5-10 スキルの正体、そしてアーツへ

 武神グラディオス様による特訓が続く。


 ある日、俺は夕食の場でグラディオス様に思い切って聞いてみた。


「グラディオス様。どれ位ここで訓練をしなくてはならないでしょうか?」


「なんだ? もう音を上げたか?」


「いえ。訓練していただくのは、ありがたいです。強くなりたいのは、本当なので。ただ、人の世界で仲間が待っているので、どれくらいこの神の世界で訓練すれば良いか知っておきたいのです」


「ふーむ。なるほど……、そう言う事か……」


 武神グラディオス様は顎に手を当て、しばらく考えてから俺の質問に答えた。


「そうだな。おそらく三十年ほどの修行になろう」


「さ! 三十年!」


 いやいやいや!

 ちょっと待って!


「グ……グラディオス様! 三十年は長すぎませんか!?」


「心配するな。ここで三十年経とうとも、人の世界での時の移ろいは、三日ほどであろう」


「えーと。いや……」


 三日……、三十年の修業期間がたったの三日なのか!?

 しかし、この厳しく無茶苦茶な修行が三十年も続くのかよ!


 俺がウンザリした顔をすると、グラディオス様は一つ溜息をついて軽く手を振った。

 すると俺の目の前にステータス画面が現れた。

 これは俺のステータスだな。



 -------------------



 ◆ステータス◆


 名前:ナオト・サナダ

 年齢:13才

 性別:男

 種族:人族

 所属:ルーレッツ

 ジョブ:弓士 LV55 up!


 HP: F up!

 MP: F up!

 パワー:F up!

 持久力:F up!

 素早さ:F up!

 魔力: F up!

 知力: F up!

 器用: F-小上昇中 up!


 ◆スキル◆

 弓術

 速射

 連射

 パワーショット

 遠見

 夜目

 集中

 曲射

 鑑定


 -------------------


 ルピアのダンジョンでレッドドラゴンを討伐したり、五十階層に潜ったりしたお陰でLVステータス共に上がっている。


 LVは、中級職になれるLV50。

 ステータスは各項目がFまで上がった。


 初期ステータスがオールHだったから、Fでもかなりがんばった感がある。


「ナオトよ。このステータスで魔王に会わば、即死はまのがれぬぞ」


「そりゃ……。相手は魔王ですからね……」


 そこは俺も気にしている。

 神のルーレットで獲得経験値をマシマシにして、レベルアップを早める事は出来る。

 しかし、初期ステータスがオールHの俺ではレベルリングをしても魔王には届かないのでは?

 そんな漠然とした不安があるのだ。


「ゆえにだ! ここでの修行を通じ心身を鍛え上げ、ステータスの底上げを行うのだ!」


 武神グラディオス様は、鼻息荒く宣言した。

 しかし、なあ、そんなに上手く行くものなのか?


「グラディオス様。そんなに簡単な話なのでしょうか?」


「簡単ではない。レベルアップの恩恵は、人の努力では追い付けない程の力がある。しかしだ! 修行に励めば、ステータスの底上げになり、レベルアップの恩恵をより生かす事が可能になる!」


「なるほど!」


 それは、わかる理屈だ。

 オールHの俺がLV100になるより、オールEの俺がLV100になった方が、より強いだろう。


 俺が納得すると武神グラディオス様は、スキルについて言及した。


「それともう一つ……。お主らはスキルに頼り過ぎる」


「スキルがあるのだから、スキルを使うのは当然だと思いますが……?」


 何が悪いのだろうか?

 グラディオス様は、首を横に振り溜息をついている。


「ハー。スキルと言うのは、武神による助力なのだ。一連の攻撃動作や行為を自動化する事なのだ」


「……」


 グラディオス様のネタバラシに俺は言葉を失ってしまった。

 スキルは武神による助力?

 つまり俺の目の前にいるグラディオス様からの助力と言う事か……。


「グラディオス様。じゃあ、鍛冶や商業系のスキルは?」


「それは担当が違う。我は戦闘系のスキルを担当しておる。鍛冶スキルは、鍛冶神が商業スキルは商業神が担当しておる」


 ふーん。

 担当とか神様も色々大変そうだ。


「スキルを発動する際は、『ゆらぎ』が発生する」


「ゆらぎ?」


「うむ。他に良い言葉が見当たらぬ。スキルを発動せんとすれば、空間にゆらぎが起こるのだ。ゆえに、我はスキルの発動がわかる。ゆらぎ方で何のスキルかおおよその察しはつく」


 なるほど。

 どうりで戦った時に、スキルを使った攻撃が通用しなかったはずだ。


 俺なりに解釈をすると、どうやら『スキル』と言うのはプログラムのような物らしい。

 例えば、スキル【速射】であれば――


 ・矢を持つ

 ・弓につがえる

 ・弓を引く

 ・狙う

 ・矢を放つ


 ――この一連の動作を自動化するのがスキルと言う事か。


「グラディオス様。魔物もスキルや魔法が使えますよね?」


「うむ。全てではないが魔物も世界の一部であるからな。スキルの恩恵を平等に分け与えておる」


「でも、人族や獣人、エルフ族は、スキルを沢山身に着けられますよね? それはどうして?」


「うむ。供え物をしてくれるゆえ、依怙贔屓をしておるのだ」


 ちょっと待ってくださいグラディオス様……依怙贔屓って……。

 平等とは一体……。

 俺は頭を抱え深くため息をつきながら言葉を返した。


「人の世界に戻ったら、お供えをするようにみんなに言っておきます」


「うむ。スイーツが良いぞ!」


「……」


 人の世界に戻ったら『スイーツ武神グラディオスの祠』をあちこちに建ててやろう。

 抗議は一切受け付けないからな。


「さて、ナオトよ。ここまでの話しで察しがついたであろうが、魔王にスキルはあまり有効でない」


 武神グラディオス様の声のトーンが変わった。

 グラディオス様は兜をかぶったままなので表情は伺い知れないが、苦悩と言うか……、俺を心配してくれている感じだ。


「それは……魔王がスキルの発動を察する……とか?」


「うむ。魔王もスキル発動前の『ゆらぎ』を感じ取る事が出来る。我のようにスキルの種類までは、わからぬがな」


 それはつまり、敵がスキルで攻撃してくるのを事前に知ることが出来ると言う事で、防御するなり、カウンター攻撃するなり準備が出来ると言う事だ。

 うーん、あまり戦いたくないな。


「それは戦闘中にスキルが使えないと言う事でしょうか?」


「使いづらいと言った所か。魔王の知らぬスキルを使うなり、意表をついたスキルの使い方をすれば攻撃は通るであろう。しかし、それよりも良い方法がある!」


 おお!

 さすがは武神!

 魔王必勝法!

 勝利の方程式!


「グラディオス様! それはどのような?」


「うむ! 力で爆砕するのだ!」


「……は?」


 俺があきれ言葉を失っているとグラディオス様は熱く語り出した。


「は? ではないぞ! ナオトよ! 体を鍛えに鍛え、魔王を凌駕する力を身に着けるのだ! 己が拳に力を込め、魔王を爆砕せよ!」


 チーン! と俺の脳内で音が鳴った。

 いや、無理!

 北斗のなんとか、とか、ペガサスなんとか拳、とかじゃないから。

 俺、そう言うキャラじゃないもん!


 俺が頭を抱え、武神グラディオス様が拳を握り蒸し暑い演説を続ける。

 見るに見かねてメイド姿の使い魔ミオさんが、助け舟をだしてくれた。


「あの~。魔王がスキルを察知するなら、スキルを使わず攻撃すれば良いのでは?」


「さすがは我が使い魔である! 見事な作戦だ!」


 俺は生暖かい目で武神グラディオス様を見る。

 なんだかな。使い魔のミオさんの作戦が妥当な気がする。


「ミオさん。そんな事って、出来るのでしょうか? スキル無しで攻撃すると言われてもピンと来なくて……」


「理屈は簡単ですよ。スキルで行っている動作を、自分の意思で行えば良いのです」


 スキルで行っている動作を、自分の意思で行う……、それ言うのは簡単だけれどやるのは大変だぞ!


 例えばスキル【速射】は、瞬時に矢を連続で放つスキルだ。

 これをスキル抜きでやる……出来るか?


「出来なくはないでしょうが? 相当熟練した技術が必要ですよね?」


「そうですね。熟練した技術を『アーツ』と言います。アーツを身に着けるには、長い時間が必要になります」


「長い時間……あー、ここにはありますね」


「そうですよ。ナオトさんは、体を鍛えながら技術も磨けば良いのです」


 それは、つまり……俺の訓練メニューが増えると言う事だ。


「うむ! 作戦は決まった! 後は己が体を鍛えるのみ! そしてアーツを身に着けよ!」


 こうして俺の修行期間は三十年間に決定した。

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