第7話 S&W49 Body Guardと立花楓
夕方の小田急線の車内。いつもは混雑しているはずの車内も、今日は土曜日だったため比較的すいていた。倉本凛と立花楓は、車椅子のスペースに一緒に乗っていた。伊勢原駅から相模大野駅まで来て、そこで江ノ島行きの車両に乗り換えて、凛は鎌倉駅まで、楓は藤沢駅まで向かっている途中だった。
「というわけで、リボルバーとオートマチックのちがい、ざっとした説明だけどわかった?」
凛が車椅子の後ろの手押しハンドルのグリップを両手でにぎりながら、優しくつぶやく。
「はい、とてもわかりやすかったです。理解しました」
ちょっと首を後ろに回し視線を凛の瞳に合わせて、楓が答えた。
「今度銃の入門書も貸すからね。……それよりも、楓だったら自分でネットで調べてあっという間にみんなの知識追い越しちゃいそう。北藤沢高校でしょ楓? あそこは偏差値高いからなあ」
「それだったら、凛さんの鎌倉女子高校だって偏差値高いじゃないですか」
「あー、私は入学はできたけど勉強全然ついていけない落ちこぼれだから」
フン、と楓が自嘲気味に鼻を鳴らした。
そして二人の間にしばしの沈黙。列車内にもうすぐ中央林間駅に到着するというアナウンスが流れた。
「唐突だけど、楓ってどんな本読んでるの?」
凛が純粋な好奇心から聞いてみた。
「そうですね。埴谷雄高とかプラトーノフとかの小説を読んでいます」
「ごめん、全然わかんない。中島敦と梶井基次郎とかなら教科書で習うから知ってるけど」
「中島も梶井も大好きですよ。中島だったら『光と風と夢』、梶井基次郎だったら『闇の絵巻』が鉄板ですね」
一見おとなしく見える楓だったが、文学の話だったら一晩中でも語れそうな雰囲気だった。
「ねえ、楓はなんで拳銃持とうと思ったの? 銃なんて危なかっしいものに手を出さず、文学少女らしく本を読んでればいいのに」
凛がたずねる。
「凛さんこそなぜですか?」
「あっ、質問に質問で答えるのずるい!」
そうして、二人は同時に笑いあった。
はたから見れば、仲の良い女子高生二人組にしか見えなかった。
「……そうですね。ちょっと長い話になりますから、もし良かったら藤沢駅で降りて喫茶店にでも立ち寄ってもらえませんか?」
「もちろんOKだよ」
そしてまた二人の間にしばしの沈黙。
小田急線中央林間駅に着いた車内は乗降客でしばしざわついた。
ガールズ・ガンズ・トーク 黒川ケンキチ @krokawa
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