デラシネーション
【中世篇】時雨とエヴィルシリーズ
(1)デラシネ……根無し草
(2)ネーション……国民国家
【これまでのあらすじ】
刀使いの黒髪のヒラヒラ少女・時雨と、俺様白髪黒魔術師のエヴィルは、旅をしていた。
パチパチ……
と焚火が散りて。
思い起こすはさっきまであったか~いメシを分けてあげて、向こうの故郷へ帰ってったヤングメンのこと。
時雨「無事につくかな」
エヴィル「本気で無事に還りなむ帰去来辞、と思えば頑張って無事るだろう」
時「おニューな動詞だね」
エ「改造してこその言霊だぜ」
ぬばたまの漆黒闇の中、てろてろ更けんとす……。
時「故郷ってどんな感じなんだろうね」
エ「それを最初っから持たない俺様に聞くか?」
時「そじゃなくて……こう、空白感というか……」
エ「……そういうことか。【故郷を持たない存在が、自己認識の空白として抱く、仮想概念故郷】たぁどんな意味合いかっつう?」
時「意味合いの正誤じゃなくて、エヴィル君の感じ方だよね」
エ「フィーリング重視?」
時「そもそもぽっかり故郷の空白を抱えてるひとは、どういう風に思うのかな、ってね」
パチパチ……音、黒に消える。
エ「……縛られるこたぁ、ないよな。でも狂おしく大事に思う土地への愛慕も、ねぇわな」
時「羨ましく思う?」
エ「先史時代のドラゴン芥川って文筆業が云うてたが『我々は誰でも我々自身の持っているものを欲しがるものではない。ちょうど、熱烈なる国家主義者は大抵亡国の民であるように』トカ」
時「羨ましいんだ」
エ「からかい上手はよしこさん……俺様は、ムラの王にはなれんよ」
エヴィルは話題を転換する。
エ「そーいう時雨君はどうなんだ。それこそ亡国の民じゃねえか、滅んだ倭国の、もと貴族のお嬢さんや」
時「完膚なきまでに物理的に無くなっちゃったからね」
エ「寂しいのか?」
時「のこったかけらを通して【死んでない】のを見るのは、悪い気持ちじゃないよ」
エ「ん?……あー、各地に散らばった【刀】の技術とか【着物】とか、【カンシブン基本コトノハ】の言語体系や文字……」
時「あと、私のお母さんの事を覚えてる人もいるし。遺されたかけらだよね。ただ……」
エ「歯切れ悪いな」
時「それでも、もうアレは、亡くなったんだよ」
パチパチ……
パチパチ…………
燃ゆるほむらとは不思議なものだ。
エ「そうか」
時「うん」
パチ……パチ……
……ほむらは、無から、何かを生むのだ。
エ「俺様は思うんだよ。恥ずかしいんだが」
時「そりゃあ聞かなきゃね」
(ゴロン)エヴィルは寝転んで星空を見る---何という満天だ!
エ「俺様の故郷はここだよ」
時「……」
きよら星夜に七草そよぎ、那由多の時は刻むを忘れて---
エ「故郷的なものというか……今まさに時雨君と旅してゆるいキャンプしてるこの瞬間が故郷だ」
時「……そっか」
水のように、星が流れている。
エ「だから俺様は書くんだよ。レポートを……この世界、レッズ・エララについての」
時「旅日記『レッズ・エララ神話体系』?」
エ「故郷を描くのは旅日記なんだろうか?」
時「それも、書けばわかるんじゃない?」
エ「実際書き上げてこそかー、そだなー……」
レッズ・エララ神話体系 残響 @modernclothes24
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