第3話 新しい職場が決まりました(仮)

「ありがとうございました。 とっても助かりました」


背の高い方の女の子に深々と頭を下げられている無職。


側から見れば衝撃的な絵面である。


「いやいや、当たり前のことをしただけだよ。 えっと……神兎 莉央(かみと りお)ちゃん?」


よくよく見てみれば少女の胸元に名札がついてた。


俺が小学生の時は律儀に名札なんてつけてなかった気がする。


「そんな! ほとんどの人は見て見ぬ振りばかりするのは知ってます。ね、ふっちゃん」


「う、うん。面倒なことには参加したくないもんね」


そんなことは当たり前、とでも言うようにふっちゃんは首を縦に振っている。


なんと世間の真相はもはや小学生でも常識レベルだったらしい。


先ほどからふっちゃんと呼ばれている鷹倉 吹喜(たかくら ふき)ちゃんに関しては百点の解答である。


「それでですねー。出来れば私たち、お兄さんにお礼がしたいんですけど」


「ふ、ふきも……」


「お礼? お礼って言われても——」


新しい仕事をください!


とは小学生には言えない。


がしかし、彼女らの目がキラキラに輝いていて、とても断れる雰囲気でもないんだよなぁ……。


まぁ相手は所詮子供なのだ。無理難題を言えば普通に諦めてくれるだろう。


「それじゃあ新しい仕事を探してくれないかな」


小学生相手にこんな事を言っても仕方がないだろうけど、これでこの子達も諦めてくれるだろう。


「お兄さん今仕事してないんですか?」


「う、うん」


ほんの数分までは違っていたけど。


「それなら丁度いい仕事ありますよ! お兄さんならピッタリです!」


「そうだよね。 こんなこと君達に言っても仕方が———えっ?」


俺が思っていた返答と180度違っていたので咄嗟に情けない声が漏れてしまった。


「りおはお兄さんにやってほしいと思うけど、ふっちゃんはどう?」


「ふきもそれでいいと思う……。 山せんも喜ぶと思うし一石二鳥」


何やら小学生2人による審議が始まってしまい、俺は完全に蚊帳の外である。


ていうか、やませんってなに? せんべい?


「お待たせしました!」


審議が終わったのか、りおちゃんがアイドル級の笑顔を俺に見せる。


「りおとふっちゃんはお兄さんにお礼がしたい。 で、お兄さんは仕事を探している。 でいいですか?」


なぜかりおちゃんはドヤ顔だが、今はノリノリだから放っておこう。


「うん」


「そこからりお達が導き出した答えは——お兄さんが小鳥遊学童の指導員になることです」


「指導員?」


さっきまで料理を運んでいただけの俺が学童保育の指導員?


そんなこと考えたこともなかったしそもそも学童保育ってあまり知らないんだよな。


「お、お兄さんみたいに困ってる人を助けてくれるいい人は向いてると思います」


俺が断ると思ったのか、ふきちゃんが真剣な表情をしていた。


どうやらこの子達は本気らしい。


俺も新しい仕事をすぐにでも探さないといけないのは事実だし、この申し出は有難い。


「うん、これも何かの縁だろうし一度君達の学童に話を聞いてみようかな」


とはいえ、この子達が俺を採用するかは決められないはずだろうから、一度施設に行かなければならない。


「やった! それじゃあ今から案内してあげる」


「わ、私たちについて来てください!」


「おぉっと」


彼女達に両手を繋がれた俺は危うく転ぶところだった。


まさか無職のどん底から救い出してくれたのが小学生の女の子だなんて。


人生何が起こるかわかったものじゃない。

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