終章 かくして鷹は舞い降りて

 風がそよいでいた。

 夜風が男の頰を撫で、彼は一つくしゃみをする。

 それを横で見ていた女が笑い、草原の丘に体を横たえた彼女は頭上の空に目をやった。

 真っ黒な空に、光の砂を撒いた様な星々が瞬いている。時には星が固まり霞の様にもやを作り、それが空を流れる川の様な、不可思議な光景を作り上げていた。視界一杯に広がる満天の星を眺めていると、仰向けで寝ているにも関わらず地表を見下ろしている様な錯覚を覚えた。

 そんな彼女の視界に、男が割って入る。二人は少し何事かを言い合ってからお互いに笑い、そうして男も、女の隣に体を横たえ、同じ様に星を見上げた。

 しばらくして、遠い丘の下の村から、小さな子供が一人、近付いてきた。ある程度まで近付いて男達がその姿に気付き、子供もその様子を見て足を止める。子供はその場で大きな声で叫び、まだ焚き火を囲んで酒を飲み笑っている、丘の下の大人達を指差した。

 男はそれに返事を返し、ゆっくり立ち上がる。子供はそれを見て踵を返し、村へと駆け戻っていく。悪戯っぽく笑って、女は男に左手を引かれ、腰を上げた。

 二人は、村へ戻ろうとする。

 だがその時二人の耳に届いたのは、それまで聞いた事も無い、地響きの様な唸り声だ。大気を震わせる低い、巨大な唸り声は徐々により大きなものになり、やがて耳をつんざかんばかりになる。

 耳を押さえていた二人は、音の正体が自分達の頭上から近付いている事に気付く。

 そうして二人は顔を上げ、『それ』を見た。

 宇宙船が、近付いている。

 


(了)


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拝啓、世界の底より 宇津木健太郎 @KChickenShop

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