第4話 氷出し茶と解ける心(読み切り)

 六月も下旬の夜。笹本安江ささもとやすえは悩んでいた。

 目下、お付き合いをしている相手のことで、だ。

 お見合いサイトで知り合い、付き合い始めて三ヶ月。互いに二十九歳、心身共に健康、収入も申し分なく、借金や家の面の心配ごともない。容姿や性格にも難はなく、このまま結婚してかまわないと安江は思っているのに。

「安江さんがすごく素敵な人だってことは、わかっています。でも、もう少し慎重になってみませんか。大事なことなので」

 今日のデート、遠慮がちに言う彼――宗吾そうごの言葉を思い出し、安江は重いため息を吐く。

 慎重になるのはわかる。だが、安江の年齢を思うと、子どもを作るならあまりのんびりはしていられない。

 親は楽観的だが、子持ち同僚や先輩は「若いうちに子どもを作ったほうが絶対にいい。体力追いつかないよ。早く結婚しなよ」と力説する。日々疲れた顔で仕事をしている彼・彼女らを見ていると信憑性があった。

 いつのまにか、職場で結婚していないのは安江だけになっており、どことなく肩身が狭い。

 子どもは特別好きではないが、結婚するなら作るものだろうとぼんやり思っている。

 彼は優しく、思いやりのある性格だ。そこが気に入って付き合うことにしたのだが、今は逆に不安になる。結婚しようと思ってしたお見合いだったのに。早く身を固めたい同士のはずなのに。

 もしかして、自分にどこか至らない部分があるのだろうか。神に誓って浮気などしていないし、ワーク・ライフ・バランスも、決して無茶は言っていないつもりだ。制度をフル活用し、お互いに無理のないようにすると何度も話している。

 いったいどうして「結婚しよう」と言ってくれないのだろうか。

 懸念を浮かべては消しを繰り返していると、おのずと帰宅する足取りが重くなる。

 そのときだった。視界の先にある道沿いに、温かな灯りが目に入る。灯りの下には「日本茶カフェ九十九ふくふく堂」と書かれた看板。この道はよく使うが、いつのまに新しい店ができていたのかと首をかしげた。

 好奇心に導かれるまま歩くと、気づけば店先に立っていた。

 そういえば、今日のデートでも話をすることに必死で、頭がぼうっとして疲れていた。時計を見ればまだ二十時だ。なにか、甘い物があればいいのだが。そう思いながら、安江は扉に手を伸ばした。



 甘い物を、と店主に言うと「お薦めのものがありますよ」と返ってきた。

 素直にそれを注文した後、店内を見回しながら待つことにした。どうやら自分以外のお客はいないらしい。静けさがやけに気になり、そわそわする。

 注文したもの、早くこないのかな。――なぜそんなに焦るのか。普段なら、店でこんないらだちなど感じない。欲しいものが手に入らず、焦らされているように感じる。心が、せわしなかった。

 もっと言えば、ここ最近。お見合いをしてから。いや、結婚しなければと決めたときから、早く、早くと焦る気持ちばかりで、落ち着かない。

 いつの間にか、暗くうつむいていた。

 そのとき、ぽちゃん、と水の落ちる音がした。

 はっと顔を上げる。すると、カウンターの中にいる店主――名札には「福富」とある――と目が合った。

 ふくふくとした顔に笑みを作った彼は「もうすぐお茶が入りますからね」と穏やかに告げた。それを見た瞬間、焦る気持ちが少し和らいだのが不思議だった。



「お待たせいたしました」

 カウンターから差し出されたのは、小さなグラスに入ったお茶、小皿の上の和菓子、そして、黄金の急須が乗ったお盆だった。

「氷出しの煎茶と、季節の冷やしういろうです。お茶の葉は伊勢のかぶせ茶、ういろうは柚子のお味です」

 グラスの中のお茶とういろうは涼やかで、じめじめするこの季節にはぴったりだ。

 お茶を口にする。ひんやりした口当たりの次に、舌全体にうま味が広がる。緑茶特有のさわやかな香りが口から鼻へ抜け、ほんのわずかな苦みすら心地よい。

 今度はういろうを黒文字で一口大に切る。口に含めば、ぷるん、とした感触と冷たさが気持ちよい。ほどよい弾力があり、上品な甘さと甘酸っぱい柚子の味がした。

「おいしい……」

 しみじみとつぶやいてしまう。それを聞いた福富が心底うれしそうな顔になる。それはまるで店先や家の玄関にある、狸の置物のような愛嬌のある顔で、思わず小声で「かわいい」とつぶやいてしまった。相手はおそらく、いい歳をした大人のはずだが、それ以外の言葉が浮かばなかったのだ。

 グラスを手に取りもう一口。ういろうのあっさりとした甘さと調和する、まろやかなお茶のおいしさに、思わず目を閉じ「ほっ」と安堵のため息を漏らした瞬間。

 ――どこからともなく「ポポン」と、なにかを叩く音が聞こえた。

 驚いて目を開けると、そこは見知らぬアパートらしき一室だった。



「あれは、宗吾さん?」

 部屋の中には、座椅子に座っている宗吾がいた。顔を上げた彼と目が合う。突然のことに戸惑う安江は慌てて「違うの、気づいたらここに」と言い訳したが、まるで安江が見えていないかのようにすぐにうつむいた。

 どうやら、今の自分は幽霊のようなものらしい。

 そのうち、宗吾から「はあ」とため息が漏れる。すると、彼のスマフォに着信が来た。「母」と表示されたそれを、一瞬ためらうような指の動きをしてから、取った。

「もしもし」

『ああ、宗吾?どう、今日こそはプロポーズしたの?」

 弾んだ電話口の声に対して、宗吾は「母さん」と、なだめるようで、しかしどこか呆れを滲ませた声で答えた。不思議なことに、スピーカー設定にしていないはずの電話のやりとりがはっきりと安江にも聞こえてくる。

「結婚って、そんな簡単に決められるものじゃないよ」

『アンタまた慎重になりすぎ。男はね、勢いよくドーンと行くのがいいのよ。せっかくお母さんが登録してあげたところで知り合えたんでしょ、逃しちゃだめ』

「だけど母さん、女の人にとって結婚って、とっても大変なことじゃないか」

『そりゃあそうだけど……でも、あんた私たちが死んだら一人になっちゃうでしょ。それに産むなら早いほうがいいんだし』

「……勝手に子ども作るって決めちゃだめだよ。今はいろんな人が……」

『なんでよ、結婚したら産むに決まってるじゃないの。まさか、あんた子ども欲しくないの?相手もそんなこと言ってるの?』

「いや、その」

『早く孫見せてちょうだいよ』

「……母さん、僕そろそろ寝るから」

 宗吾は、明らかにトゲを含んだ声音で電話を終わらせようとしていた。電話口の母もさすがにわかったのか「はいはい、おやすみ」と口早に通話を終わらせた。

 宗吾のあんな声を聞いたのは初めてだった。安江といるときは、どんなときも声を荒げることはない。身内相手だからというのもあるのだろうが、今までのイメージとのギャップが大きく、困惑していたそのとき。


 ――結婚って、本当にしないといけないのかな


 安江の頭に直接、宗吾の声が響いた。彼は口を開いていない。スマフォを投げ出し、座椅子の上でぼーっと天井を見上げている。

 ますます不可思議な現象だったが、今の安江にとっては言葉の意味のほうが重要だった。

 宗吾は結婚することを、迷っている?


 ――安江さんは会えば、結婚のことばかり。お見合いで出会ったんだから当然なんだけど

 ――でも、僕は、安江さんのことを、まだよく知らない

 ――トロい僕よりも知識があって、仕事もバリバリこなすキャリアで、将来のこともきちんと考えてる。すごい。すごい人だ。でも……

 ――時折、彼女は自分の人生しか、見ていない気がする

 ――彼女の人生設計図の中の僕は、ただの「夫」という役割でしかないのかもしれないって

 ――……こんなことを思うのは失礼かもしれないけど、値踏みされている気がして、彼女を信じ切れない

 ――そう思うなんて、僕はなんてダメな奴なんだろう。でも、家事はどのくらい分担できるのかとか、子どもが生まれたら育休は取れる会社なのかとか、将来的に実家とはどう付き合っていくのかとか……大切なことなのは僕だってわかる。でも、まるで会社の面接みたいで、息が詰まるよ

 ――少しは結婚とは関係ない、たわいもない話がしたいのに。せっかくデートスポットにいっても、安江さんは楽しんでいるように見えない。それに、子どももそこまで興味がなさそうで……本当は子ども、欲しくないのかな?

 ――ああ、僕は本当に結婚したいのか? あの人と? 結婚したいって気持ちは、なんなんだ? わからない

 ――こんな気持ちで、あの人と会っていていいんだろうか。あんなに素敵な人なのに、不誠実じゃないか……


 そして、宗吾は手で顔を被い、うう、とうなるだけだった。

 怒濤のように流れ込んできた宗吾の言葉に、安江は全身が固まって動けなくなっていた。物腰柔らかい態度の裏側で、こんなにも悩んでいたのか。隠されていたという失望もあったが、それよりも、ここまで追いつめていたのかという後悔に、心かき乱される。

 やがて辺りは一転し、闇に包まれる。

 前方にぽつん、と黄金の灯りが見えた。

 光に照らされたのは、光り輝く急須を手にしたふくふく堂店主・福富の姿だった。安心したのもつかの間、穏やかで優しげな表情は、今は自分への憐憫にも思えて、少しだけ胸が痛くなる。

 福富はすっ、と急須を持つ腕を上げ、小槌を打つような動きをした。

 ポポン、と音が響き、急須がまぶしく輝く。安江の視界は真っ白になった。


 :::


「……あれが、宗吾さんの、心の声だと言うんですね」

 安江の言葉に、福富は「さようでございます」と静かに返した。

 いつの間にか店内に戻っていた安江は、カウンターにいる福富から、先ほどの不思議な現象について説明を受けた。

 心のくすぶりがある人にしか来られない店。

 記憶と感情が入り交じる、別の角度の世界。

 頭に響いた、他人の感情。

 にわかに信じがたかったが、間違いなくあれは宗吾だったし、自分のことだった。

「私が、あんなに彼を追い詰めていたなんて」

 声が震える。目的が一緒の人だからと、毎回デートで「自分と結婚するメリット・デメリット」のような話をしがちだった。

 宗吾が何の気なしに話す雑談や、デート先の風景にはあまり意識が向かず、楽しんでいないというのも、本当の話だった。子どもも、本当に欲しいのかと言われると、答えがすぐには出ない。

 涙がにじんでくる。なんで、なんでと勝手に心の中で責めていた自分が恥ずかしかった。

 福富が無言で手ぬぐいを差し出してくれた。流れ出した涙を、遠慮なくぬぐう。柔らかな感触が心地よかった。なにも言葉をかけない福富の距離感は、安江にとって居心地がよかった。

 ひとしきり泣いたあと「お客さま」と福富が優しく声をかける。「よかったら急須のお茶をどうぞ。二煎目が溶けていると思います」溶けている、という言葉に、そういえば氷出しと言っていたことを思い出す。

 急須から注ぐ。飲むと、あの甘さが心地よく口の中に広がった。

「氷でも、お茶って淹れられるんですね」

 ひんやりとしたお茶が、高ぶった気持ちを冷ましてくれるような気がする。安江は気分転換も兼ね、福富に話しかけた。

「温度が低いほうが、うま味が良く出ますし、渋みや苦みの成分であるタンニンやカテキンなどが出にくいので、まろやかな味になります。氷出しは氷が溶けるまで時間がかかるので、じっくりと浸出でき、よりうま味と甘みが出るんです。暑い時期、時間をかけて楽しみたいお茶の淹れかたですね」

「贅沢なやりかたなんですね」

「もちろん、すぐに作れる方法もあります。熱湯で濃く淹れたお茶を、たっぷりの氷で冷やすロックタイプです。これだと、渋みや苦みも含む、パンチの効いた味になります。これはこれで、清涼感があってまた違う味わいなんです」

 にこにこ楽し気な福富の話に、さほどお茶に詳しくない安江は感心したように頷く。

「せっかくなので、味の違いを試してみませんか」

 カウンターから出てきたのは、ショットグラスに入ったお茶だった。

「ロックタイプもご用意しておりますので」

 口にすると、さすが専門店、ほどよく清涼感のある渋みや苦みがクセになりそうなおいしさだ。暑い最中に一気に飲み干したくなるような味のお茶だった。

「こんなに違うんですね」

「お茶の葉も、濃く出やすい深蒸しを使います。氷出しはすでにご案内しましたが、煎茶と玉露の中間のような味のかぶせ茶を使っています。お茶の葉に合わせて淹れかたを選ぶのも、おいしく淹れるコツの一つではあります」

 福富のとつとつとした説明を効いた安江は、ふと思いついて、小さくため息を吐いた。

「あの人は、氷出しのお茶のような人なのかもしれない」

 口からこぼれ出た言葉に、福富は「さようでございますか」と相づちを打った。

「ゆっくり、時間をかけて抽出していく方法が、あの人には合っているのかもしれない」

 心を、ゆっくりといくように。

「……氷出しのお茶、私、好きです」

 もちろん、ロックタイプのすっきりとした味もよかったが、今の安江には、あの甘さと凝縮されたうま味が、心と体に染みいるように感じた。

 もし、まだ間に合うのなら。あの人の心に寄りそうように。氷出しのお茶のように、ゆっくりと関係を深めて行けたら。

 自分だって苦しいのに、こんな身勝手な私に対して申し訳なく思う優しい心に触れてみたい。

 もう一度、グラスを傾けてお茶を飲み干す。ういろうも全部食べると、心もお腹も満足する心地だった。

「ごちそうさまです」

 ゆらり、と景色が揺らいだ。

「お帰りですね。願わくば、貴方の人生に合ったお茶の淹れかたやお茶の葉が見つけられますように……お茶のしずくは、貴方のそばに……」

 だんだんと遠くなっていく福富の声はとても優しくて、安江は穏やかな気持ちで目を閉じた。


 :::


「一旦保留……ですか?」

 静かなバーの一席。宗吾は隣に座る安江からの言葉に、飲もうとしていたウイスキーのロックグラスをそっと戻した。

「はい。私が今まで宗吾さんにお話ししていた結婚の希望とか、そういうのを、一旦保留に……簡単に言えば、忘れてもらいたくて」

 申し訳なさそうな安江の態度に、宗吾は内心、告げようと思っていた言葉を飲み込んだ。

 本当は今日、安江と別れようと思っていた。

 あれから考えを巡らせた結果、愚鈍な自分よりも、条件の合ういい人を見つけて、早く結婚したほうが、安江の為になるのだと思ったのだ。

 なのに、今日の安江はいつもと違っていた。

 待ち合わせに指定された水族館で楽しく魚を見て回り、話題のスイーツのお店に行き、写真を取り合い楽しく過ごした。移動のときの話題も、結婚のけの字も出なかった。そして、いつもなら夕飯を食べた後は早々に帰ってしまうのに、今日はバーに誘われた。

 そして、あの発言である。

「安江さんは、早く結婚したかったのでは?」

 すると安江は、首を横に振った。

「私、結婚の先にあるものしか見えてなくて。年齢や、周りが既婚者ばかりなことが、とても気になってしまっていて。もちろん、結婚はゴールじゃないし、考えていかなければならないことはたくさんあるんですけど。でも、私は、目の前にいる宗吾さんのことを、全然見ていなかったから」

 面接みたいに見ててごめんなさい、と小さな声で謝られた。先日心の中だけで思っていた「面接」という言葉に目を丸くしていると、安江はなぜか慌てて「も、物の喩えです」と言った。

 安江が居住まいを直し、カクテルを口に付ける。は、と短い息を漏らし、宗吾の手に自分の手を重ねる。そして、真っ直ぐ目を見つめてきた。こんなことを彼女からされるのは、初めてだった。

「もっと、貴方のことが知りたいです。好きなことも、嫌なことも、全部知りたい。我慢せずに、貴方の気持ちを教えてください。ゆっくりでいいんです。……私、宗吾さんのことを好きになりたいんです」

 今までの人生の中で、自分にここまで真摯な言葉を向けられたことがあるだろうか。いや、ない。

 心臓がどくりとはねる。重ねられた手の力が強くなると同時に――彼女の手が、震えていることに気づいた。思わず手を握り返す。そして、

「うれしい、です。僕も、貴方のことを好きになりたい。二人でゆっくり考えましょう。いろんな形の結婚があっていいはずですから」

 ロックグラスの氷が溶け、カラン、と心地よい音が鳴った。


 :::


 ――結婚ねえ。どの時代も、単純にめでたいとは一口では言い難いもんだなァ

 ほうじ茶の香り漂う「九十九ふくふく堂」では、いつも通り、福富が楽しげに焙烙を振っている。

「なにせ、他人と他人が新しい「家族」となることなので、どの時代も理由は違えど、様々な困難があるのでしょう」

 そこで福富は釜の水面をのぞき込む。そこには、氷出しのお茶を共に楽しむ、安江と宗吾の姿があった。

「彼女は、氷を溶かしてうま味を出すように、ゆっくりとお付き合いすることを選んだのでしょうね」

 福富は、ふくふくしい顔に穏やかな笑みが浮かべた。

 ――それもまた、付き合いの一つだな

 しみじみとコガネコヅチがつぶやく。

「もちろん、長ければいいというものでもありません。人との身近なお付き合い、特に家族というのは、甘い愛情だけでは付き合えません――も、ずいぶん私に愚痴を話していたものです」

 福富は急に遠い目になり、焙烙を振る手を止めた。

 ――結婚だの恋愛だの、家族だのってのは、いつの時代もくすぶりがあるもんだな

「だからこそ、あの人は、この店を望んだのでしょうね」

 その昔福富は、とある家の玄関先に長い間置いてある狸の置物だった。長い間雨風に晒され、ボロボロになっていた彼を手入れし、大切にした一人の女性がいた。福富にとって恩人である――付喪神としての力に目覚めたのは、すでに故人となった彼女のおかげだ。

「付喪神としてのお役目ができるのも、あの人が私を大事にして下さり『誰かの心のくすぶりを癒やしたい』と願ってくれた力のおかげです。おっと、話がそれましたね」


 ――おいおい、お役目ができるのも富を授ける力を持ったこのコガネコヅチ様のおかげでもあるんだぞ、古狸。あの嬢ちゃんがワシを土蔵から見つけなけりゃあ、お前さんの仕事の半分はできやしねえ

「もちろん、コガネさんのお力も必要ですよ。私の大切な先輩で、相棒ですからねえ」

 相棒、という言葉に、コガネコヅチは蓋をカタカタと軽快に揺らす。

 ――お、珍しいな。ワシを褒めるなんぞ。感傷に浸ったおかげで優しくなったか。よいぞよいぞ。では、大切な相棒の体をぴっかぴかに磨いて日頃の感謝をねぎらってくれ……

「おや、お客さまがいらっしゃいましたよ。お客さまが一番、偉そうな相棒は二番」

 ガチッ。コガネコヅチが抗議らしき鈍い音を立てる。福富は火を切って、お客を迎える準備をし始めた。

 ――……ちっ、古狸め

「後でじっくり洗ってさしあげますから」

 ――いつのことやら

 あきれかえったコガネコヅチの声と同時に、扉の音が響いた。


 今日も「九十九ふくふく堂」の扉は開く。



 了

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九十九ふくふく堂  おいしい日本茶は癒しの味 服部匠 @mata2gozyodanwo

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