レッズ・エララ神話体系
残響
サラマンダー、疾走する嫉妬
---神代の神話。ある獣の話。
(レッズ・エララの世界に古代より伝わるはなし。主に古代南天王国のあたりにて)
昔むかしのことです。ある獣がいました。かなり神的存在に近いのですが、どうしても神的存在になれない獣でした。
その名を炎獣、サラマンダー。かれの炎は、満たされぬ嫉妬によって燃えています。
一日の23時間、嫉妬に燃えています。この世の成功者を妬んで、この世の幸福者を妬んで、この世の平凡者を妬んでいます。残り1時間は、猛烈な鬱感情に苛まれて冷たくなります。地獄の生とは彼の生き様のための呼び名です。
ある時、南国の美しい姫君に出会いまして。当然サラマンダーは妬むわけです。ところが、姫君はこう言いました。
「暇なの?」
炎獣は勢いあまって、焼き殺してしまいそう。ところが姫君,
「暇ならわたくしを守れば?」
そんな酔狂な発言から、どういうわけか気まぐれか、サラマンダーは姫君に付き従うようになりました。姫君を狙う悪賊、敵国を返り討ちにする日々です。
……すると炎獣は、いつしか嫉妬する時間が減っていました。
姫君は正しかったのです。有体な話、「暇」と「自分だけ」の人生は、嫉妬に狂わせるのだということを。サラマンダーは深く姫君を忠慕しました。
ところめが、実は姫君は不治の病に侵されていました。炎獣は敵からは守れますが、姫を治せません、救えません。
姫君は最期に言いました。
「サラマンダー、自分の幸せのために生きなさい」
バカを申すな姫君、と獣は言いました。貴女あっての生だろう、貴女の教えと矛盾しているだろう---
「矛盾して……いないのよ」
姫君はさらっと息を引き取りました。
それ以来ずっとサラマンダーは南十字星の空を駆けています。姫を悼む為に、忘れないために、空を赤くして刻むために。サラマンダー、その炎獣は知ってか知らずか、己自身がどうしても認められずか。
姫君が託した「
暁の空が、赤く悲しく見えるのは、そういうことなのですよ。
【解題】炎獣サラマンダーの神話類型は南国の騎士道精神の発露として、永く伝承された。が、その実、意外なほどに、民間においては、ここで描かれている「人生を狂わす嫉妬のタネ」という本質は、教訓として語られてはいない。「認められたい」欲に悩む人間とは、なかなかに度し難い。
(文:比較神話研究家「星詠み」)
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