『アニメ新世紀宣言』馬っ鹿じゃねえの

雲江斬太

第1話

 『アニメ新世紀宣言』なんてもんがあったんですね。まったく知りませんでした。


 1981年2月22日ですか、へー。なんでそんな日付なんでしょう? もしアニメの新世紀が訪れたとするなら、『機動戦士ガンダム』の放映開始日1979年4月7日とすべきではないでしょうか? なぜ、2年も遅れているのでしょう。


 『機動戦士ガンダム』は、1979年に放映開始されました。ぼくは本放送は観ていませんでしたが、この日、ガンダムは主人公アムロ・レイの手により、誰に命じられたわけでもなく、自らの意志で大地に立ったのでした。


 しかし、この『機動戦ガンダム』は、おもちゃが売れなくて打ち切りになったそうです。ところが、放送打ち切り直前から、「面白い!」という高い評価を受け、みなの注目を浴びます。が、そのころには放映は終了。当時の子供たちは、再放送を待つことになりました。



 そして第1回目の再放送。ぼくは初めてガンダムを観て、興奮しました。面白かった。何度目かの再放送の時、全話をビデオに録画し保存しました。

 のちに何人かの友達にそのビデオを貸すのですが、全員が口をそろえてこう言いました。


「観だしたら、やめられない」と。



 最初の再放送が始まった当時のことです。

 ちょうどそのタイミングで発売されたプラモデルがありました。のちに『ガンプラ』といわれる一連の商品群なんですが、これにも興奮しました。

 アニメまんまなんですよ。それまでのロボットのプラモデルってのは、基本アニメ画とは似ても似つかないものが発売されていました。が、のちに『ガンプラ』と呼ばれるそのシリーズは、1/144とか1/100といった戦車や戦闘機と同じスケールで、もう実物のようにモビルスーツの姿が再現されていたのです。

 組み上げたガンダムやザク、グフの美しさに、当時まだガキだったぼくは感動したものでした。そしてこのガンプラは、あまりの人気により、驚異の品薄状態を起こしました。


 『機動戦士ガンダム』は破格の面白さでした。『ガンプラ』も破格の出来でした。いい物は評価され、いまも生き続けています。打ち切られたため、設定資料にしか登場しないモビルスーツまでが、当時は『ガンプラ』化されました。おかしな話です。


 ガンダムは再放送されるたびに、その人気と評価を高め、やがて社会現象になります。学校で先生に「ガンダムってすごい人気らしいけど、どうしてなんだ?」と質問されたことがありました。授業中でした。


 当時アニメは、夕方に再放送されることが多く、全話入ったソフトなんぞ存在しない時代、ぼくらにとってこの再放送だけが唯一の視聴の機会でした。そしてこの再放送が異様な視聴率を稼ぐことがままあったようです。

 本放送ではパッとせず、再放送で人気に火が付いた作品も多かったんです。『ルパン三世』、『エースをねらえ!』。いずれも再放送からブームを巻き起こしました。『機動戦士ガンダム』も同じです。


 やがて、ガンダムは映画化されます。三部作です。そして、三部作とも「ただの総集編」でした。つまり映画だけ観ても、面白さが伝わらないのです。

 映画が作られたら、本編は再放送されなくなりました。映画だけが、レンタルされました。本編は視聴不能になりました。全話録画でもしていない限り、観ることが出来なくなったのです。


 だからでしょう。このあとの世代のアニメ・ファンは口をそろえてこう言いました。


「ガンダムなんかの、どこが面白いの?」


 本編を知らない、総集編だけを観た世代の評価がそれです。



 『機動戦士ガンダム』は、再放送で火が付き、社会現象にまでなりました。そして本編を切り張りしただけの映画が作られました。その公開に先立ち、『アニメ新世紀宣言』がなされています。

 そして、みなさん、この『宣言』の本文をよく読んでみてください。

 ぼくには、この本文が何を言っているのやら、ちんぷんかんぷんです。意味不明です。


 この宣言文を書いた大人は、きちんとガンダムを全話視聴したのでしょうか? ぼくには、映画しか観ていないのではないかと思えて仕方ありません。


 何だか分からないけど、すごい人気だ。だから新世紀だ。そういう認識ではありませんか?


 これは「新世紀宣言」ではないと思います。「敗北宣言」です。オモチャが売れないからとガンダムを打ち切りにした大人たちからの、『機動戦士ガンダム』に夢中になった子供たちへの「敗北宣言」です。


「なんだか分からないけど、凄い人気らしいね」


 分からないから「新人類」なんです。分からないから「ニュータイプ」なんです。分からないから「新世紀」なんでしょう。


 ぼくはこのイベントをまったく知りません。イベント自体は素晴らしかったと想像します。ですが、イベントを知っていて、イベントに行ったとしても、この「アニメ新世紀宣言」に対する感想は変わらないと思います。当時も今も、ぼくはこう思ったことでしょう。



「馬っ鹿じゃねえの」と。





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