 だが、飛び出るはずの弾丸は、弾けるはずの音は、何故か届かなかった。

 目を見開く。そうやって、やっと気づく。

 震えている。指はおろか、手、腕、肩まで。

 「クソッ、、何でっ!」 

 そう口をついて言葉が出る。薄幸そうな顔立ちに似合わない、高く荒々しい声で。何度、力を込めても一向に指先が曲がらない。

 「クソッ、クソッ、クソッォオ!」

 自らにどれだけ罵声を浴びせようと、全てただ虚空に消え去っていく。

 すると、やはり前方から甲高く、部屋中に響き渡る、憎たらしい笑い声がユーリの脳内に届く。

 「くはっはははははははっっっっ!!我を糾弾する覚悟はあっても、人一人を殺す覚悟はないと見える!よくも!そんな中途半端な心持ちで立ち上がったものよな!盛大に笑ってやる!くくっ!くははははははっっっっ!」

 「おのれ!下衆め!今に、今に、、、

 見ていろ、と強く声を発そうと意気込んだその時、背後から大きな音がユーリの耳に届いた。扉が勢いよく開かれたようなその音が。

 ユーリが後ろを振り向くと、そこには言葉通り全開に開かれた扉があり、その奥から片手の指の数ほどの武装した警備隊と一人の男が謁見の間へと入ってきた。

 「ユーリ!!」

 白を基調とした服装を全身に身に纏う父が強く声を上げる。

 「なぜ、、父上が、、、?」

 ユーリが困惑している間に、素早く警備隊がユーリの全身を拘束する。

 「所詮、貴様なぞ恐怖に駆られた傀儡に過ぎんのだよ。センの倅よ。貴様がその鉄くずで振りかざそうとした正義とやらも、怒りとやらも、憎しみとやらも、全て貴様の自己陶酔と恐怖心から来るものに他ならんのだよ。」

 ユーリは拘束されながらも必死に抵抗しようと動き回る。手には拳銃がまだ残っている。トリガーを引きさえすれば、この状況は変わる。

 だが、まだ、引けない。たった一つの動作に躊躇する。

 そこへ、皇帝の口から決定的な事実が言い放たれる。

 「思い返してみるがいい。貴様は、一度として戦争に出向いたことがあるか?貴様が悲劇の根源と信じて止まない戦争をしかとその両目で見たことがあるのか?我はそんな話を聞いたことがないなぁ。」

 「加えてだ。貴様は曲がりなりにもアレフガルドの倅として生きてきたのだろう?戦火によって培われた華を美しいと、享受してきたのだろう?なぁ、どうなのだ?」

 「我は貴様にその鉄くずを握る資格すらまともにあるとは思えんなぁ。」

 ハッキリと、その言葉はユーリの脳へと運ばれる。

 瞬間、今までの行いを、生き様を記憶から掘り起こす。

 正しいと、皇帝の言葉を受け入れる。すると、全身の緊張が解けてしまう。握りしめていた拳銃は空へ放り出され、やがて音を立てた。

 呆然としてしまうユーリに向かって、皇帝はまだ尚言葉を巧みに操る。

 「戦争とはな。奪い合いだ。国と国、人と人、果ては羽虫同士のものだろうと当てはまる。だがな、人間のそれはちとニュアンスが違う。」

 誰に向かって語りかけることもなく、ただ声を発して、皇帝は熱弁する。

 「大元は同じだ。だが人間のそれは、”性”だ。いかに事が些細であろうと人は争いの火種に出来る。土地を奪い、尊厳を奪い、地位を奪い、いずれは全てを奪い尽くす。戦火がな、無くなるときというのは、唯一その時しかないのだよ。」

 ユーリは未だ呆然として、記憶を掘り起こし続ける。

 「自らの命さえ犠牲にしてその”性”は燃え盛る。必要となった瞬間、人は躊躇なくその選択肢を心の中で追加するのだ。平然と、ごく自然であるかのように。そう、センの倅、貴様も同じくな。」

 床に転がる拳銃を目にユーリはハッとする。

 念のためだった。自衛の道具として、果ては最終手段として。選び取ってしまっていた。

 だけど

 パッと脳裏に浮かび上がる一つの記憶。

 業火に包まれて、轟音が鳴り響いて、悲鳴が焼き切れて、瞼の奥に感じた熱量。

 いつしか封印していた心の奥底、今の原点。


 「戦火なら!地獄なら!とうの昔に、この目で見た!」

 

 皇帝の一言で、既にユーリは扉の奥へと連れ出されようとしていた。

 それでも、憎き男に言うべきことがあった。

 「貴様はいずれ!破滅する!」

 確かに、ユーリの言葉は皇帝の耳に届いた。だが、歪んだ顔は一切変わらず、むしろ口角が上がり、更に歪んで、

 「ならば、貴様に伝えよう。我々の征服は既に、、」

 扉が視界の左右から迫る中で、そっとその声は届いた。

 「”完了”しているのだ。」

 

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 警備隊に拘束され、皇宮からセンの邸宅へとユーリは連れ戻された。おそらく、センの計らいだろう。後始末のために、センは皇宮に残っていたことから、ユーリにもそのことは予想できた。

 白く光り輝く内装に辟易として、外へ出る。街全体を見下ろすことの出来るベランダに頬杖をつくようにして空を、街を眺める。もう既に夜遅く、街は随所で光を放ち、空の星々もまた、ユーリの網膜へと光を届けていた。

 皇帝の言葉を思い出す。

 確かに、兵として地獄を見てはいなかった。ただの貴族の息子として、人間の子供として、火を見ただけ。

 それでも、恐怖は依然としてそこにあった。自然豊かで美しく、整然と整えられた街に、澄んだ空気。十年ほど前か、大層気に入っていた国に皇帝が降り立ったのは。

 自分でも、見た後の記憶は無い。記憶が再開したのは、数時間ほど経った頃だった。それからは、どうしても、その国を忌避してしまうようになっていた。無意識に、ごく自然に、トラウマが作用していたのだろう。

 とても、自分が嫌になる。今までの過去という事実が容赦なくユーリの心に襲いかかって、鮮血に塗れる。

 すると、前方から馬車の走る音が聞こえてきた。センが帰ってきたのだろう。

 (”完了”とは、、一体、、。)

 構わずユーリは皇帝の言葉、その真意について思考を巡らす。数分間、周りも気にせずにいたために、背後から届く音に気づくのが遅れた。

 「入るぞ。」

 ハッと我に返り、後ろを振り向くとセンが怒りを交えた表情で扉の前に佇んでいた。センの顔を見て、ユーリは思わず顔を下へと向ける。

 「も、申し訳ありません。父上。ですがっ!」

 「言い訳はいい!そこへ座れ。」

 ユーリの言葉は直ぐさま一蹴され、センの指し示す場へゆっくりと歩いて行き、腰を下ろす。

 「お前に、皇帝閣下からの温情がある。もう断るな。」

 何の変哲もない黒の椅子に腰掛けたユーリに一つの手紙がセンの手から渡される。それは、確かに皇帝の名が刻まれて、同じようにユーリ・アレフガルドという文字もまた刻まれていた。

 センは辟易とした様子で、読むようユーリに促した後、扉の向こうへと消えていった。ユーリは不思議そうに、手紙の封を開け、内容を確認する。


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      我らがブリンク帝国のため、戦場にて貢献せよ。


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 ブリンク帝国一行の帰国翌日、そろそろ日が真上に昇る頃合いに、クリミア国立病院では響めきが広がりつつあった。

 「ホンット!何でもっと早く言わないの!」

 アンジュは清潔に保たれた病院の廊下で忙しそうに両足を動かしながら、リーシャに強い声を浴びせる。その声は瞬く間に病院内に響き、横並びに歩く二人は周りの患者などの視線を集めていた。

 「すみません、アンジュ先輩、、言いたかったんですけど、、どうしても言えなくって、、。」

 じわっと、瞳に涙を浮かべるリーシャ。何とか零れてしまわないように抑えて、引っ込ませながら、アンジュと共にある場所へ向かう。

 「分かってるよ。ホントごめん。でも、私は許せないのっ。リーシャじゃないよ、リーシャにこんなもの渡したお偉い方どもが許せないのっ。」

 アンジュは手に持つ一通の手紙を、破ってやりたくて堪らない様子で、振り回す。確かにそこには、フローレンス・リーシャという名と、ブリンク皇帝の名が刻まれていた。

 「何が、腕を見込んで、だよ!リーシャまでっ、使い捨てるつもりなのかっ!」

 アンジュはリーシャがこれまで見たことないほどに荒れていた。瞳に涙を浮かべ、容赦なくアンジュは廊下へ涙をこぼす。そうしていると、二人は目的地についた。扉の枠外に取り付けられた小さな看板には”院長室”という文字が書かれていた。

 アンジュは少し力の入った拳で扉を三回叩き、返答を待つ。リーシャもその後ろで静かに佇む。

 「・・入りたまえ。」

 扉の奥から一言聞こえた瞬間、アンジュは大きな音を立てて扉を開け、院長室へ転がり入る。

 「失礼します!単刀直入に言います!どうにかできませんか!」

 目にもとまらぬ速度でアンジュは本題に入る。院長はそのあまりの勢いに気圧されて、困惑する様子を見せる。

 「ね、ねぇ、アンジュ先輩、、。もう、大丈夫です、よ。ほら、、院長も、困ってますし、私一人の命と、、沢山の患者さんの命、、天秤で量らなくても、ね?それに、、まだ、死んでしまうと、決まったわけじゃないでしょ?」

 リーシャは、周りを気にせず突っ走るアンジュを制止しようと震えた声で言葉を紡ぎ、伝える。だが、

 「うるさいっっっ!!」

 怒りの混じった、不思議と温かい、大声が室内に強く響き渡る。赤みがかった黒髪が強く揺れて、アンジュの顔を覆い隠す。それでも、確かに透明な水滴は、その間から垣間見える。

 「これはっ、私の戦いなの!リーシャのための!私の戦い!」

 背後に顔を向けることなくアンジュは言い切った。

 

 どうしよう、、とても、、嬉しくって、とても、、悲しい。

 

 自然と、リーシャの瞼から涙がこぼれ落ちる。

 それこそ、滝のように。我慢していた分、全てを吐き出して。

 それでも、自らの感情が分からずに呆然と立ち尽くす。

 

 「答えて下さい!院長!」

 アンジュが再度院長に問い詰める。

 「私だって、心が苦しい、、。それでも、、。」

 「変えられないんだ。」

 返ってきたのは、絶望だった。

 

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 私は、いつ気づいたんだっけ。

 リーシャを取り巻く状況に。

 違和感は、それこそ、初めて会ったときから。

 うん、多分その時にはもう、私はリーシャを守るって誓ったんだ。

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 アンジュは放たれた絶望に打ち拉がれる。開いた口が塞がらない。耳だって、目だって、そうだ。涙腺は全開でその機能を発揮して、膝の辺りを冷たくする。

 「何でっ、何でっ、リーシャなんだっ。」

 遙か遠い誓いは、容易く破り捨てられる。他者の手によって。

 でも、まだ、もがく。

 「私がっ、リーシャの代わりにっ!」

 ビリビリに破り捨てられた誓いの破片を必死にかき集めて、どうにか取り繕う。その願いは、誓いを立てた本人によって、阻止される。

 「駄目ですっっ!それは、、絶対にっ!」

 リーシャはハッと我に返って、咄嗟にアンジュの背に手を伸ばして、伝える。その言葉を後押しするように院長が声を出す。

 「ああ、彼女の言うとおりだ。代わりなんて務められないことは、君がよく知っているだろう?私だって、何人も見送ってきた。帰ってこなかった人も勿論いる。それでも、希望を捨てることはない!衛生兵なんだ。後方支援に徹していれば、彼女の言う通り、帰ってこれるかもしれないだろう?」

 アンジュはその言葉に、バッと顔を上げ、院長を睨みつける。

 「貴方がそれを言いますか、。分かっているでしょう!リーシャは、リーシャは、、。」

 再度、アンジュは顔を下へ向ける。今度は院長も同じように下へ向ける。

 「ア、アンジュ先輩、、。私、、絶対、帰ってきますから、、もう、、。」

 「私はっ!あんたのことをっ、少しは分かってるつもり!だから、、その言葉だけは、、ごめん、、。」

 少しだけ、睨みつけてしまった。

 後悔の念が、アンジュの背を押す。

 「リーシャ、ごめんね。少し、、二人だけで話させて、、。お願い。」

 「え?分かり、、ました、、。でもっ、駄目ですよっ。絶対に代わっちゃ駄目です!約束、、して下さい。」

 そう言って、リーシャはアンジュの方へ手を差し出した。

 アンジュは少しだけ間を置いて、リーシャに応える。

 「分かってる、、。心配しないで。」


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 違和感っていうのは、感じた瞬間には正体が分からないものだ。

 私だってそうだった。

 だから、少しだけ不安だった。

 ずっと私を追いかけてくる違和感の正体が。

 気づいたとき、私は文字通り戦慄したと思う。

 それでも、変えることはしなかった。

 ただ、心配はした。

 それは、リーシャが背負うには大きすぎるものだと、感じたから。

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 院長に直談判しにいった日から、私とアンジュ先輩は少しだけ疎遠になってしまった。疎遠とは言っても、毎日一緒に努力してきた仲だから、話す回数だとか、話すとき、今までのように明るく振る舞えないように、ほんの少しだけ、なってしまっていただけ。それでも、やっぱり毎日顔を合わすだけあって、辛いものはあった。

 私が向かう戦場は、クリミアの北方、海を隔てた先にある防衛戦線。

 少しだけだけど、ホッとした自分がいた。

 征服戦争なんかじゃなく、私の、私たちのいる国を守る戦いであること。

 だから、少しだけ心も救われた。

 医療大国であるクリミアは何度か他の列強国家に、その高い医療技術を狙われて、侵略を受けそうになったことがある。その度にブリンク帝国から軍隊が防衛のために派遣される。そして、その度に平民である私たちから兵士を募る。募るは、少し違う。強制する、が多分正しい。

 愛国主義を逆手にとって、誇りを貶して。

 そう考えると、私はちょっとだけ珍しいのかもしれない。

 私は、”医療に携わるものとしての腕を買われた”衛生兵として、戦場に赴く。


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 僕はあの日、確かに皇帝という人間に反逆した。

 いや、人間と言うべき生物なのか、僕にはもう分からない。

 分かるのは、あれが狂気に塗れたものだということだけだ。

 父上はあれから、一切僕と口を利くことはなかった。当然だ。父上からしてみれば、僕はアレフガルド家の栄えある歴史に泥を塗った男なのだから。

 それでも、僕は一向に構わない。皇帝だけじゃない。貴族階級の人間たちだって、もう人としてみることが出来ないから。歴史など、僕にとっては、既にあってないようなものだから。

 手紙には、戦争へ赴く覚悟があるならば示せと、地獄とやらを生き延びて帰ってきたときには反逆という大罪を許すと、そう添えられていた。

 知るものか。

 僕は、”答えを知るために、人間に戻るために奔走する”大罪人として、戦場へ赴く。


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 気づいたときには、出立の刻限はすぐ側まで迫っていた。色んな身支度を済ませてきた。後は、別れを告げるだけ。

 「ア、アンジュ先輩、、、。もうすぐ、時間です、、。」

 徴兵された人たちが思い思いの言葉を掛け合う中、リーシャとアンジュは中々言葉を切り出せずにいたところで、ようやくリーシャが言葉を紡いだ。

 しっかりとその両目で見送りに来たはずのアンジュはいつまで経っても声をかけることが出来ずに俯いていた。

 ハッと親友の言葉にアンジュは顔を上げる。涙が出そうになって必死にこらえているリーシャの顔を見た瞬間、アンジュは華奢なリーシャの全身を包み込むようにして抱きしめていた。

 「ごめんっ!優しく出来てなかったっ!意地悪ばっかしてたっ!何より、守ってあげられなかったっっ!」

 大声で、涙をボロボロと落としながら、後悔の念が口をついて出る。

 そこに、一片たりとも嘘はなく、真実のみが存在する。

 温かくて、言葉とは裏腹の優しさがリーシャを包み込む。

 やはり涙は、自然とこぼれ落ちるものだ。心の内から湧き上がって、押さえ込めそうにないとても強い感情が背中を激しく押すからなのだろう。

 「そんなことっ、ないですよっ!私はいつだってっ、楽しかったっ!アンジュ先輩といると心が躍ってっ!どんなに辛いことだってっ、乗り越えられると思ってたっ!」

そっとアンジュは後輩の言葉を聞いて、体をリーシャから離す。目元が赤くなるほどに、泣いて、泣いて、涙をこぼした。

 「そ、そう?だったら、私っ、少しだけ嬉しいよ。」

 「ふふっ、私も、アンジュ先輩の笑顔が見れて、嬉しいですっ。」

 両者とも、自然と笑みがこぼれる。形のあるものはとても価値がわかりやすいけれど、この形ないものは確かにかけがえのないもののように二人は感じた。

 「そう言えば、あの後、アンジュ先輩は何を話していたんですか?」

 突然、リーシャは不思議そうに首を傾げてアンジュに訊く。

 「えっ?あー、いや、それはねぇ、、、、。」

 唐突の疑問にアンジュは目を見開いて、答えずらそうにする。空を見上げて、困ったように髪を指で巻いていく。

 「言わなきゃ、、駄目?」

 そっとリーシャを見つめて、アンジュは問い返す。

 すると、リーシャは珍しく楽しそうに口角を上げて、直ぐさま答える。

 「駄目ですっ。最後くらい、私にも意地悪させて下さいっ、ふふっ。」

 「あーっ!根に持ってるのっ?悪かったってっ、見逃して?ね?」

 顔の前で両手を合わせて、目を瞑りながら頼み込むアンジュ。だが、答えは返ってこない。そーっと、アンジュは片目を開けてみる。そこには、こちらをジッと見つめているリーシャがいた。

 後輩の意図はすぐに分かった。

 見逃さないぞ、と言いたげな表情がそこにあったからだ。

 「はいっ、分かりましたっ。言いますっ、言いますっ。くそぅ。」

 アンジュの悔しがる表情を見て、リーシャはムッとしていた表情をやめ、反対に笑顔を見せつけた。

 「それは良かった。」

 両者ともに通常の立場から逆転したような気分を味わう。

 「泣いてたの、ひたすら。院長の前で。うぅ、恥ずかしい。」

 「そうですか、、ありがとうございますっ。私のために、泣いてくれて、戦ってくれて。本当に、感謝しています。・・・もう、行かなきゃですね。」

 周りの人々が別れる中で、同じようにリーシャは別れを切り出す。精一杯の感謝を、誠心誠意、真っ直ぐに伝えて。

 恥ずかしそうに頬を赤らめていたアンジュは、素早く切り替えて、見送る姿勢に臨む。ただ、まだ、何か足りなく感じて、その背中へ名前を呼ぶ。

 「リーシャッ!」

 突然、声をかけられて、リーシャは体をビクつかせる。

 「はいっ!な、何ですか?」

 アンジュは、何故呼び止めたのか自分でも理解できなかった。でも、何かしなくてはいけない焦燥感に駆られて、ゴソゴソと手荷物の入った鞄を漁る。

 「はいっ!私の髪留めっ、一緒に連れて行ってあげて。」

 アンジュの手に握られた髪留めは、彼女の髪の色のように赤みがかった黒色で、リーシャの薄い髪色には少し主張の強いように感じるものだった。だが、リーシャは気にも留めずに快く受け取る。

 「分かりました、預かります。じゃあ、行ってきますね!」

 リーシャはそう言葉を残して、アンジュに背を向け走り出す。ブリンク帝国屈指の兵器”鋼鉄の翼”に向かって。

 「絶対っ、生きて帰ってきてよ!リーシャッ!私のっ、大好きな親友っ!!」

 大きな声を張り上げて、どうにか伝える。

 アンジュは確かに返ってきた親友の満面の笑みを記憶に、心に焼き付けたのだった。


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 ブリンク帝国が列強の席へ腰を下ろせたのは、”鋼鉄の翼”と呼ばれる兵器の作成に成功したからに他ならない。その姿は名の通り金属で出来ており、飛行機能を備えている。だが、それだけではない。多くの砲撃機能を有しながら、乗組員の上限が百を優に超える。大きな甲板を持ち、まさしく”翼を持つ船”なのだ。故に、乗組員の拠点としても扱うことが出来、圧倒的な機動力を有することになる。

 そんな兵器を両手では数え切れないほどの数でブリンク帝国は有している。今回のクリミア防衛戦にも、その兵器は艦として使用されている。

 艦隊は五つに分かれ、北方五方向へ中央拠点から派遣される。ユーリは、その第四艦隊の指揮を執る。

 「これが、、戦場か、、。」

 ユーリは”鋼鉄の翼”から戦場に降り立ち、小さく呟いた。目の前に広がる大地は、遍く全てが焦土と化し、緑など米粒ほどにも見当たらなかった。黒く焦げ、廃墟が戦場に独特の雰囲気を醸し出す。炎は未だ絶えず燃え盛り、生物を寄せ付けようとしない。

 炭の大地と化した戦場に、広く鳴り響く轟音が届く。まさに、今この瞬間、ユーリの戦争は始まりを告げた。


 今回、ブリンク帝国が相手取る国は少々、相性が悪いと言えた。空中戦を得意とするブリンクであるが、相手国は対空手段を平然と持ち合わせる。故に、”鋼鉄の翼”は必然的に大きな的になりやすく、拠点としても使用するために墜とさせるわけにはいかないのである。だが、支援程度であれば、内蔵する小型戦闘機でも可能である。主戦力はどうしても、陸上の兵士にかかってしまうために、多くの兵士はその足を炭の大地に付けて戦う。ユーリもまた、その一人であった。

 指揮官なのだから、後方で指揮さえしていればいい。

 多くのものはその考えに至る。だが、ユーリは先を見る。

 臆病に後ろで指を指すだけで、戦争を、地獄を経験したと言えるだろうか。

 言えない、断じて言えない。

 それでは、彼は”人間に戻れない”。

 ようやく目に見えるようになった犠牲を他に強いたままでは、彼は依然”貴族”のまま、生き延びたとしても無価値な経験に成り果てるだけだ。故に、せめてもの贖罪の意味も込めて、ユーリは自己犠牲の道を選ぶ。

 (これから、、僕は、、、。)

 両手に握りしめた銃を見て、強く覚悟を決める。今度こそは、ブレないように。

 (、、を、、殺すんだ、、。)

 瞬間、覚悟は決意へと変わる。確かなものとなった感情の銃弾を心に込めて、ユーリは勇ましく前進した。


 何分、何十分、経っただろうか。遠方から進軍する相手国軍の姿を捉え、開戦の合図が鳴り響いた時から。

 悲鳴、銃声、怒声が空に鳴り響き、焦燥、憤怒、絶望がその全てを覆い尽くす。

 血が飛び、肉は砕かれ、骨は塵と化す。

 そこにあった惨状は、確かに地獄に相応しい光景だった。

 リーシャもまた、そのただ中で命を守らんと奔走していた。

 奇しくも、リーシャが配属された艦隊は第四艦隊であった。前線付近の負傷兵を回収し、拠点たる”鋼鉄の翼”へと搬送する。たかだが一衛生兵が自らの命を顧みずに動くことは通常あり得ないことだったが、彼女は見捨てることをしなかった。それが、憎たらしいブリンク帝国の一員であったとしても、リーシャは平等に接した。 優しく、温かく、時には燃えるように熱く。

 「大丈夫ですか?って、そんなわけ無いですよね。でも、私がいます。必ず、助けて見せます、だから、安心して下さい。」

 「ええ、そうですね。必ず、生きて帰りましょう。約束した人たちを裏切らないために。いつかは、終わるんですから。」

 笑顔を絶やさず、正しいと信じて命に真摯に接する。天使のように、リーシャは多くの命を救い、また、多くの心も救った。

 多分、それは、彼女が見捨てられないからなんだろう。

 フローレンス・リーシャという一つの命の変わらない生き様なのだ。

 

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 ユーリは未だに答えを見つけられずにいた。五つの艦隊の中でも、最前線で戦いながら、答えを求め続けた。多くの部下が隣で散っていった。軍服は大部分を鮮血で赤黒く染まり、とても貴族などとは思えない様相となるほどに戦い、生き延びても、なお、足りないと感じる。罪悪感が心の中に広がり、贖罪のために来たはずなのに心は一層黒く、黒く染まっていくように感じた。自分に降りかかるべき罰はまだ足りないのではないか、と。

 多分、その感覚が違和感の始まりだった。

 多くの命が散っていったことに、間違いは何一つ無い。だが、何故か無意味のように、不必要のように、そう、処理されているように感じた。

 思い至った瞬間、ユーリは戦場のただ中で思考を加速させた。

 (”完了”というのは、、、まさか、、。)

 周囲を見渡す。変わらず広がるのは、地獄のような戦場。開戦を迎えるまでもなく、既に焦土と化していた”戦争のため”にあるかのような場所。

 脳内に浮かぶ様々な疑問。淡々と、疑問を解決しようと頭を巡らせる。そうやって、ある一つの答えに辿り着く。全ての疑問を解決するに足るたった一つの答え。

 (”戦争を続けること”、、なのか、、?)


 人間は何故争うと言っていたか。奪い合うためだ。

 何故奪う?必要であるからだ。欲しているからだ。

 何が必要だった?物だ。地位だ。土地だ。

 何故必要だった?欲を満たすためだ。世に成り上がるためだ。

 そして、人がいくらでも増えるからだ。

 一つ辿り着いた。


 既に焦土と化した無意味な土地で、命を削って戦い続ける。削った命にある一つの意味を、目的を加える。”減らすためにある”と。

 防衛戦など、表面上のものでしかなかった。ただ、消費するための釣り餌。 

 列強国家たちが求めたのは”不変の栄華”。一度極めた栄華を変わらぬものにする。その行為の邪魔となる存在とは何か。何も知らずただ生きるだけの人間たちだ。

 無意味に食い潰されないよう、列強国家間の対立構造を利用して、戦争をするためだけの、人間を間引きするためだけの理由を作って、環境の死んだ土地で何度も、何度も、何度も、徴兵と言って殺し合わせる。防衛戦なんていうのも、戦争をするための都合の良い要素に過ぎない。

 反抗心を無くし、人間を間引いて、常に頂点に居座り続ける。列強国家の全てが果てに辿り着いた”不変の栄華”という概念の真理。必要以上の成長は自身を破滅させると、悟った末にあるだろう結論。

 ああ、確かに、理解は出来る。だが、

 「納得できるかっっっ!!!そんなことっっっっ!!」

 怒りに震えた青年の声は、上空から降りかかった数多の轟音でかき消されたのだった。


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 リーシャが必死に治療と看護に続けていると、空気を大きく揺らす轟音が響いてきた。船内は軽く揺れて、医療道具がいくつか床に落ちてしまった。

 リーシャは瞬間、言いようのない焦燥感に駆られ、床に落ちた医療道具も放って甲板へと出る。そこで目にしたのは、

 第四艦隊の最前線が空爆によって赤く燃え盛る様だった。

 (あれは、、敵の攻撃じゃない、、?)

 相手国は対空兵器を持ち合わせているものの、あれほどの空爆を出来るのは味方以外に存在しない。それは、衛生兵でありながら何度も負傷兵の救出に戦場へ躍り出たリーシャには理解が出来た。

 (でも、何で、、、?)

 ただ、そんな原因を考えたところで状況は前へ進まない。すぐさまリーシャは体を翻して、”鋼鉄の翼”内部の小型戦闘機が発進する内部基地に直行する。

 また、行くのかい?

 そんな心配そうな声が聞こえてくる。でも、関係ない。

 「勿論!」

 リーシャが言い切った後、薄らと脳裏に声が届いた。

 そうか。分かっていたけど、じゃあ、ついて行こう。

 

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 リーシャは小型戦闘機に内蔵された自動操縦機能を駆使して、件の戦場付近に降り立った。戦闘機に乗せられるのは多くても、片手で数えられる程度だ。重症患者がいたら、それこそ回収出来るのは一人だけになる。途方もなく効率の悪く、短絡的な発想であったが、リーシャにとっては戦場へ放り出された、今にも死にそうな、”患者”を救う唯一の手段だった。

 「どうか、、誰か一人でも生きていて、、、。」

 ここまでやってきたのはほとんど無意識的にだった。冷静に考えれば、遠く、遙か上空からでも生存者の有無は察することが出来る惨状だったのにも関わらず、飛び出してしまったのはそのためだ。

 祈るようにしてリーシャは地獄の戦場を見渡す。炭に成り果てた何かが限界を超えて燃え盛り、戦場を火の色に染め上げている。抉れた地面に、飛び散る死体の残骸。そこには、まったくと言っていいほどに血の色はなかった。

 どうやら、予想以上の空爆に敵方の軍の前衛隊は巻き込まれ、戦場を包む業火に阻まれて攻めあぐねているようだ。リーシャは時間の猶予が短いことを直感的に感じ取りながらも、限界ギリギリまで生存者を探す。

 (この光景は、何処かで、、?)

 必死になって、駆け回るように生存者を探す中、脳裏でそう考える。

 とても、とても、昔の記憶。霧がかった思い出が段々と鮮明に、徐々に晴れやかとなっていく。

 ただ、似ているだけだ。だから、これは記憶そのものじゃない。でも、過去を掘り起こすには十分なものだった。

 私は、過去に空爆を受けたことがある。

 「そうだ、そうだったっ。私はっ、私にはっ!・・・あっ。」

 混乱する脳内に新たな情報が侵入してきた。

 生存者だ。

 考える間もなく、思考を止めて急いで駆け寄る。うぅっ、とうめき声が聞こえる。想像を絶する痛みに悶える声が聞こえる。まだ生きている。

 「今っ、助けますからっ!」

 炎の傍らに倒れ込む一人の男性。まだ若いように見える。傍へ駆け寄り、うつ伏せになった体をそっと仰向けに戻す。指はいくつか無くなっていて、耳も片方しかない。全身に火傷が見え、一部は爛れている。傷口は浅いものもあったが、多くが深いものだった。リーシャは辛うじて目立った損傷のない顔を見つめる。そして、男性の正体に気づいた。

 「貴方はっっ!いやっ、時間が無い!ひとまず、急がないとっ。」

 記憶に新しく、尚且つ、鮮烈に残った男性の顔。帝国一行が帰るとき、確かに見つけた他とは違う異質だった顔。

 だが、それに構わずリーシャは救出を急ぐ。重量のある装備を全て外し、ゆっくりとその体を持ち上げる。そっと背中に抱きかかえた後、乗ってきた戦闘機へ向かって足を急がせる。すると、背後から小さく男性のものと思える声が聞こえてきた。

 「君、、は、、?」

 「気づいたんですかっ!?それは良かった!私は、フローレンス・リーシャです!覚えてもらわなくても構いません!今は早く貴方を運ばないと!」

 リーシャは意識がもうろうとしているであろう相手に聞こえるよう少しだけ大きな声で答える。

 「あ、、あ、、ありが、、とう、、。ぼ、くは、、ユー、、リ、、。き、、み、に、、つた、え、た、、

 「それ以上喋らないで!傷に障りますからっ。」

 リーシャはユーリと名乗る男性に制止するが、男性は話す口を止めない。

 「いい、、んだ。なんとなく、、分かる、、。もう、、たすから、ない、、。」

 「諦めないでっ!貴方はっ!諦めちゃ、、駄目なんです!」

 どこか、自分に言い聞かせるようにリーシャは言葉を紡ぐ。

 「は、は、、それ、、は、、きび、しいな、、。あ、あ、もう、、だめ、、みたいだ、、。」

 「駄目っ、駄目っ、駄目っっ!」

 もう帰りの便はすぐ傍なのに、届かない。

 「やっ、、と、、にんげ、、んに、、なれ、、た気が、、す、、る、、y、、、

 「死なないでっっ!」

 体温すら戦火の熱で正しく伝わってこないのを、リーシャは確かに感じたのであった。


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 ここは、、?

 「お帰り、フローレンス。今まで、よく頑張ったよ。」

 誰、、?

 「もう、頑張らなくてもいいのよ。」

 どういうこと、、?

 「ああ、僕の最期を見届けてくれたんだから。君には感謝してるよ。」

 え、、?

 ああっっ!あああっっ!

 知らないっ!貴方たちなんてっ!知らない!

 「それは、それは、酷いことを言うね。」

 帰らなきゃ!

 私は、アンジュ先輩にまた会うってっ!

 約束したんだっ!

 

                         -完

 

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Immortal 天気 雨晴 @amaki-amaharu20kk

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