第6話 ガールズ・ガンズ・トーク

「あの教官、あと三回のレッスンクリアして銃のオープン・キャリーの資格(むき出しの銃の携行許可のこと)見事取ったら、真っ先に撃ち殺してやる!」

 コンテナボックスの中、本田奈央がグリーンのシートが敷かれたテーブルの前に座り愛銃のSIGP226の分解清掃をしながら、大声を上げた。

「奈央さん、冗談でもそんな事言わない方が良いですよ。もし教官の耳に入ったら、本当にスクール追放になって、銃の所持ができなくなりますよ」

 佐藤梨沙がのんびりとした声で注意する。それを聞いてビクッと奈央はしたが、教官はコンテナの外にいて、この民間射撃場のオーナーと何やら話し合ってるらしいのに気が付き、ほっと胸をなでおろしたのだった。

 遠くから、パカン、パカンと銃声が聞こえてくる。拳銃の銃声ではない。隣接するクレー射撃場からの散弾銃の音だった。

 日本がなかば強制的に銃規制緩和の道に至ったが、まず問題になったのはアメリカから輸入した銃の所持ができるようになっても、それを撃つ場所がないことだった。神奈川県はとりあえず古くからある伊勢原市のクレー射撃場の隣の山を削って、一応射撃場を作った。神奈川唯一の拳銃射撃場の完成だった。(ちなみに東京都と埼玉県は陸上自衛隊朝霞訓練場を射撃場にした。これも古くから民間のライフル射撃場があったためだ)

「しかし暑いわね」

 倉本凛がブラウスの胸をパタパタとやって空気を入れた。

 この事務所代わりのコンテナにはエアコンはついてなく、古ぼけた扇風機が夏の終わりの空気をかき混ぜていた。

「凛さん、ちょっとセクシーすぎますよ……」

 車椅子の少女、立花楓がやんわりと注意した。

「あっ、ブラが見えちゃってる? ごめんごめん、女しかいないから油断してえり元開きすぎちゃった」

そうして、ブラウスのえり元をただず凛だったが、ブラは隠れたがそれでも胸のあたりは大きく開いたままだった。

「銃の整備って難しいですね……」

 眼の前でマカロフをバラし、銃身専用クリーニングロッドを銃口に突き刺し内部を清掃しながら佐藤梨沙がつぶやく。

「えー簡単だよー。特に梨沙のマカロフなんて耐久性だけは世界有数だから、ほっといてもいいんじゃない?」

 奈央が言う。ここにいる四人の少女は皆十六歳の高校一年生同士だから、お互いに基本的にタメ口だった。

「でもちゃんと整備しないと、マカロフでも作動不良を起こす可能性が高いじゃないですか。一応、オートマチックなんだから。楓さんのリボルバーと違って」

 梨沙はつぶやいた。不意に自分の名前が出たので、楓はビクッと手元のS&W49 Body Guardから視線を上げた。その際、二本の三つ編みが背中で揺れた。

「あの、聞きにくいんですが……オートマチックとリボルバーの違いってなんですか?」

 おずおずと楓がたずねる。それを聞いて他の三人があ然とした。

「楓、あんた銃所持の筆記試験と面接もちろんパスしたわよね?」

 奈央が呆れた口調で聞き返す。

「ええ、百点満点でした。面接のほうは自信がありませんが……」

 それを聞いて、また他の三人が、今度はうーんとうなる。

「アメリカは何が何でも日本で銃を売りさばくつもりね。いずれウォルマートみたいに日本のスーパーでもカラシニコフが売られる時代が来るかも」

 凛が嘆息たんそくし、両腕を胸の前で組んだ。

「いいわ、楓、帰りの小田急線、同じ相模大野乗り換えでしょ? 電車の中で詳しく教えてあげる。あと、拳銃入門の本も今度貸してあげる」

「え、いいんですか凛さん! よろしくお願いします!」

 楓が無邪気に喜びの声を上げた。

「しっかしあのクソ教官、銃の整備をしとけって言ったまま、どこ行ったやら」

 SIGP226の整備を終えて、スライドとフレームを結合させて奈央は言った。

「なんか呼んだか?」

 突然、教官がコンテナに顔を出した。

「あ、え、えっと」

 とたんにパニクる奈央。

「単なるガールズ・トークをしてただけです。銃についての」

 しれっと冷静な口調で梨沙が答えた。

「銃弾の硝煙の匂いのするアリスのお茶会か。なかなかロマンチックだな」

と、対して関心もなさそうに教官は言った。

「今日のお茶会は解散だ。そろそろ帰りの準備をしとけ」

 はーい、と、奈央以外の三人は素直に返事を返した。 

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