「あとで買う」リスト

さゆと/sizukuoka

「あとで買う」リスト

 インターネットで買い物ができる時代になった。

 午後二時までに決済すると、その日に商品を発送してもらえる。


 こういうのはすごく便利だ。例えば、次の日恋人が遊びに来ることになったときとか。

 仕事を一段落させて、昼休みにスマホを取りだせばその画面上ですべて終わる。会社勤めの賜物であるクレジットカードを持っているので決済は一瞬だ。


 それができたのも、私があらかじめ対恋人用「あとで買う」化粧品リストを作っていたからだ。さすが私、先見の明があると自分を自分で褒めておく。ささいなことでも、褒めておけるときに褒めておいたほうがいい。


 ミサは隣県に住んでいるから、会うのは大体一ヶ月ごと。普段の生活は自由度が高くて気楽なものだが、すぐ会えないのはちょっと寂しい。仕事終わりに晩ごはんを一緒に食べたりとか、そういうのって憧れるじゃん。


 この前デートしたのは三週間前だった。私の家にミサがやってきて、一晩一緒に過ごして、次の日の夕方に帰って行った。それから二週間も経つと、わたしはまたミサに会いたくなっている。


 インターネットで見つけた、通販限定のコスメショップ。リップとか、ヘアオイルとか、恋する乙女心をくすぐるかわいいデザインの化粧品がたくさん紹介されている。香りのラインナップも豊富で、定番のローズにシャボン、他にもあまり見たことがないマスカットやベリーの香りもある。


 ミサはベリーのケーキが好きだからから、これにしようかな。

 いやいや、でもマスカットのほうが人気みたい。私も好きだし、こっちがいいかな。


 コスメショップの商品には、それぞれにレビューや効果や使い方を説明したイラストがついていて、そこには男女が抱き合っている様子が描かれている。レビューの内容も、商品紹介の説明も全部「彼氏が喜んでくれました」「夫とのマンネリが解消しました」といった内容。ちょっと盛ってない? と思いつつ、つい頬が緩んでしまう。


 私の恋人も、喜んでくれるかな~。


 ひとつひとつの商品を選ぶたびに、ミサの喜ぶ顔が脳裏に浮かぶ。二週間前に触れたミサのすべすべのお肌は気持ちよくて、高鳴る胸の鼓動がミサにまで伝わってしまうんじゃないかと思うくらい、深く抱き合った。つやのあるグロスに誘われてキスをして、ミサの髪に顔をうずめたときには鼻孔をくすぐるシャンプーの香りが心地よくて、こっそり深呼吸をした。心臓の音が速く鳴っているのはバレなかったけど、深呼吸したのはあっけなくバレた。


 思い出し笑いが顔に出ていたのに気がついて、恥ずかしくなって頬を軽くたたく。幸せそうな男女のイラストを微笑ましく見守りながら、私はベリーの香りのヘアオイルを「あとで買う」リストに追加した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「あとで買う」リスト さゆと/sizukuoka @sayutof

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ