第84話、銀色に染められても、ピュアな彼女の日々はつづく



と……。



「たいちょーっ! おいてくなんてひどいでありますーっ!」

いきなり僕のすぐ目の前、空気が歪んだかと思うと、ぽかっと空洞が空いて。

モトカが、リオンか、ディアか、ベルが、次々と転がり出てきた。



「うう、あやうくつかまるとこでござった」

「全く、先生は自分勝手極まりないね。いつの間にか復活したかと思ったら、ディアたちの奮闘など全くの無視であっけなくカタをつけてしまうのだからね」


そして、僕の姿を発見するや否や、口々に非難のセリフを吐く。



「いや、まぁ。ベルがいるからな。ベルの力があれば、心配ないって信じてたし」

「はっ。もったいなきお言葉です」

「くっ。こう考えると、記憶なかったほうが可愛げがあったかもしれないね」


ベルのつくもんとしての力の一つに瞬間移動、っていうのがあるのだ。

まぁそうは言っても万能じゃなくて、僕のいるところに限られるわけなんだけど。

それを聞いたベルは、堅苦しくも得意げで。

そんな様子を見てたディアが、不満そうにそうひとりごちる。



何だかあっという間に賑やかになった、茶の間だったけど。


ぽつんと置かれたサングラスが寂しくて。

一刻も早く文句言ってやらなくちゃって、そう思う。



「よし! さっそく全員揃ったところでっ。クリア奪回作戦、開始するで!」

「ボス、また何かたくらんでるっすね~。悪い顔だ……」



そして。

突然宣言した僕の言葉と、カチュの眠そうな呟きを引き金にして。


その作戦は、始まった……。







それから、幾日が経って。




ついに、僕自身の足らない言葉のせいで役目を終えたと思い、消えゆこうとするクリアに、今までのは夢でした! ……なんていうドッキリ作戦(僕命名)の成功が目前に迫ってくるところまでやってきた。



僕は今再び、駅前にあるショッピングセンター……『道志摩屋』の中にある、ジャンクショップの前にいる。

そこには、てんてこ舞いで僕らが奔走していたことなど知る由もないクリアと、作戦の肝となるかがみ姉さんがいるのだ。



「終わりましたわ、おやかたさま」


と、そんな事を考えてる僕の前に、かがみ姉さんが今回の作戦において最も重要な、クリアだけの時間を戻す、といった一仕事を終えて戻ってくる。



「首尾はどうや?」

「ばっちりですわ。ちょっと、お店の人が怪訝な顔をしてましたけど」


僕がそう訪ねると、はにかんでOKのサインをくれるかがみ姉さん。



「そんなら、最後の仕上げを始めよか」

「ええ。早く行ってあげてください」

「そやな。ちょっと遅れて困らせてみるのもありかもしらへんけど」

「全く、おやかたさまってば。人が悪いんですから」


この作戦が際終局面に至るまでの苦労を思いだしたからなのか。

なんだか複雑な苦笑を浮かべるかがみ姉さん。


その言葉には、僕が提示した作戦についてのことも含まれているのだろう。


作戦。

それはもう、長ったらしい正式名称にすべてが集約されているといってもいい。



僕の記憶が戻るまで、という契約を純粋なまでに信じて『もの』の姿に戻ってしまったクリア。


クリアはきっと、サングラスに戻ってすぐに気づいただろう。

クリアがこうして消えてしまったことが、僕の望んでいた……願いに反する事だってことを。


自惚れでなく、クリアがその事をずっと後悔し続けるだろうことを、僕は分かっていて。

クリアにそんな目を合わせる自分が許せなくて。


だから僕は、やり直すことにしたのだ。

振り出しに戻るクリアにあわせるように。



その際、かがみ姉さんが言ったように僕もすべてを忘れてしまったら、結果は同じ事になってしまうかもしれない。

そんなわけで僕が代わりにしたことは、クリアと出会ってからの紅葉台で過ごし、出会った人たちの記憶から、僕という存在を消すことだった。


そこには【妖の人】としての正体を明かしてしまったことによって、僕自身がここにいられなくなる事態を回避しようと言う打算も働いていて。



思い出すのは。

記憶を消す瞬間の、潤ちゃんを初めとする紅葉台で出会った人たちの、驚き、呆気に取られた表情。

正しくかがみ姉さんの言う通り、僕は自分勝手で、人の悪いヤツなんだとつくづく思う。


ただそれは、言葉で言うほど簡単じゃなかったのも確かで。


【妖の人】の長である紅恩寺家の跡取りとしての力、《全言統制》。

まるで神のごとく、僕の思うままになる【異世】を創り出すその力で、地道に一人一人、紅葉台に来てからの僕を忘れてもらったんだけど。


そのせいで力を使いすぎすっかり燃え尽きて。

赤かった髪は、馴染みの白銀色になってしまっていた。

さらに、全身が筋肉痛のように身体が言うことを聞かず、さながら老人のようで。

まぁ、髪に関してはそれはそれで都合がいいわけだけど……。



後は、僕たちも振り出しに戻る。

そのフリをするだけだった。

他のつくもんのみなさんには、これからなぞるだろうクリアの為の日々に備えて、待機してもらっていて。



「そんなん、今更やろ?」


僕が笑顔でそう返すと、かがみ姉さんは困った顔をしてちょっと笑って。



「……では、わたくしは先に戻っていますね」


そういい残し、去っていく。


僕はかがみ姉さんを見送り、緩む顔をちょっと引き締めて。







「お? こんなとこにジャンク屋あるんやなぁ」






ちょっとわざとらしい声をあげながら……。

僕はこれから始まる、クリアとの新しい日々に向けて。

歩き出していったのだった……。






―――それは春を終え、夏を迎えようとする、ある日の出来事。





   (終わり?)






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九十九%りばてぃ~We love銀色クリアデイズ~ 陽夏忠勝 @hinathutadakatu

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