第4話 小鳥遊学童へようこそ
「ここが学童……?」
「はい! ここが小鳥遊学童です!」
相変わらずのアイドル級スマイルを見せるりおちゃんとは反対に、俺は真顔で学童の施設を眺めていた。
「ここって民家だよね」
俺が知らないだけなのか、目の前にある建物はどこからどう見ても2階建の一軒家である。
「で、でもここに看板付けてます。 ほら、ここに」
ふきちゃんが小さな指で指す先に『小鳥遊学童クラブ』と書かれた小さな板が付いている。
どうやら本当らしい。
「民間学童? っていうらしいです」
あー、なるほど。
家を借りて運営するから民間学童ってことなんだ、どこかで聞いたことあるな。
「私とふっちゃん入れて5人しかいないんですけど、山せん腰が悪くてあまり動けないの」
「5人しかいないんだ」
思ってたより子供がいないらしい。
想像では20人や30人くらいいるもんだと思ってた。
「外で話しても仕方ないので、中に入ってください」
「お、お邪魔します」
何やら他人の家に来たみたいで緊張してきた。
「「ただいまー」」
扉を開けて入るなり、りおちゃんとふきちゃんが”ただいま”と声を揃えた。
放課後保育とはいえまるで自分家のような感覚である。
「おかえりなさい」
当然返事は”おかえり”になる。
そう返事しお出迎えに来た40半ばの女性が話に聞く山せんだろうか。
「あら、この方は?」
「新しい指導員候補だよ! 公園で知らない男の人に話しかけられて困ってるところを助けてくれたの」
りおちゃんはさっきの出来事を誇らしげに、それでいてまるでお母さんに喋ってるかのように楽しそうに語る。
「それはそれは、ありがとうございました」
「いえ、当然のことをしただけです」
それほど大層な事をしたわけでもないだけに、深々と頭を下げられると返って恥ずかしくなる。
「それで……指導員候補とは?」
「私たちがお礼をしたいって言ったらお兄さんが仕事を探してるって」
「そ、それで私たちがお兄さんなら新しい指導員に向いてるんじゃないかって思って」
一体何のことだと言わんばかりに頭の上にはてなを浮かべる山せんに対し、小学生2人が必死に説明をしてくれている。
小学生に頼りきりで何だか情けなくなってきた。
「まぁまぁ、丁度人手が足りなくて……。 お名前よろしいでしょうか?」
「はい、新 睦月。 今年で22歳になります」
「じゃあお兄さんは今日から月せんね」
人差し指をビシッと俺に向けまたもドヤ顔で意味不明な事を言っている。
神兎 莉央さん、人に指をさすのはやめましょう。
とは言葉にせず、それ以上に気になることが俺にはあった。
「その月せんって何なの? 山せんの時も思ってたけど」
どうやらせんべいではないらしい。
「せ、せんって言うのは先生を略してるんです。山村先生だから山せん、お兄さんは苗字じゃ語呂的に合わないから名前の月を取って月せん……です」
意外に饒舌なふきちゃんが丁寧に説明してくれる。
せんってそういうことだったのか。
「それじゃあ急で申し訳ないですが、早速明日から来ていただいてよろしいですか?」
「え? は、はい!」
まさか名前と年齢を言っただけで採用されるなんて思わなかった。
「えー、今日からじゃないのー?」
明日からということに不服なのか分かりやすく頬を膨らませ怒ってみせるりおちゃんは少しあざといが可愛いので許されるのだろう。
「今日からなんてそんな急で非常識な事は出来ません」
「ちぇー」
少し納得がいっていないみたいだけど物分かりの良さそうなりおちゃんはそれ以上文句は言わない。
「それじゃあまた明日に来ます。ありがとうございました」
あっさり新しい職を手に入れてしまったが 、指導員なんて全く知らないから何とかなるだろうか少し不安だ。
「バイバイ、つっきー」
「月せん、さようなら」
少しの不安を抱きながら帰ろうとドアノブを握る俺に彼女達から帰りの挨拶を掛けてくれた。
「あぁ、また明日」
その言葉に少し不安が消えた気がした。
せかんど・まい・ほーむ うるる @tomoka99
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。せかんど・まい・ほーむの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます