人食い横断歩道 -その横断が世界滅亡への始まり-

大鴉八咫

横断歩道が滅ぼす世界

 横断歩道が人を食べ世界を滅ぼした、そんな事を言うと西暦を生きた世代の人たちには、私のことを頭がおかしい奴と思い白い目で見るだろうか。

 今の時代を生きている人たちは、そもそも横断歩道というものを知らないかもしれない。

 クロスウォークワームと言った方が通じるだろう。アレが、元はただの道に書かれた歩行者横断用のマークである事を話したとしても、これもまたおかしい奴と白い目で見られてしまうだろう。

 しかし事実として、横断歩道が人を食べ、人類を滅ぼした。


 西暦を生きた最後の世代として、私はこの世界崩壊の事実を後世に伝えなくてはならない。



 *



 世界崩壊の始まりは日本と呼ばれる国のある都市だった。

 渋谷と呼ばれるその都市は、ターミナル駅を中心として放射線状に道が広がり、当時の若者文化の中心地であり日本でも有数の繁華街となっている都市でもあった。一日中人々が行きかい深夜まで人通りが途絶える事が無い眠らない街であった。

 ターミナル駅の前には象徴的な石像が建ち、その先の五叉路には世界一有名であろう交差点の一つと言っても良い渋谷スクランブル交差点が存在し、そこには五本の横断歩道が描かれていた。

 一回の歩行者通行時には三千人もの人間がその交差点を行きかい、日を通して約二十万から四十万の人間がその交差点を通過していたとされている。


 そして世界崩壊の最初の一歩はこの交差点から始まった。


 ある日の昼下がり、渋谷スクランブル交差点の歩行者信号が青になった。人々が様々な方向から交差点に流れ込み、その場は人で溢れかえる。最前列で歩き始めた人が交差点の中心部辺りに到着した頃、その現象は始まった。

 それは何の前触れも無く起こった。唐突に横断歩道の上を歩いていた人間たちがその場から消えたのだ。そして同時に響く鈍い咀嚼音、それは足元の横断歩道から響いてきた。消えたかと思えた人間たちは血しぶきを上げながら横断歩道に飲み込まれていってたのだ。その姿はまさに横断歩道がその上を歩く人間を飲み込んでいるようなそんな奇妙な印象を見る人に与えた。

 スクランブル交差点といえども、道路全面に横断歩道が描かれているわけでは無い。丁度道路部分に居た人たちは目の前で突如人が血しぶきを上げながら消える現象を目の当たりにした。

 しかし一瞬の驚きもすぐ次の瞬間には歩行による惰性移動により自身も横断歩道の上に到達し消える。そうして、渋谷スクランブル交差点を通行しようとした三千人の内、実に八割の人間が横断歩道にまさしく食われたのだ。

 

 歩行者信号が青になり、点滅し赤に変わるその二分間の間に実に二千四百人の人間が横断歩道に食われ世界から消えた。その様子はまさに阿鼻叫喚を体現した地獄絵図だった。自身の上を歩いたものを貪り食う横断歩道、そしてその血しぶきすらもその内に取り込む。すべての事が終わった後は、何も残らない元の横断歩道が残っているだけだった。

 運良く交差点を抜けれた者、横断歩道の描かれていない道路に立ち尽くした者などの僅かな生き残りは何が起こったのか分からずその場に立ち尽くした。

 そして次の惨劇が起こる。


 歩行者信号が赤になる。つまり自動車用の信号が青になった。状況が呑み込めないまま先頭に止まっていたトラックがクラクションを鳴らしながら交差点を左折しようと動き出す。そのまま、横断歩道の上に到達し、そして鈍い破壊音を立てながらトラックが消えた。トラックの陰になり交差点の状況を把握できていなかった乗用車達も次々と動き出しそのまま横断歩道に食われる。最終的に一台のトラックと四台の乗用車が横断歩道に食われた。その状況を目の当たりにし、横断歩道の直前で急ブレーキを踏んだ乗用車に後続車が追突、その勢いで微かに移動した追突された乗用車も食われることとなった。

 次々と追突する乗用車の多重事故により交差点は混乱を極めていた。

 駅前の派出所から来た警察官も状況を把握しきれないまま横断歩道の上を歩きそのまま食われた。また、事故を見ようとやじ馬で集まってきた人間たちも同様に横断歩道に食われ最悪の悪循環が発生していた。まさに蟻地獄に追い込まれる蟻のごとく次々と犠牲者が増えていった。

 横断歩道の上を歩くと食われる、などと言う常識では考えられない現象を冷静にとらえられる人間など居るはずも無く、渋谷スクランブル交差点での混乱が収まるのは事故発生から優に二時間以上が経過した後だった。


 しかしながら、混乱が収まったのはあくまでも渋谷スクランブル交差点でのことである。人食い横断歩道の現象は渋谷スクランブル交差点だけにとどまらなかったのだ。渋谷スクランブル交差点での最初の惨劇から十分後、すぐそばの宮益坂下交差点、井の頭通り入口交差点で同様の現象が発生した。渋谷スクランブル交差点と同様に人間を食い、自動車を食った。そして惨劇は広がる。渋谷スクランブル交差点を中心として、同心円状に横断歩道が変貌を遂げていった。次々と変貌していく横断歩道に人間が食われ、自動車が食われ、そして応援に駆け付けたパトカーや消防車などが食われた。

 次第に勢力を拡大するそれは、最初の事件から一時間後には東京二十三区すべての横断歩道が人食い横断歩道に代わり、半日後には関東全域、そして一日後には日本全域まで謎の現象は勢力を広げていた。

 

 一日で日本全土の横断歩道が謎の変貌を遂げ、未知の現象に日本中の国民は困惑していた。そんな中、日本政府も対応に窮していた。国民に混乱が広がらないよう官房長官による緊急記者会見を行ったが、そもそも原因が分からない現象のため発表内容は「現在事象の確認と原因究明中であり、日本国民の皆様においてはむやみに横断歩道の上に行かない様に注意をして欲しい」と言う締まらない内容しか発表できていなかった。

 緊急で有識者会議を開こうにも、現象が現象のため誰を招聘するか、そもそも専門となる分野が存在するのかと言う問題に頭を抱える事になる。

 

 しかしそんな日本の状況をあざ笑うかのごとく横断歩道は猛威を振るう。


 日本国民がパニックに陥るある事件が起こる。それは、民放テレビ局のあるキー局の屋上から一台の報道ヘリが飛び立った。緊急生放送として上空から現在の状況の報道のためカメラを回していたその報道ヘリはテレビ局を出た直後、たまたま地上に存在していた横断歩道の上空を通過した。そしてその瞬間、報道ヘリは破壊音と共に地上に墜落しそのまま消えたのだ。生中継として放送されていたその映像は墜落直前までアナウンサーの緊張した顔を写していたが、一瞬にして暗転し砂嵐が流れる事態となった。すぐさまそれはスタジオの映像に切り替わったが、この映像が放送直後にインターネット上の動画サイトにアップされ瞬く間に拡散され多くの国民が知る事となった。

 この報道ヘリの消失から時を同じくして、日本上空を飛ぶ旅客機が突如として消失すると言う事件も発生していた。報道ヘリの映像と、旅客機消失を結びつけるのは容易であり、憶測がネット上を飛び交った。日本政府は緊急措置として日本上空を急遽飛行禁止区域とし日本の空の交通網は完全に麻痺することになった。また、この裏では報道こそされていないものの、スクランブル発進した自衛隊、米軍それぞれの戦闘機も同様に消失する事件が起きており、その事も飛行禁止区域の緊急発令の一役を担っていた。


 航空網の混乱もさることながら、深刻な事態となっているのは陸上の交通網である。自転車、バイク等は路肩を使うことにより横断歩道を避け何とか通行することができたが、自動車の交通はほぼ不可能になっており日本全国で交通網の麻痺がおこった。これによりまず深刻な問題になったのは都市部へのスーパー、コンビニなどへの食料品や生活用品の配送がストップしたことだ。一週間も経つ頃には供給の絶えた商店などの商品棚は空になり、地方自治体や自衛隊による備蓄食材の配給がスタートした。しかしそれにも当然制限はある。いつ供給がストップするかと言う不安に人々は怯える事になった。

 また、別の問題も発生した。交通輸送網の麻痺により、燃料の供給がストップする。プロパンガスなどの配送はもとより、ガソリンスタンドなどへの燃料の供給は完全に止まる。また、各種発電所でも燃料不足や人材不足が顕著になり計画停電が実施される事態まで被害は拡大していく。また、その他ライフラインの維持にも問題が多発しており、ひと月もたつ頃には都市部での生活は困窮を極める事態となった。

 

 その様な事もあり人々は横断歩道の多い都市部を避け、親戚や友人を頼り郊外や田舎へ移動する者が増えた。その際には現状横断歩道による消失の可能性の無い鉄道網が大型輸送の最後の希望となっていた。


 鉄道網による移動がピークを迎え都市部から郊外への大移動が起こり始めてはいたが、それまでの間日本政府も何もしなかったわけでは無かった。各種省庁、研究者、様々な企業や、警察、消防、救急、そして自衛隊、果ては宗教家などを総動員してプロジェクトチームを発足し事態の究明にあたっていた。

 まずは根本的な問題の確認と言う事で、横断歩道対する各種検証が行われた。

 有機物、無機物関係なく飲み込む事は今までの状況で分かっているため、プロジェクトチームは横断歩道に飲み込まれる物質の素材や量の確認を実施した。素材に関して、様々なモノを横断歩道に投棄したところ、基本的にどのような物質であろうとも飲み込むことが判明した。土や水、金属、ガラスからプラスチック、爆薬や毒物までも飲み込み、鉄を溶かした高熱体や液体窒素、果ては放射性廃棄物までも飲み込むことが分かった。GPSや無線機、探知機などを投棄し飲み込んだ物質が何処へ行くのかなど確認したが、飲み込まれた瞬間にそれら装置からの反応は一切消失し確認することはできなかった。また、化学物質などを投棄し、横断歩道にどのような作用が発生するのか確認したが、どのような検査をしても反応は全くと言っていいほど現れなかった。付け加えると、放射性廃棄物を飲み込んだ後は放射能を完全に遮断することが確認された。


 次に量の確認であるが、これは海岸近くの横断歩道に対して海水を組み上げ横断歩道に流し込むといった方法にて確認が行われた。単純な方法ではあるが、一昼夜取水ポンプを稼働させ海水を流し続けても横断歩道の中から海水が溢れ出る事は無かった。ジャンボジェットの様な旅客機すら飲み込むことを考えると、その内部容量は無制限である可能性が高い。


 また、自衛隊の10式戦車を用いた44口径120mm滑腔砲徹甲弾による砲撃にも全く被害は発生せず、横断歩道に接触する際に徹甲弾がそのまま消失した。

 次に消失対象範囲に関しての考察に関して、上空は報道ヘリや戦闘機、旅客機などの消失の報告もあり、高高度の上空は横断歩道の効果範囲と考えられた。また、地下に関しては横断歩道直下の下水道内にて観察した結果、地下にもその効果範囲は及んでおり横断歩道直下と思われる場所に物体を投棄するとそのまま消失することが確認された。

 様々な調査を行う中で一点、面白い事が分かった。横断歩道が人食い化する前から横断歩道上にあるモノ、例えば信号機や街路樹の枝、乗り捨てられたままの自動車やゴミの類など、横断歩道が変貌する前から存在するものには全く反応しない事が分かった。しかし少しでもその物体を動かすと途端に横断歩道は牙をむき、そのモノを消失させる。


 日本政府による調査でも現状打破ができない中、事態は再び動き始める。日本のみの現象と捉えられていた人食い横断歩道が他国でも発生し始めたのだ。アメリカを皮切りに、イギリス、フランス、ロシア、中国等大国の主要都市で同時多発的に人食い横断歩道が発生した。日本同様に横断歩道は猛威を振るい世界各国の交通網を寸断し、航空網はその役目を全うできなくなっていた。

 そして、最終的には世界中の横断歩道すべてで同様の事象が発生し、地球規模のパニックとなっていった。真綿で首を絞めるように、横断歩道により世界は崩壊向かって歩んでいった。

 

 地球規模のパニックが発生し人類の終焉が噂され始めたある日、日本のとある企業が人食い横断歩道に関する新たな現象を観測した。この企業は国内の地図情報を作成する会社であり、現在は横断歩道の存在しない脇道などを使った迂回路マップを作製し一般公開していた。その迂回路を調査していた調査員の一人が奇妙な事に気が付いた。

 今まで存在していなかった場所に横断歩道が出来ていたのだ。横断歩道は大抵、交差点や交通量の多く歩行者が良く通る場所などに設置されるが、調査員が発見した横断歩道は車も通らないような路地裏にひっそりと横断歩道が存在していた。横断歩道人の手によらず生まれた瞬間でもあった。そしてその日を境に横断歩道の増殖が始まる。今まであった横断歩道のほんの二メートル先に新たな横断歩道が誕生し、トンネル内やあぜ道、私道など道路と名のつくところに次々と新しい横断歩道が誕生した。突然の横断歩道の増殖に、都市内はおろか郊外にも安全な道が減少していった。唐突に現れる横断歩道は道を歩くものを混乱させ、横断歩道を避ける道は迷路のごとく複雑な道順となって人々を苦しめた。

 

 そしてこの横断歩道の増殖は、日本国内だけでなく、世界各国に広がり、今まで横断歩道が存在しなく安全とされた国や地域にも広がっていった。ことここに至って、各国は重い腰を上げる。国際連合内に内部組織として横断歩道対策組織CMO(Crosswalk measures organization)を設置、各国連携の元、横断歩道問題に取り組むことになった。CMOは人食い横断歩道の呼称をクロスウォークワーム(Crosswalk Worm)に決定し全世界でその呼称が使われるようになった。

 この取り組みは一定の成果を上げる。CMOに設置された研究所はクロスウォークワームによる物質の消失に対して光や電波等の歪みが発生しない事から、指向性エネルギーに関しては消失効果が発生しない事を解明。CMO研究所とアメリカ国防総省、日本の自衛隊、欧州原子核研究機構などの共同開発により荷電粒子を粒子加速器により亜高速まで加速させ発射させる対クロスウォークワーム用兵器である荷電粒子砲が完成した。

 巨大な加速器が必要な事により汎用性は無いが、その荷電粒子によるビーム照射により横断歩道の白線を消失させることに成功。個体のクロスウォークワームが持つ白線を約半数消失させることにより、クロスウォークワームの機能を無力化できることが発見される。

 

 粒子加速器の小型化と共に、その他実用に耐えうる指向性エネルギー兵器を急ピッチにて開発。その兵器を用いることにより人類の反撃が始まる。

 人類の反撃と時を同じくしてクロスウォークワームはその増殖を止めた。それが人類の反撃の成果か、或いは地球上にクロスウォークワームが飽和しただけか、それとも別の何かがあるのかは判別できなかったが、人類が初めてクロスウォークワームの脅威を止める事に成功した瞬間であった。

 

 CMOにより各国に対し対クロスウォークワーム用兵器の情報が開示され、その開示情報をベースにし各国は駆除用の兵器を開発していった。大量に発生したクロスウォークワームの駆除が徐々にではあるが本格化していった。

 そんな中、駆除を行っていた南米の部隊がジャングル奥地で一体のクロスウォークワームの変異種を発見する。その個体は縞模様が赤いクロスウォークワームであり、今まで行っていた指向性エネルギー兵器による対応が効かない特殊な個体であった。その情報にCMOを含む各国政府は騒然とする。現在唯一といってもいい対クロスウォークワームの対抗措置が無に帰する可能性があったためだ。そして悪い情報は続く。ジャングル奥地にて発見された赤縞のクロスウォークワームは一体だけであったが、その発見から数日後その周囲にあった別の個体に赤色が伝播された。もとは白縞であった個体が赤縞に変異したのだ。赤縞へ変異に関してはあくまで周囲の近距離に居る個体のみにだけ伝播し、遠方の個体には伝播しない事が観測された。赤縞クロスウォークワームを中心にしておおよそ半径百メートル以内の個体にのみ赤縞は伝播していった。

 CMOを中心とする各国政府は赤縞クロスウォークワームの伝播が広がる前に、その全戦力をもって赤縞クロスウォークワームの周囲に存在する白縞クロスウォークワームを殲滅させる事にした。まず赤縞を中心とした半径一キロメートルの範囲を戦術弾道ミサイルにより焦土とした。クロスウォークワームは戦術弾道ミサイルでは駆除できないが、平地と化した大地にて対クロスウォークワーム特殊部隊が白縞模様のクロスウォークワームに対して対クロスウォークワーム兵器によって殲滅していった。それにより赤縞の拡大を水際で食い止めることに成功した。


 これにより人類側は攻勢を強める。CMOと各国が協調して次々とクロスウォークワームを殲滅していった。

 この時点で人類は最盛期の四分の一まで減っていた。大都市の大半はクロスウォークワームに蹂躙され破壊された。わずかに残る人類はクロスウォークワームを避けるため、郊外や森林、山岳地帯などに逃げて行った。

 一時はその特異性に劣勢に立たされた人類であったが、対応方法さえわかればクロスウォークワームは恐れるものではなかった。なにせその場から動かないのだ。動かない敵を一方的に蹂躙するだけでよいのだ。

 むしろ何故人類がここまで追い込まれたのかが不思議なぐらいだった。もとは横断歩道という人類の作り上げたただの模様、歩行者横断用の交通マークだった事が心理的に影響していたのかもしれない。まさか道路に描いただけの模様が人を食べるなんて。そんなあり得ないような事象に人類の頭が付いていかなかったのかもしれない。


 人類優勢状態でこのまま事態は収束するかと思われた。しかし事態は急展開を迎える。


 クロスウォークワームは元が横断歩道のため動くことが無い。それが常識であり、人類が有利である唯一の点であった。

 そのため対応策が分かればその駆除にはあまり労力を使う必要が無く対応することができる。そんな状況が一変する出来事が起こった。

 クロスウォークワームは自らの存亡の危機を感じ、その自身の形態を変異させたのだ。今までは描かれたその場、あるいは増殖したその場に固定されそこから動くことができなかった。しかしその突然変異により、クロスウォークワームはついに移動するための術を身に着けたのだ。自身の縞模様を蛇のように蛇行させ前に進む事ができるようになった。まさに生物としての進化だ。その蛇行運動により前進、後退、横移動も可能になる。半二次元的存在である事もあり、移動範囲には制約は無かった。起伏のある地形はもとより、建物の壁や、障害物などにも張り付くようにして移動が可能となった。移動速度は人間が歩く程度の速度で、個体個体が重なり合う事は無いが、その進化は人類にとって唯一の優位性を奪うのには充分であった。

 クロスウォークワームは移動することにより、その移動線上あるモノや障害物などを取捨選択して自発的に食べるようになっていった。また赤縞クロスウォークワームもその数を増やしていく。自由移動ができるようになり、その伝播範囲まで移動することが可能となったのだ。ゆっくりではあるが赤縞クロスウォークワーム勢力を増していく。


 そしてクロスウォークワームの人類に対する侵攻が始まった。


 クロスウォークワームが大群となり人類に迫る。別々で存在したクロスウォークワームが意思を持ったかのように動き人類に襲いかかってきたのだ。人類は分断され、包囲され、各個撃破される。世界各地のあらゆるところでクロスウォークワームによる蹂躙が始まった。

 もちろん人類側も黙って蹂躙されるだけではない。進化したクロスウォークワームと人類の戦いは苛烈を極めた。しかし対クロスウォークワーム兵器の数も整わなず、赤縞への対抗策もない人類はジリ貧の撤退戦を強いられる。移動手段を得た進化したクロスウォークワームにもはや敵は居なかった。CMOや各国軍の抵抗も風前の灯火でしかなかった。


 クロスウォークワームの進化が起こり、その半年後。

 世界は崩壊した。



 *



 世界が崩壊し西暦が終了してから五十年が経過した。

 

 世界は崩壊したが、人類はまだ滅亡していなかった。地球と言う惑星の最上位の種に君臨したクロスウォークワームの陰に隠れながら僅かではあるが人類は生き残っていた。崩壊し廃墟となった都市群を捨て、クロスウォークワームの発生数の少ない山奥などに隠れ住んでいた。

 また、人類の台頭を諦めずレジスタンスとしてクロスウォークワームに対抗する勢力も僅かばかり存在した。彼らは旧世代の武器を用い、微力ながら抵抗活動を続けている。状況は芳しくないが、人類はまだその生存を諦めていなかった。


 しかし、残念ながらクロスウォークワーム対抗するための力を人類は持ち合わせていない。今現在は我が物顔で君臨するクロスウォークワーム、横断歩道の姿を確認したら我々は逃げるしか術はない。

 だがしかし、そんな状況を変える一手をこの後の世界を生きる若者たちが作ってくれると信じている。


 西暦を生き、人類の、世界の崩壊を見た私はそう信じている。

 未来にある人類の解放を信じて、今は筆を置こうと思う。


 横断歩道を横断する際は一回立ち止まり右を見て、左を見て、そして下を見て問題がないか確かめてから渡って欲しい。

 その横断歩道は人を食べる習性を持っているかもしれない。

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人食い横断歩道 -その横断が世界滅亡への始まり- 大鴉八咫 @yata_crow

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