異次元からの手紙

【中世篇】時雨とエヴィルシリーズ


#1


2020年に、この世界(いま貴方が小説投稿サイトカクヨムを見てる世界です)は全て崩壊、消滅、消失しました。瓦礫となって崩壊なんつうレベルじゃないです。世界存在が全て消失したのです。存在率≒0%。すべてはTV的グレーノイズの中に消え失せた。


≒《ニアリイコール》、ということは、全く0ではなかった。18だけ、存在があった。

それらが、レッズ・エララという世界を作った。それらは、18柱の神となった。


レッズ・エララという世界は、つまるところ2020年に崩壊消失した世界……「先史時代」を引き継ぐための、代替えの世界でありました。


代替えとはいっても。

やっぱり、18柱みんな、あの世界を愛していたんですよ。


というか、「愛する」という行為は、世界を必要とするんですよ。

グレーノイズの狂気の「無」においては、存在はただ発狂するだけである。


ところで、神学的哲学的問題がひとつ。

「先史時代の次にレッズ・エララが到来した。ならば、先史時代→レッズ・エララの世界時間軸の【外側の世界】、18柱神の【上位存在】が、この世界の外側に存在しているのではないか?」

という疑問です。これは、18柱が集まったその初期から、定期的に議題に挙げられていたものです。


それは、とても正しいのです。


なぜなら、ここに証拠があるからです。

「手紙」と呼ばれている、異次元に渡った者からの手紙が……。



#2


「助けてくれ。しにそうだ」

から、その手紙は始まる。異次元からレッズ・エララに向けて届いた、その手紙は。


彼の名は「エヴィル」という。天才黒魔術師である。

少なくともレッズ・エララの世界において、彼の知識と発想を越す頭脳の「ひと」は居ない。


生まれてから時折、彼はこんな疑問を抱いていた。

「この世界の【外側】があるのではないか?」と。

 それは、異次元の存在。


レッズ・エララの中世において、その発想は禁忌とかいう以前に、狂人のうつろな妄想としてしか語られない。

なにしろ、「先史時代」という概念すら、エヴィルのような第一級の知性がようやく認識しはじめた頃なのだ。


だが、エヴィルは子供のころから、「外側/異次元」という概念が、非常に「しっくりきた」のである。

レッズ・エララの世界の現象は、あまりに巨大で広大で極端な振れ幅を持ってはいる。

しかし、それは「ある基準を、極端に拡大したもの」という風にしか、エヴィルには見られなかった。


その「ある基準」とは、先史時代のこと。

つまり、2019年の今、のことだ。


なるほど、先史時代の復興ルネサンスを、レッズ・エララの一部の神は、もくろんでいる。

このREにおいて、先史時代をより強く、輝かしく、幻想的に仕立て上げることを。


天才エヴィルが、そう思うのも、無理はない。

それでは、引き写しではないか。リミックスという風に表現? ハッ、すればいい臆病者。そこに「新しさ」など何もないではないか。慰撫の揺りかご。再現性のたゆたい。


彼の特殊技能は、

「ちょっと頑張ればアカシックレコードを閲覧することが出来る」

というものだ。

だから、彼はしょっちゅう図書館行く感覚でアカシックレコードに行っていた。貸出カードは20冊までの制限である。図書予約は3日待つ。返却期間は2週間。


そこで、エヴィルは、見つけてしまったのだ。

ちょうど、相棒・時雨と一緒に神を殺し、彼女の妖刀「落葉」に宿る妖精が、不本意ながらふたりの娘となったころに。


「助けてくれ、しにそうだ」

から始まる、異次元からの手紙を……。



#3


落葉(らくよう:刀の精霊、のじゃろり娘)「のぅ、母よ、時雨や。あすこのエヴィルは、この数日間何をしちょるのじゃ?」

時雨「ものっそい真剣な顔をしてるよね。ああいう時は周りをシャットアウトして、完全集中モード入るからね。……でも、確かに今回は、長いね」


時雨の作るおいしいご飯を、いつもだったら

「旨い、うまい、めっちゃくちゃ旨い……!信じられん旨さだぞこれ、ジャストタイムの生理化学だけでは説明つかんぞこれ……」

と、料理を作る方にとってみれば、最大級の賛辞の健啖でもって食べるエヴィルであったが、このところはうわのそらだ。だから時雨もおにぎりとスープだけで留めている(それでも旨い)


だってねぇ。

時雨は思う。

この集中モードが解除された時、エヴィル君はいつも決まって、物凄い信じられない発想の、おもっっっしろいことを言い出すのだ!


それだけで、2、3年は夢に酔えるほどの。

てことは、つまり、世界をぐらんぐらん揺らすほどの、大天才の偉業が、また、っていうこと。


だから、時雨は別に相棒のうわのそらを、不愉快に思ってないどころか、とっても楽しみにしている。


んで。

かくして。

エヴィルが、ようやく、時雨と落葉の方を向いた。


時雨「戻ってきたねっ」

エヴィル「おーう、お待たせさんである……やべぇな。震えてるぜ、今なお。俺様」

落葉「トリップしすぎであるぞ」

エ「Trip、か……Trip、ね。言いえて妙だ。いや、まさに、Tripするのだな」

時「いや、今、まさに旅をしてるよね、私たち」

落「のじゃ」

エ「こんなもん、旅と言えるか!!」


このシリーズはじまって以来の暴言!


落「何を言い出すのじゃ、この美形は!」

エ「もういい!レッズ・エララはもういい!」

時「同人誌『レッズ・エララ神話体系』13巻の作者のひとーっ!(ツッコミ)」


場がワヤになる直前で、エヴィルはすっくと立ち上がり、

エ「時雨君!落葉!」


天才が、恒星よりもギラめいた瞳で、喝破する。


エ「…………異次元、行くぞっ!!」


#4


「おれだよ、おれ。わかるよな、おれ」


エヴィル「さて、俺様がアカシックレコードからちょっぱってきたこの【異次元からの手紙】なんだが、こんなお前オレオレ詐欺かっていう冒頭だ」

時雨「ひどい」

落葉「老化は白髪だけにしとくのじゃ」

エ「後でお前の金襴繚乱のオベベ売り飛ばす。それはともかく、この手紙の書き手の名前は、わからん」

時「えっ?このレッズ・エララ世界の、すごい人なんじゃないの?」

エ「どうも、この手紙を書いた世界……異次元だわな。そこの【ある世界】では、名前がなくなる、らしい。その余波で、こいつの名前がすごく認識しづらくなってる」

落「ふっつうに意味わからん」

エ「俺様もそう思う。だが、一応、こういう理屈が通ってるらしいんだ……



異次元は、複数の世界が並列して存在している

その中のあるひとつの世界では「名前」と「存在」の関係が、逆になるという。


名前と存在が逆、とは……例えば、俺様たちの肉体。顔、手、足。これが、全部「顔(かお、face、等)」「手(て、hand、等)」、という「名前」だけになる。名前、とは言葉だが、つまりこの世界は「言葉」だけの世界なんだな。


……んで、ここが一番のロジカルジャンプポインツなんだが……


 その世界でパワーを稼ぐには、言葉の強度と量がごっつければ良い。


世界で何か事を為そうとするには、有形無形のパワーは要るわな。そういう意味あいだ。

とにかく、言葉はその世界においてはパワーなんだわ。

そこで、この手紙の作者は「自分を構成する名前(言葉)を全て【否定系】にして、爆発的なパワーを得た」


……ということなんだが。さて、質問タイムだ」

時雨「はい先生」

エ「おっと時雨君はやかった」

時「まず、この人はパワーを得たんだよね」

エ「間違いないな」

時「そして、名前を失った。おそらく、他の肉体も失った……?」

エ「自分のパーツを全部失ったのだから、そう考えるのが、まず自然ではあるが、予断は許さない」

時「じゃあ質問するけど、このひと、自分を失ってパワーを得て、どうなったの? 何をしたかったの?という疑問もあるけど、とりあえずそれの回答は2番目以降でいいや。とにかく、この言語世界で【どうなったのこの人】? 死んだの? 生きてるの? 結局何かを為せたの?」

エ「そう思うよなーーーーーーーーーー。(ド納得) じゃ、回答タイムだ。まず、時雨君は2番目でいいって言ったが、こいつの【欲望=何をしたかったか】のとこをまず補助線で引こうか。ええと、これ言うのすっげぇガクっとくるんだが……」

落葉「ひどい嫌な予感がするぞぇ」

エ「まず、こいつがこの言語世界の前に居たのが、性欲発散を禁忌とする世界で……」

時&落「「あっ予想以上のヒドさ」」

エ「長らくエロスバーストが出来なかったという。それはともかく、エロが溜まったこいつは【次の世界ではちょっと良い思いをしてもいいんじゃないか】って思ったんだな。まぁ体感時間にして6500年一滴もエロスバーストが出来なかったんだからしょうがないが……」

時「その話もすっごーーい聞きたいけど、話が逸れてきてるから本筋お願いっ」

エ「マジすまん…………。この手紙、こういう本筋逸れなのか本筋なのかがあやふやになってく手紙でな……内容的に。話を戻すと……


 つまりこういうことだ。こいつは「ちょっと良い思い」ということで、この言語世界で英雄になれば、ちょこっとはハーレムうはうはになれるんじゃないか、っていう考えをしたのだ。

 折しもこの世界は、言葉と言葉が、整合性と正論性のために、常に争ってるような状態だ。安らぎとか平和っていうのがない。だから、こいつはこの戦争をなくして、英雄になろうとした。

 で、結局、己の言語を【否定系】にする、っていうのが、この世界にとってはものっ凄いテロリズム的発想で、所業なわけだ。

 でも、この手紙の作者は、それでもって言語世界の戦乱をすべて統一した!」


時雨「おおーー!英雄だ!」

エヴィル「そしてそいつは一晩だけ良い思いをして、次の世界に行ったとさ」

落葉「なんじゃ、結局エロか」

エ「……そう思うだろ、ところがこれ、あっさり書いてるが、とんでもないことをしててな」

落葉「わくわく」


 手紙の作者は、この世界で思いを寄せてた少女たちと、良い思いをしようとした。少女は、言語の粋を集めた超エロいことをしようとして……手紙の作者が体感時間6500年ぶりにカウパーを漏らした。そしたら世界の法則が変わった。言語世界から、肉体世界に変わったのだ。


時雨&落葉「ほへっ?」

エヴィル「その世界の言語統一王による、圧倒的な言語破壊とネゴシエーションと叙事詩の末だからな……。世界が【言語はもういい!肉体だっ!】っていう風に舵をきったらしい。そしたら、言語世界の文系の繊細な少女たちが、一瞬にして【転換】したらしい」

時雨「あっ、その後の展開読めた」

エ「なんと実に健康的な褐色肌のビキニギャル娘たちに……」

落葉「のう、エヴィル」

エ「なんだい落葉」



落「この話、

    与    太徹頭徹尾くだらねー過ぎる話   

 ではないかっっっっっ!!!!」



エ「俺様もそう思う!だがな!冷静に考えろ!こいつ、世界の法則、因果律をサラっと全部書き換えてるんだぞ!」

落「知らんわ!どうせこの手紙作者、性的趣味が世界ごと変わったから、ギャルたちといっちょスカっと爽快して、もうええわどっとはらいっ!と次の世界いったんじゃろう!」

エ「それだけだったらよかったんだよなぁ……実はこれまでの少女を敬慕する筆致が、6500年の禁欲生活で、非常に古典少女趣味的な静謐だったんだが、一気に肉体ギャル化したもんで、筆者もう「アアアーッ!アアアーッ!」とむしろ発狂しそうで、もうどーだっていいやーーー、と一発涙とともに発散して……」

時「ひどい与太」

エ「ひどいよな。で、こういうのが初心者向けなのが異次元なんだが……」

落「おなかいっぱいじゃ」

エ「だよなぁ……」



エヴィル「というわけで、異次元行こうと思うんだが」

時&落「ええーーーーーーー……………………」


(「異次元からの手紙」完。たぶん)

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