どんな気持ちかカメラの前でどうぞ!

ちびまるフォイ

みんなの注目の的

俺は今をときめく売れっ子俳優。

出演作も恵まれまさにスター街道を爆進中だ。


「さて、今日も世界のファンを惚れさせてやりますか」


玄関を開けると、ハイエナのような記者がマイクとカメラで待ち構えていた。


「今のお気持ちは!?」

「どういう心境ですか!?」

「お答えください!!」


「みなさん落ち着いてくださいよ。

 こないだとったベストジーニストのことですか?

 それとも、公開予定の映画の話?」


記者たちはぽかんとした顔でこちらを見ていた。


「え……ご存じないんですか?」


「なにを?」


「ヒソヒソヒソヒソ」


記者たちは何か囁き話をしたあと、カメラで写真を数枚。

その数時間後には雑誌に掲載されていた。


『スクープ! あの有名俳優は反省の色なし!!!』


楽屋で待っていたのは雑誌を握りつぶしていたマネージャー。

怒りのあまり顔が紅潮している。


「ま、マネージャー?」


「どういうつもりですか! あれほど不祥事はしないでと言ったのに!!」


「不祥事? 俺が? いつ!?」


「そんなことも覚えてないんですかァァァァァァア!!!」


マネージャーは血圧が上がりすぎてそこで倒れてしまった。

雑誌を呼んでも中には俺の切り抜かれた発言と、

幼女を絞め殺していそうな悪い顔をした俺の写真が掲載されていた。


「これ……俺の映画の役の写真じゃん……」


楽屋を出ると、家を出待ちしていた以上の人間が待ち構えていた。


「世間ではあなたに対する批判が出ていますが!?」

「SNSでも批判が相次いでいます! 今のお気持ちは!?」

「答えてくださいよ! 国民には知る権利があるのです!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


「はぐらかす気ですか!?」

「知らんぷりですか!?」

「元気ですかーー?!」


「ノーコメント! ノーコメントです!」


騒ぎはますます大きくなりテレビのワイドショーで一面を飾った。

俳優コメンテーターという聞いたことものない役職の人が、

俺の映像を見て目をそらして鼻を摘んだ。


『反省の色がないですね。それどころか逆ギレしている。

 こういう天狗になった俳優は死ぬべきですよ。金だけ残して死ね』


「な、なんだこれ……」


何が悪かったのかわからないまま、ますます風当たりは台風直撃レベルの最大風速を記録。

SNSでは「いい天気」と書くと「お前に日光はもったいない」とまで言われるので見ないようにした。


それでも俺への攻撃の手は緩まない。


『有名俳優K! コンビニで買物! 庶民派アピールか!?』

『有名俳優K、公衆トイレを利用! 洋式便所の不法占拠か!』

『有名俳優K、歩道側を歩き向かってくる人に車道へ誘導する危険行為!』


「おいおいまじかよ……これはいよいよまずいぞ……」


これを受けて政府では『不祥事税』が可決され、

不倫や炎上をはじめとした不祥事を起こした人間に税金が課せられるようになった。


何をしても張り込んでいる芸能記者がスクープし、

雑誌やテレビで吊し上げてサンドバックにするので、

息をすることすら怒られる未来予想図Ⅱがすでにプリントアウトされている。


「もうこれ以上はダメだ。何がまずかったのかわからないけれど、

 とにかくしっかりキッチリ謝って火消ししよう!」


これ以上の沈黙こそ一番の悪手だと感じ、謝罪会見を開いた。


「みなさん、今日は私のために集まっていただきありがとうございます。

 また、この度お騒がせしてしまいまして、本当にすみません」


誠意を込めて深いおじぎをして、丁寧に謝った。


「どうして急に謝るようになったんですか!」

「どういう心境の変化ですか!!」

「被害者の人の気持ちはどうお考えですか!!」


「実は……今日はすべてをここでお話しようと思います。

 私はなにが悪かったのか記憶がないのです。

 いや、記憶がないというより、何が悪かったのかわからないのです」


これにはつつけば質問を投げかけてくるbot記者も言葉を失った。

カメラの前で土下座してしっかりと謝った。


「どうか! どうか私に何が悪かったのか教えてください!!

 本当になにも覚えていないのです! お願いします!!」


時間差で蜂の巣をつついたように質問が飛んできた。


「忘れているなんて無責任ですよ!!」

「ファンの期待に対してあまりに無責任じゃないですか!」

「ところで地球温暖化についてはどうお考えですか!!!」


「ですから! 覚えていないことを謝っているじゃないですか!

 だから私が何を間違えているのか教えてください!!」


「「「 うるせえ死ね!! 」」」


「えええええ……」


切腹前の武士と同じような心持ちで謝罪会見をやったのに、

介錯してくれるどころか腹に手をつっこまれてハラワタを引きずり出された気分だ。


この一件は火にガソリンをまくような大騒ぎとなり、

ますますテレビからネット、はては教科書から資料集まで掲載される事態となった。


「ど、どうしよう……原因を突き止めないと、ますますひどくなるぞ……。

 とにかく思い当たる限りを出していくしかない」


謝罪会見をセットして必死に頭を下げまくった。

途中で首が落ちたので、抱きかかえながらも必死に謝った。


「実は1年前に横断歩道の信号を無視してしまいました!」

「中学1年生の1学期は子供運賃で電車に乗ってました!」

「道で拾った10円でお菓子を買ってしまいました!」

「断るときにめんどくさくて嘘の予定を話してしまいました!!」


必死に思いつく限りの汚点を列挙して謝罪しまくったが、どれもハズレ。


『有名俳優K、いまだ反省の色なし!!』

『反省する気が感じられない茶番会見!』

『ところで反省の色って何色!?』


メディアの注目度を上げるだけで効果はなかった。


今や家の外はもちろん、家の中にも記者が待機し24時間監視されている。

個室トイレに入っても下の隙間からマイクが入れられ謝罪会見を求められる。


ひとこと答えてしまえば、それがテレビやネット、宇宙電波に乗せて外宇宙へも発信される。


「もうどうしろっていうんだよ……」


「居留守しないでください! いるのはわかってるんですよーー!」

「あなたはカメラの前で会見する義務があるんです!!」

「国民は知りたがっているんですよ! リンスとコンディショナーの違いを!!」

「答えてください!! カメラの前に出ないのは無責任ですよ!!」


ひとたび出ればあらゆるメディアに吊るし上げられるだろう。

追い詰められたすえに、俺は本を書いてからカメラの前に出た。


「今の気持ちを答えてください!」

「この状況を見てなにも思わないんですか!?」

「あなたはいったいどう思ってるんですか!!」


俺は泣きじゃくりながらそっと顔の横に本をかかげた。


「ぐすっ……みなさん、本当にお騒がせしてすみません……。

 今回の騒動のすべては、このエッセイにまとめました……。

 全国書店に並びますから、そちらで真実をお伝えしたいと思います……」





ものすごい数のメディアに報道された暴露本はその知名度から大人気となり、

俺は俳優を捨てて富豪ニートへの仲間入りさせるきっかけとなった

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