第2話 スーツ着て公園にいる人の気持ちが今わかった。
「やってしまった……」
喫茶店のアルバイトの帰り、俺は後悔の念を抱きながらの帰宅だった。
あれからの出来事は至ってシンプルで、店長に即刻解雇を言い渡され、おっさんには形だけだが深々と頭を下げて謝罪もした。
幸いおっさんも解雇されるのならと警察沙汰にしないでくれたのは助かったのだが、これからどうしたものか。
「新しい仕事見つけないと、はぁ」
これといって何がしたいわけでもないが基本的には人と関わりたくない。
とにかく早く次の仕事を見つけないと生活そのものが出来ない。
「最悪だ……。貯金もないし働きたくないし、何もやりたくない」
完全に人生のどん底だ。
そんな鬱気味ながら歩いて帰宅していると近所の公園が目に入った。
普段は目にも止まらなかったが、無性にベンチで物思いにふけって行きたくて仕方がない気持ちなのだ。
これがスーツを着て公園のベンチに座っているおっさん共の気持ちなのだろうか。
「22歳でもうこんな気持ちなるなんて思わなかった」
年甲斐もない独り言を吐きながら自販機で炭酸のジュースを買い、ベンチに座る。
「明日にでも地球爆発しねぇかなぁ」
そんな事は万に一つも起こりえないが、そうなればどれだけ楽だろう。
しばらくベンチでそんなことを考えていたが、やけに外が騒がしくなってきた。
「今日宿題終わったらどうする?」
「この間指導員が一人辞めちゃって外に行けないって山せんが言ってたから部屋で何かするしかないよね」
どうやら小学校が終わり、下校する小学生が増えて来たみたいだ。
現に公園の中を通って下校中の高学年くらいの女の子が俺の目の前を通りすぎている。
俺もアホのままでいれた小学生に戻りたい、と今なら思える。
まぁそんなことも起こりえないし、こんな子達と関わることも今後一切ないだろう。
なんか小学生の下校を見てると俺も帰ろうという気になってきたので、そろそろ帰ろうと思ったその時だった。
「君たち小鳥遊学童の子達だよね」
一人の男性がさっきの女の子二人に声を掛けてきた。
「……誰ですか」
髪が長く小学生の割には背が高い方の女の子が返事をしているが、どうやら知り合いではないらしい。
「いつも観ているんだ、君たちが学童に行くところをね」
別にそれだけ聞くと怪しい人ではないだろうが、それをわざわざ言って来ると話は別だろう。
そう思い少し様子をみようと思う。
「それにしても君たち可愛いよね。君たちみたいな子があの学童にはいるのかい」
「うぅ……」
もう一人の背は隣の子と比べると小さく、肩くらいまでの髪を後ろで纏めている子はおろおろとしてしまっていた。
如何にも怪しい人に声をかけられてるんだ、当然だろう。
「知りません、私たち帰りますんで」
大きい背の子は、その子の不安を振り払うかのように凛とした声できっぱりと話を切った。
「ねぇ、もう少し話聞かせてくれよ」
しかし男は食い下がらない。
所詮相手は女子小学生だ、大人の男からすれば恐怖はないのだろう。
が、流石にこれ以上見てるだけってのもいけないだろうし、少し声を掛けてみるか。
「あの〜、すみません」
突如声をかけられたせいか男は慌てた様子で俺をみる。
「はい?」
無理して平穏を装っているのだろう、明らかに挙動不審だ。
が、しかし問題発生。
この後何を言えばいいのか全く考えてなかった。
「「……」」
二人の中で沈黙が走る。
誰か助けてください。
「あ、先生!」
と、いきなり沈黙を破ったのは俺ではなく背の高い方の女の子だった。
「先生?」
それっぽいのは俺の周りに居なさそうだけど一体誰がだろうか。
「迎えに来てくれたの? ありがとう!」
そう言うといきなり俺の腕にしがみついてきた。
「えぇっ⁉︎」
一体どういうことだろうか。
「(ほら、ふっちゃんも早く)」
「(わ、わかった)」
小声で合図すると今度はもう片方の女の子が俺の腕に来たではないか。
こんな事人生で一度もなかったのだが、短い言葉で感想を言わせてもらおう。
柔らかい。
「(すみません! 少し合わせてください)」
と小声で囁かれて正気に戻る。
あぁ、なるほど。
「あー、こほんっ。うちの学童の子に何か用事ですか?」
学童の先生のことはよくわからないが、とりあえず先生を装ってみる。
「あぁ、いや、そんな、用事だなんて……失礼しますッ」
男は立場を理解したのか慌ててどこかへ消えてしまい、俺たち3人は取り残されてしまった。
「えへへ、ぶいっ」
「ッッ!?」
男の逃げる姿を見て可愛らしい笑顔にVサインをするふっちゃんではない方の子にあろう事かトキメイてしまった。
小学生ぱねぇ。
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