せかんど・まい・ほーむ

うるる

第1話 ランクダウン

「いらっしゃいませ」


とある喫茶店でいつものような接客をしていた俺こと新 睦月(あらた むつき)は今日も生活のため心を無にして仕事に励んでいた。


特別接客業が好きなわけでもないが、言葉遣いにさえ気を付けながら注文を取る、または料理を運ぶ。


至って簡単かつ単純な仕事なので他人に関して感心のない俺にはとても向いている仕事だと思っている。


きっとこれが俺にとっての天職なのだ、とアルバイトの身分ながら既に思っていた矢先の出来事だった。


「おい!にいちゃん」


先程来店してきた少し小汚いおっさんが俺のことを指差して呼んできた。


基本客にも礼儀を持つ人が多いのでこの呼ばれ方ははっきり言ってイラッとくるのだが、俺も営業スマイルとは裏腹にほとんどの来客相手に"はよ帰れ"と思っているのでお互い様である。


「ご注文お決まりでしょうか」


内心このおっさんに対して全く接客したくないのだがこれも仕事だ、仕方ない。


「この店にはビールはないんか」


「申し訳ありません、当店は酒場ではありませんので……」


一体喫茶店をなんだと思ってるのだろうか。


「ほんなら焼酎でいいわ。芋水割りで」


「ですからお客様、当店は喫茶店ですのでアルコールの類は一切取り扱っておりません」


あくまでもアルコールを摂取したいのか、一歩も引く様子がない。


「おいおい、にいちゃん。 客の言うことが聞かへんのか?」


70% 俺のヘイト値一気に急上昇。


「昔から言うやろ? お客様は神様や。 ほな、ワシも神様と同じやろ」


85% 過去にここまで俺を苦しめたやつはそういないだろう。


「神様の言うことは絶対や。なんでもいいからはよ酒を持ってこんかい、ガキ」


100% おめでとう。


「フンッ!」


「ぐぼッ!?」


怒りが頂点に達した俺は自称神様を名乗るおっさんの顔面をグーで殴り飛ばした。


手加減を一切しなかったからか、おっさんは椅子から転げ両手で鼻を押さえている。


床には少々血が飛び散っており、見ると俺の拳にも少し血が付いていた。


「一体なんの騒ぎだ」


おっさんが倒れた時の音で慌ててスタッフルームからオーナーが飛び出してきた。


「なんだこれは……」


オーナーの目には床に倒れ鼻血を手で止めようする男性と、拳に血が付いて殴ったであろうスタッフがいる。


そりゃあ驚愕するのも当然だろう。


なんせ自分の店だから。


「どういう事か説明してもらおうか」


この瞬間、俺の唯一の収入源は失われフリーターからニートとランクダウンが決まったのだった。


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