夢を叶えるのは誰か

キム

夢を叶えるのは誰か

 零時を過ぎた頃。

 学生時代から付き合いのある友人からLINEで「今からSkypeで話せる?」とメッセージが送られてきた。

 何かあったのだろうか? と疑問に思いながらも「おけ。起動する」と簡単に返信をしてからPCを起動して、Skypeにログインする。

 聞き慣れた呼び出し音の後、友人の声がヘッドフォンから聞こえてくる。


「おす」

「うい。どした?」

「いや、あのさ……ちょっと聞いてほしいんだけど」


 こんなに真剣そうに話す友人は滅多に見ないため、聞いているこちらも構えてしまう。


「実は俺、夢があってさ」

「夢?」

「うん、同人ゲームを作りたいんだよね」

「同人ゲーム……」


 話を聞いてみると、どうやら就職して安定した収入もできたところで、少し前からの夢だったゲーム作りをしてみたいとのことだった。

 そしてその夢を叶えるために、私にも協力をして欲しいとお願いされた。


「俺はゲームとかラノベとか読んでてシナリオはなんとか書けるかもだけどさ、プログラムの方は全くできないんだよね。だから、そういったとこをお願いしたいんだ」


 一応プログラム関係の仕事に就いているため、調べてれば私でもできだろうとは思った。

 しかしそれ以上に私の頭に残ったのは『夢』という単語だ。

 私には小さい頃から『夢』なんてものはなかった。

 あれをしたい。これになりたい。そんなことは本気でも嘘でも思ったことはない。だからと言って現実主義者というわけでもなく、ほとんどは今日と、今日から数日先のことぐらいしか考えていない。

 そんな私にバットで殴ったような衝撃を与え、銛のように刺さって抜けなくなった言葉、『夢』。

 私はその言葉の眩しさに目眩を覚えて、ちょっと間をおいてから「いいよ」と短く返事をした。


 そんな事があってから、一年ほど。

 生まれて初めて、やってみたいことができた。

 ただそれは、『夢』と呼ぶことすら恐れ多いもので、宝くじを買わずに六億円を当てたいというような、修行をせずに舞空術で空を飛びたいというような、そんなものだった。

 ただ願うだけで叶うなら、それは『夢』なんかではない。叶えるためにそれに向かって歩きはじめて、ようやく『夢』になるのだ。

 歩き始めるには遅すぎる。そして何より理由が不純すぎる。そんな考えが、踏み出すべき初めの一歩をスタートラインの内側に縫い付けていた。

 だからそんな『夢』にもなれなかった気持ちは決して口には出さず、何にも書かずに胸に秘めていた。三年。たった三年も待てば諦めもつく。


 だけど、見つけてしまった。

 私のその『夢』もどきを、『目標』として語っている人を。

 住む世界が違うだけで、恐らく気持ちは一緒だった。いや、大きさも思ってきた年月も違うそれを、一緒だなんて言うことは失礼だろう。

 ただ、それに共感を覚え心を動かされた私は、気づいたら縫い付けられていた足を上げていた。

 その人からすれば周回遅れどころか、十周遅れのスタート。

 私はその一歩を踏み降ろし、歩き始められるだろうか。

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