私に恋して??

亜夕@宙姫

第1話 これが初恋!?

【発音ミク】ある日の北海道支部


あの日私は諦めてしまっていた…

H5の運転士として、最後まで任務を成功させることを…私にはもう無理だって塞ぎ込み逃げ出そうとした。


私が出来ないのなら、他の運転士の友達である…速杉ハヤトくん、この人にしか出来ないと思った…。


「私には無理です、乗り物酔いがあるいじょう私には…だから貴方が私のH5に乗ってください!!」


彼は私のそんな言葉に迷うことも、考えることなく、断ってきた…。

私は何も言えず彼を見つめる、彼は真っ直ぐ私を見返してきた…真剣な眼差しで…。


「そんなのダメだよ!発音さんは、H5の運転士なんだ、乗り物酔いは仕方ないよ…?でもそれで自分の任務を諦めるなんて…それこそ運転士失格だよ…。」


私はこの言葉に胸がチクリと痛んだ…確かに、彼の言った通りで、運転士失格…と言われても仕方ないと思った、私の乗り物酔いは戦いから逃げる為の言い訳に過ぎないって、諦める為の言い訳だって気付かされたから。


「…乗り物酔いが怖いんです…どんなに訓練してもいつなるか分からなくてっ…」

「その時は、俺がカバーするよ!"誰にでも弱点はあるんだ、だから協力していけばいいんだよ" 」


その時気付かされた…私が本当にすべき事、それは逃げることなんかじゃない、諦めることなんかじゃないって、…だから、私は…彼の言葉に動かされ、背中を押されもう一度頑張ってみようって…彼たちと協力して戦っていこうって前向きに思えた…。


あれから随分日が経ったけれど、彼がくれた言葉が離れない…


なんなんでしょう、この感覚…胸がトクトクと音を立ててうるさいぐらい…。


も、もしかして恋してしまった?いやいや…私に限ってそんなことは…と、思いたかった、けれどこんなに日が経っても頭から離れないし、忘れられなくなっていくんです。

彼のくれた優しさがずっと私の中でキラキラと輝いている…例えるなら光を浴びたステンドグラス…。


「私らしくないです…。」

「どうしたんだ…ミク。」

「っ!?…大沼指令長…。」


そんな考え事をしていたら鍛錬の最中だったことを忘れていた…いつまでも考え込むような顔をしていたであろう私を心配に思ったのだろう……心配そうな顔で大沼指令長が目の前まで来ていたのに、それすらも気づかなかった…呼ばれた声に驚きそのまま素直な反応をしていたため驚きの目で大沼指令長を見てしまう…それでも大沼指令長は深くは聞くことはせず、私自身を心配するような言葉を掛けてくれる…。


「頑張り過ぎは良くない、少し休みなさい…ミク。」

「は、はい…そうした方がいいかもしれません…。」


なんでこんなこんなに恥ずかしいのだろう、別に考え事について大沼指令長は何も知らないのに分からないのにぎこちない返事をしてしまった、不自然じゃなかっただろうか…?


にしてもどうしてこんな集中が欠けているのだろうか、普段の私なら鍛錬以外のことは考えないのだけれど……。


「ミク?…風邪をひく早く超進化研究所内に戻りなさい…。」

「はい…。」


考え事に戻りそうになった私を現実に引きほ戻したのは、もう一度同じように私の名前を呼んだ大沼指令長…確かに、今日は一段と寒い…風邪を引いてしまってはいざと言う時に出動出来なくなるし何より体調管理も運転士の仕事…外での鍛錬を早めに切り上げて超進化研究所北海道支部の建物の中へ戻ることにした…。


お気に入りの鍛錬場所、摩周丸から帰ってくると、大沼指令長から、内部連絡が入ってきた、仕事が早いと思う、先程まで私と一緒ににここに来たはずだけれど…。

唐突という程でもないが、超進化研究所・大宮支部から、集合要請が来ていたらしい…

内容は、合同訓練の為に大宮支部に集結するようにとの事…一瞬ドキリとした。


「ハヤトくんにまた会える…。」


ふっと浮かんできた言葉を呟いていた…そして私は1度思い出すように歩みを止める…あれ?今の言葉はどこからどうしてそうなったのだろう?…もしかして気づかないうちに意識しているんでしょうか?だんだんと恥ずかしくなってきたので頭から振り払うように首をブルブルと振る、ツインテールの髪やスカートの裾も微かに揺れた……。


「遊びじゃなく訓練です…訓練…。」


そう呟き自分に言い聞かせる…

するとドキドキ胸を打つ音は、少しづつ治まってきた、それにしてもなんだろうさっきから…私が私じゃないみたいなんです…。

好きなものを見ている時の私と同じ感じでやはりいつの間にか意識をし始めているらしい…今までこんな気持ちを持ったことの無い私は少し混乱してきてしまった…

本当に初恋なのかもしれません。


北海道支部地下試験場に戻ってきた私は、また、鍛錬である素振りを始める。

下半身に力を込め竹刀をまっすぐ振り下ろすと静かな部屋に竹刀が空気を切る音が響いた…。


「んっ…集中出来てないです…これではダメです…はぁ…。」


なかなか鍛錬に身が入らない…

自分の中でだんだんとイライラまで沸き上がってくる、初恋と意識し、始めてきたのは今日なのにこんなにも早くも心が乱れるなんて驚きなんです。


「身が入らないです…やっぱり今日はやっぱりもう休むべきですかね…。はぁ…」


一人言も増えてきたのに気づけばまた溜息をつき、早くも地下試験場から出て家に戻ることにした…



【発音ミク】函館の街から→家。


やはり5月でも北海道函館の外はまだ寒い…ただ普段から北海道に住んでいる私達からしたら今日の寒さは真冬に比べたら寒くはない…。

そして、いつもと変わらない街並みを歩いているはずだけれど、気持ちのせいなのかは、わらないけど家までの帰り道を所々間違えたりして挙句の果てには電信柱にぶつかりそうになったりしている私…、変だと思う…

恋なんか興味もなければ、したことすらもなかった私には全く恋が分かりません…それにこれが恋なのかすらも正直わかっていない…。


「恋ってなんですかね…?これは恋なんですかね?…」


ボソッとそのまま呟き、また歩き出す……家までの道はあと少し…。

そんなに遠くない場所に位置している私の家は二階建ての一軒家…お父さんの素顔は写真でしか見たことがないけれど…お父さん、お母さん、私、3人で住んでいる…と言ってもお父さんは帰って来ないけれど…。

理由は…お母さんが話したがらない為分からない…それに、何故話してくれないのかすら私には分からない…お母さんは、私がシンカリオンの運転士になったこともあまり良くは思って居ないらしく、話すと嫌な顔をされたりもする為あまり家では話さない…。

普段から1人に近い…それのせいか私は群れを嫌っていた……なるべく1人で、学校では軽く受け流す程度の会話のみ…学校ですらあまり友達がいなかった…。

大沼指令長と出会う前までは…自分が必要とされている存在なのかすらも分からなかった…。

そう、函館の街をより大好きになれたのも大沼指令長と出会い、青函連絡線摩周丸について教えて貰って、沢山の友達が出来たから…。

そんな過去を振り返りつつ歩いていれば、いつも私が見ている、住んでいる家が見えてきた、門の扉を開けて中に入っていく…もう1つ、少し重たい扉の鍵を開けドアノブに手をかけて開ける…。

いつもと何ら変わりない玄関の様子、お母さんは、まだ帰ってきていないよう…靴が見当たらない。


「今日もいないん…ですか…。」


誰もいない廊下に自分の声が切なく響く、悲しくはないはず…なのに肩を落とす…ふと背負っていたリュックを開けてスマートフォンを探す…取り出して電源ボタンを押すと黒塗りのスクリーンは光り、いつものロック画面が映し出される…通知欄にはお母さんの名前と手紙マークが出ている…お母さんからメールが来ている?…ロックを解除してメールアイコンをタップして新着で来ていたメールを確認し、ため息が漏れそうになる…。

理由は、内容に呆れてしまったから。

確認しなければよかったと思うほどに…。


《夜まで帰れそうに無いです、夕食は自分で作ってください。 》


なんでいつもこうなんでしょう。

やはり寂しさはあるんでしょうか…いつものようなメール内容なのにここまで苦しくなるだなんて…気付かないうちにスマホを手にしていた右腕は脱力してぶら下がり、左手で自分のスカートの裾を強く握りしめていた…自分でもよく分からず泣きだしてしまいそうな気持ちを落ち着かせる為だったのか自然とぐっと左手に力を入れるだけだった…そんな時ふっと、ハヤトくんが新幹線の話をして柔らかい微笑みで私を見つめていたのを思い出した……。

そんな彼に会いたい…こんな私を支えてくれた人にまた背中を押されたいと思ってしまっていた……。


「ハヤトくん……会いたいです。」


気づいたらそう、無意識に呟いていた…。

そんな気持ちに気づいては忘れたくなる…それが恋なのかもしれません。




【清洲リュウジ】京都支部→母の入院する病院。




父が亡くなってから空手を辞めシンカリオンN700Aの運転士として訓練を積み重ねて89wjskj7だからこそあんな小学生達に前線は任せる訳にはいかない初めて速杉指導長の息子、速杉ハヤトに出会った時からずっとそう考えている…。

シュミレーターでの訓練お終えた俺は、指令長に呼ばれて指令室に来ていた。


「速杉ハヤト…か…実力はあるが、力はまだ劣っているし、判断力が足りない、何より前線に置くのは危険すぎる。」

「出水指令長は、そうは思っていないだろう…それに彼にもいい部分は…」

「俺は…反対です。」


俺はそう一言残し指令室を出る…こんなことをしている時間はない…、早く母さんの元に行かなくては…。

東海道新幹線と都市電を使って母さんの入院する病院まで向かう…。

父さんが亡くなってそこまで月日が経たぬ間に母さんが病気になってしまった…


そんな母の見舞いに任務でなかなか行ってやれていない俺は、ちょくちょく医師や指令長、指導長に注意喚起をされているが、素直ではないのか、ただ自分のすべきことばかりしか見ていないのかは分からないがいつも任務を優先させていた…

でもこれは俺の中の流儀であり、生き方…誰の指図も受けたくないのが本音、それに…母さんの言葉が今の俺を支えていてすべきことだ、だからこそ、ハヤト達のような小学生には任せられない…

と思ってもあいつは起き上がってくる…認めたくはないが芯は強いやつかもしれない。

そんな思いでぼっと窓からの景色を見ながら考えていたら、いつの間にか目的地である駅…気づいた俺は下車した…。

病院までの道のりには桜並木が並んでいる…まだ寒いからかなかなか桜は咲かない…それもそのはず季節外れの寒波が来るぐらい日本は温暖化が進んでいるからだ…。

花のない道を歩き病院が見えてきた、母の入院する病院だ。

少し早足に向かう、本当に自然に体が動くのはこんな時だけかもしれない…

病棟に着くと母のいる病室へ向かう…扉が開いている…診察時間だろう…大体診察時間にはいつも母さんの担当をしているスタッフがいる、俺はいつものように病室まで入っていくと母さんとスタッフは話をしていた、今日の母さんは元気そうだ…ほっとひと安心する。


「母さん、見舞いに来た…。」

「あら、リュウジありがとう、今日は任務は大丈夫なの?」


いつものように明るく微笑みかける母の姿に少し顔が綻ぶと母は、嬉しそうに笑顔になる。


「ああ、今日は平和だよ…母さん、」

「そうなのね…よかったわ、そう言えば…、リュウジ…あなたに聞きたいことがあったのよ」

「聞きたいこと?」


俺が聞き返すと少し苦笑いする母さんに俺は首をかしげて少し考え込むように顎に手を添える…。


「そう、研究所の方達と上手くやれているの?お母さんね、すごくそこを心配してるのよ…?」

「それなら心配はないよ、全然上手くやれているから。」


俺はそう言うけれど母さんはやっぱり俺の母さんだからきっと分かるんだろう…この答えに少しだけ嘘が混じっていること、つつみ隠そうとしていること…でも、母さんは俺に問いただすことはしなかった…。


「そう…なら良かったわ…。」

「母さん、心配させて済まない…。」

「いいのよ?リュウジ…貴方はあなたの道を行くの…お母さんも頑張って後を追うから、心配しないでまっすぐ前を向きなさい。」


母さんの言葉はいつも真っ直ぐ進むべき道を示してくれる、たまに俺はしっかり母さんの言う正しい道を歩めてるのか…不安になる時もある…

取り方によるだろう…でも母さんの事だからきっと俺がしっかりとした答えを導くことが出来ると、信じてくれている、だから今しっかりと受け止めていくのが俺のすべき事だと改めて理解した。




【発音ミク】自宅の自室。




チクタクチクタク…静まり返っているこの部屋に響くのは時計の秒針が時を刻む音だけ…いま、私以外はこの家にはいない…お母さんが帰ってくるのはいつもの様に夜だろう…寂しい気持ちを振り払い気にしないようにしながら、部屋を見渡すと読みかけていた本が視界に入り机に手を伸ばす…。

机の上には自主勉強の為のノートや教科書が右端に積み上げ揃えて並べてある、左側にはメモ帳やペン、鉛筆などが置いてある、まだ小学5年生である私は学校に行く時、ランドセルを背負って行く為、ランドセルも机の横に着いているフックにかけられている…。

机の中央に置かれていた読みかけの本を手に取りキャスター付きの椅子を引き出し座る、少し冷たい布の感触がタイツ越しにでも感じる…長時間この涼しい空間にそのままで、この椅子には誰も座っていないと分かる…学校にあるパソコン室が例えとしては分かりやすいかも……。

話す相手もいないため黙々と本を読んでいたが、チリンと携帯端末の着信音でピタリ止まり本に栞を差し込み閉じて机に置く、そして今度は、音のした足元にあるリュックを取り膝の上に置き中からごそごそとスマートフォンを手探りで探すそれらしきものを見つけると取り出し確認する、スマートフォンを1発で見つけた私は、電源ボタンを押す、メッセージありの通知が映し出されているのだけれど思わすピクリと手が動いた……差出人に《速杉 ハヤトくん》と名前が表示されていた…私は少し急ぐようにスマートフォンのパスワードを入力してロックを解除し、メールアプリをタップしてメッセージを確認する…。


《ミク、あれから元気??北海道は寒いから風邪とかには気をつけてね!あ、そうそう、今度大宮に来てくれるって話、いつにする??ミクが予定のあう日がいいかなって思ったからメールしてみたんだけど、いきなりすぎたかな??》


ハヤトくんの名前の下にある吹き出しの中にハヤトくんからのメッセージが映し出されていた、私がこの画面を開いた時に読んだことを知らせらる「既読」の文字がその吹き出しの右下に表示された、内容に目を通した私は少し頬が熱くなるのを感じていた確かに思い出して少しだけ二人きり?なんてこと思ってしまったけれど、それだけでこんなにドキドキして頬が熱くなるだなんて…。

そんな事より返信しなければ…そうは思ったもののこれからの予定は、スケジュール帳を確認して見なければ分からない、と思った瞬間には再度リュックの中を確認していた。

今度はごそごそと探さなくても済むようにリュックの口をもう少し広げてしっかりと目で確認する、奥の方に緑色のスケジュール帳を見つけた私はスケジュール帳を手に取り栞替わりにスケジュール帳に挟まれている紐を張るように軽く引っ張りながら持ち、少し持ち上げる、するとピンっと張った紐がページとページの間に空きを作り開きたいページが少しだけ開かれ分かりやすくなる、そして分かりやすくなった開きたいページをしっかりと開くと5月のカレンダーが見える。

カレンダーを見ると予定のある日の日にちが丸で囲まれている、これなら私以外の人が見てもこの日に用事があるんだと分かるだろう。

今日の日にちを探して見つければそこから先の予定を確認する、合同訓練のある日にちは今日北海道支部から帰る前にあらかじめ丸を付けてきたため、既に丸がついていた…。

今日から、3日間は訓練や鍛錬があるため空きはなかった…今週中がいいと少しだけ思っていたけれど今週の土曜日は、合同訓練の日…その後なら大丈夫だろうか?とも考えたけれどもよくよく考えたら訓練の終わる時刻が遅ければプライベートな時間はあまり取れないかもしれない…それにせっかく北海道から出て埼玉県まで行くのなら観光もたまには悪くないし、ハヤトくんと新幹線のお話をしたりするのが楽しくなるだろうしそんな時間が長くあった方が得かもしれないと考えたら合同訓練の後は避けてプライベートな時間が確実に多く確保出来る日の方がいい気さえしたためほかの日を探す。

土曜日が合同訓練で埼玉県に行くなら次の日曜日??でも、もしそうなったら土曜日に北海道から埼玉に行ってその日に帰り日曜日にまた行くとなるとしたら移動が大変になる…向こうで泊まる場所があるのなら話は別だけれど…。

そう思った瞬間またドキリとした…泊まる??どこにですか??と言う疑問もあるけれど…まず、小学生である私は1人でホテルを取ることが出来ない、そうなったら大宮支部に泊めてもらうか、ほかの運転士の家に泊めてもらうことになる。

ただそうなると大宮支部に許可を貰う必要があるしほかの運転士に頼むにしても私は唯一の女子の運転士、いえ、むしろ私だけしか女子の運転士がいない……となると、泊まるのは男の子の家…ハヤトくんに頼んでしまいましょうか?なんて思ったりもしたけれどそんな事を考えていたらだんだん恥ずかしくなってきた…頬が赤くなって行く感覚を覚えて私は、開いたままのスケジュール帳を顔に被せるように乗せて、だらしなく赤くなっているだろう顔を隠した…。





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