5-11 卒業

 ――そして三十年が経過した。


 三十年の修行と言っても、やる事は普通の修行と同じだ。


 俺は来る日も来る日も体を鍛え、武神グラディオス様と組み手をし、使い魔のミオさんに魔法を教わって過ごした。


 まあ、グラディオス様のシゴキは、若干……いや、かなり厳しかったが……。


 どうやら俺の前世記憶を覗いて、スポコン物の特訓をさせたくなったらしい。


『大リーグ級弓士妖精ギブス』


 とか言うのをグラディオス様が作って来た時は、頭を抱えた。

 何でも妖精の力で俺の筋肉を抑えつけて、過負荷をウンヌン……。

 日常生活がまったく送れずボツになった。

 武神グラディオス様は、へこんでいたが、知らん!


 それでも、『基礎能力を向上させて、技を磨く』と言うコンセプトは、転生前の世界でのスポーツや部活とあまり変わらない。

 強くなるのに近道はないらしい。


 不思議な事に、俺の体はまったく変わらない。

 身長は元のままだし、顔付きも三十年前に時空城に来た時のままだ。


 グラディオス様によれば、ここ時空城での三十年間は人の世界では三日程度だと言う。

 俺の成長は、人の世界の時間基準なのだろうか?


 時間とは……?

 もう、その辺の事は良く分からない。


 そして、今日、三十年に渡る俺の修行が終わった。

 時空城の中庭で、武神グラディオス様と使い魔のミオさんの見送りを受けている。


「では、ナオトよ。今日で修業は終わりとする!」


「師匠、ありがとうございました!」


「長い期間、よく頑張った! しかし、油断するでない。魔王は強く、お主は弱い」


「人の世界に戻ったら、早くレベルアップするようにします」


「うむ!」


 三十年間の修行で俺のステータスは大いに向上した。



 -------------------


 ◆ステータス◆


 名前:ナオト・サナダ

 年齢:13才

 性別:男

 種族:人族

 所属:ルーレッツ

 ジョブ:弓士 LV55


 HP: D up!

 MP: E up!

 パワー:B up!

 持久力:S up!

 素早さ:S up!

 魔力: E up!

 知力: E up!

 器用: S-小上昇中 up!


 ◆スキル◆

 弓術

 速射

 連射

 パワーショット

 遠見

 夜目

 集中

 曲射

 鑑定


 -------------------



 時空城に魔物はいないので、レベルアップはしていない。

 肉体鍛錬と組み手など、ひたすら地味な訓練を繰り返しここまでステータスが上がった。


 時空城に来た時は、ステータス値は軒並みFだったので随分伸びた。

 特に、持久力、素早さ、器用さはSまで伸ばせた。

 まあ、死に物狂いでひたすら訓練したからなあ。


 しかし、体が13才のままなのもあって、HPやパワーを上昇させるのには、限界があった。

 俺は子供の体なので、鍛えようともHPはD、パワーはBで限界点が来てしまったのだ。

 こればかりは、仕方がない。


「ミオさんにもお世話になりました」


「がんばってね! 人界の魔法使いにも、私が教えた事を伝えてね」


「必ず!」


 ミオさんには、魔法について色々教わった。

 しかし、俺は魔法的なセンスや才能が無く、訓練だけでは、MP、魔力、知力はEが限界点だった。


 ここから先はレベルアップによる恩恵を受けるしかない。


 魔王の力は、ステータス値オールSを上回ると言う。

 今のままでは魔王には勝てない。

 人の世界に戻ってダンジョンでレベリングしなくては。


 武神グラディオス様が、金色に輝く美しい弓を差し出した。


「これは餞別である。持って行くが良い」


 おそらくは特別な弓なのだろう。

 弓自体からただ事では無いオーラが放たれている。


「ありがとうございます! ありがたく!」


「それとこれは月の女神ナディアから預かっておった物だ。お主の修行が終わり、人界に戻る時に渡せとの事であった」


 武神グラディオス様が弓に続いてスクロールを差し出して来た。

 スクロールを留めているリボンは、白銀に神々しく光り輝いている。

 恐らくはジョブスクロールなのだろう。


「確かに、受け取りました!」


「月の女神ナディアは、何かあったらまた来いと言っておった。まあ、しかしだ。お主のステータスは、歴代勇者で最弱であるが。身に着けたアーツは、歴代勇者で最多である!」


 アーツ。

 それはスキルに頼らない熟練した戦闘技術の事だ。

 ステータスにも表示されないので、スキルで鑑定されても見破られる事は無い。

 恐らく魔王戦でも役に立つだろう。


「特にガンカタは忘れずにな!」


「いや、ちょっと、あれは……」


 武神グラディオス様は得意満面で『ガンカタ』と言っている。

 ガンカタと言うのは、俺が前世日本で見た映画の中に出て来る架空の格闘術だ。

 武神グラディオス様は、俺の記憶を覗いた時に、ガンカタを知ったらしい。


 ガンカタは、拳銃を持って戦い、あえて接近戦を挑む。

 超近接戦闘で敵の銃口を避けながら、射撃と体術で戦うと言う映画ならではの無茶苦茶な格闘術だ。


 それを弓でやれと。


 確かに、冗談半分で武神グラディオス様とガンカタは研究したが……。

 あれ、マジだったんだ……。


「ガンカタは……、前向きに検討いたします……」


「うむ! では、行くが良い! 我が弟子! 勇者ナオトよ! 魔王を倒すのだ!」


 武神グラディオス様が右手を払うと俺の足下に魔法陣が浮かんだ。

 使い魔のミオさんが、魔法陣に魔力を供給する。


 二人の目に涙が浮かんでいるように見えたのは、俺の気のせいだろうか。

 それとも、俺の目に涙が浮かんでいたのだろうか。


 三十年、なんやかやで楽しい時間だった。

 二人とは、良く笑い、良く話した。


 ありがとう!

 そして、さようなら!

 俺は人の世界に戻り、魔王と戦う!

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異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》カクヨム版 武蔵野純平 @musashino-jyunpei

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