潜伏犯

「だから吐けって、頼むから」

「お、俺は……本当に、何も知らないんすって!」


 俺は舎弟を尋問していた。


 こいつは俺にとって初めての弟分で、本当の兄弟みたいに過ごしてきた。

 女関係で一緒に馬鹿やらかしてキャバクラを出禁になったり、他の組との抗争で血なま臭い修羅場をくぐり抜けてきた戦友でもある。


 俺も本当はお前を疑いたくねえんだよ……。


「加藤みたいになりたくねえだろ?」

「ど、どういうことすか⁉︎」


 俺は横に転がっている死体を片足でちょんと蹴った。

 少し前まで加藤だったはごろんと仰向けになり、だらしなく口を開けている。


 聞いちまったんだよ——お前がオヤジの暗殺計画を話しているところを。


「これが最後だ。もう一度聞くぞ……」


 俺はチャカの引き金を引いて、ゆっくりと舎弟の顔に銃口を向ける。


「オヤジを殺した奴は誰だ?」

「ほ、本当に知らないす!」


 バンッ!


 耳をつんざく発砲音が響いた。狭い地下倉庫には十分過ぎる程に。


「あ、あ、アニキ……!」

「ど……どういうことだ?」


 体中の血の気が引いていくのが分かった。胸からは生温かい液体が漏れ出し、足下には浅い水溜まりを作っていた。

 俺は後ろを振り返ると、そこには黒いコートを着た男が階段の踊り場に見えた。


「オヤジ……!」


 銃口から出ている煙をふっと息で吹き消すと、オヤジは階段を降りてきた。


「おい、シャブ中野郎。組のブツを使い込みやがって。どこに隠した?」

「い、以前いただいたブツだけです……」


 ぐふっ!


 オヤジの尖った革靴は俺の腹に突き刺さった。


「うちのシマでの嘘は重罪。知ってんだろ」

「お、俺はオヤジを、守ろうと……」

「ルールはルールだ……ここでもシャバでも一緒だろ?」


 不思議と痛みは感じなかった。俺は横たわったまま深い眠りに落ちていく——。


***


 黒いコートの男は尋問されていた男のロープを解くと指示を出した。


「若い衆には抗争で若頭が死んだと伝えてくれ。あと、こいつの処理もな」


 はい。と消え入りそうな声で舎弟は返事をして黒いコートの男を見送った。


 吊り下げ電球は舎弟の額の汗や加藤、圧縮袋を所々不気味に照らしている。


「こいつが隠し持ってるシャブの在処を教えろ」


 舎弟の首筋に背後からナイフが突き立てられた。

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千文字ナゾガタリ 今朝未明 @miharu_kesa

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