第31話 しゅうけつ
「オオオォォオオオォオオオ!!」
モノレールに向かって雄叫びを上げながら高速で飛んでくる一匹のアニマルガール。
「オウギワシさん!」
「ちょっと、のいてろぉおお!!」
ルーカスが運転席から勢いよく後退。
それと同時に、オウギワシの強烈なタックルがモノレールへと。
ーーーーードゴォオオオ!!
鉄のひしゃげる音とともにモノレールが大きく揺れ、スピードが落ちる。
無論、その衝撃は尋常ではなく、フレンズや特殊な肉体をもつルーカスならまだしも、窓から身を乗り出していたかばんはその影響を大きく受けた。
「かばんちゃん!」
「うわぁあ、わぁああああ!」
かばんの身体が宙に投げ出され、遥か下の地面まで落っこちる所であった。
「ふぉぉおおおおおッ!!」
そこで飛び出したのがアライグマ。
足を器用に窓の縦枠に回して固定し、両手でしっかりとかばんの右足を掴んでいた。
「ふぬぬ…………かばんさんを、落っことすなんてダメなのだぁ~ッ!」
「アライさん! しっかり!」
フェネックがアライグマを支えて、サーバルが窓から身を乗り出しかばんに手を伸ばした。
「かばんちゃん手を伸ばして!!」
「うぐ………、あ……………………、ぐぁあ、さ、サーバル、ちゃん……………みん、な」
先ほどの衝撃でも奇跡的に怪我はなかったが、かばんはこの体勢により少し弱っていた。
脱力したように両手をぶらりと地面に向かって下げており顔にも恐怖が窺える。
手から信号拳銃が、そしてかばんにとって大事な帽子が地面に向かって落ちていく。
「あぁ、かばんさんの帽子が!」
「帽子は後で皆で探そうアライさん。それよりもかばんさんを引き上げないと大変だよぉ」
「うぅ、かばんちゃん! 目を開けて! こっちに手を伸ばして。落っこちちゃうよぉ」
「う、うぅ………」
かばんは力を振り絞って右手をサーバル達の方へと伸ばす。
木登り等で培った筋力を、使える限り使って身体を屈曲し手を伸ばすがあと少しが届かない。
そこで動いたのがルーカスだった。
身を乗り出してかばんの手を掴み、グイッと上に引っ張る。
後は皆の共同作業で、かばんをモノレールの中へといれることに成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ、ありがとうございます。皆のお陰で助かりました」
「よかった、よかったよかばんちゃん!」
「ホントなのだ!」
「アライさんもサーバルもルーカスも、みんなの力があってこそさぁ」
「かばんさん、怪我はないかい? どこか痛いとか、気分が悪いとか」
「いえ、はい、大丈夫です」
皆がかばんの生還を喜ぶ中、オウギワシは持ち前のパワーでなんとかモノレールを止めることに成功した。
そして中へはいると一目散にかばんの方へやって顔を覗き込んだ。
「おい! お前平気か! 大丈夫だったか!?」
「はい、大丈夫です。あの、助けにきてくださったんですよね。ありがとうございます」
「礼なんていい。………くそ、すまない。オレの軽はずみな行動が、お前を危険な目にあわせちまった。悪かった」
「そんな………ボクは」
「いや、お前だけじゃない。周りのフレンズはお前の友達かなにかだろう? こいつ等にも、そしてようやく見つけたルーカスにも迷惑かけちまったんだ。これじゃあオレの気が収まらねぇ」
オウギワシは悔しそうに目を伏せる。
オウギワシはこの3日間ずっと休むことも食うことも飲むこともせずにルーカスの捜索に費やしていたらしい。
そして大統領の気配を感じとり、奇妙な煙が上空に上がっていたので怪しく感じて、苑方向へとすっ飛んできたのだ。
案の定大統領が操るセル・ビャッコがいて、モノレールの中にはルーカスがいた。
このままでは命に関わるとして、セル・ビャッコの妨害を掻い潜りながら、強引な手段ではあるがモノレールに突っ込んで止めようという強行へとでたのだ。
「せめてもの詫びだ。ここから先、どんなことがあってもお前等を守る。神獣のフレンズ型のセルリアンだろうが何だろうが、お前等には指一本触れさせねぇ!!」
熱い決意と共にオウギワシは踵を返してモノレールの前にたつと、その前方数メートル先でセルプラズムが空間を引っ掻くようにして唸り、そこからセル・ビャッコが現れる。
神の姿を象った、荒ぶる力の再現。
かなり改良が進んでいるようで、ルーカスが以前出会った時より、動きに軽やかさが見える。
まるで偶然そこで出会ったフレンズのようだ。
これにはかばん達も閉口した。
かつてない神威が居竦みを与えている。
明らかに次元の違うセルリアンを前に、サーバルもアライグマもフェネックも怯えてしまっていた。
かばんは何とか勇気を振るい出そうとするが、なかなか動けない。
ルーカスも同じだ。
このモノレールから先の光景は、最早別世界と言っていいくらいに濃密な闘気が溢れだしていた。
「おう、そういやお前等、名前聞いてなかったな。オレはオウギワシだ。名前は?」
まるでこちらをなだめるように優しい声色で話しかけてくれた。
「か、かばんです」
「サーバルキャットのサーバルだよ」
「あああああああアライ、アライさんなのだ!」
「フェネック、だよぉ…………」
「そうか、こんな時に名前聞くなんておかしいとは思うけどよ。すまねぇな。ルーカス、かばん、サーバル、アライ、フェネック、来た道を戻れ。ダッシュだ!」
オウギワシはゆっくりと歩み寄ってくるセル・ビャッコを威嚇するように構えながらルーカス達に声を張る。
それに従う他なかった。
サーバル達は怯えながらもなんとかして助けになりたいとしながらも、それをルーカスが止める。
今この状況を打破するにはオウギワシに従うしかない。
そして、いざ戻ろうとルーカスが後ろを確認した時だった。
突如空間がいくつも爆発し、これまで来た線路が崩れ落ちてしまう。
セル・ビャッコの空気爆弾だ。
「なにぃいッ!?」
退路を絶たれ絶体絶命。
セル・ビャッコはチッチッチッとするように人差し指を立てて左右に動かす。
本当にある種の知性があるかのような動きだった。
そう、それは戦いの狼煙だ。
ここにいるメンバーで、再現されし神の力から生き残らなくてはならない。
「うぅ、どうしようかばんちゃん」
「こんな、ことって」
「ぐぬぬ」
「…………」
4人を守るようにしてルーカスが前にでる。
彼もまたこの状況を生き残る為の術を考えていた。
「来やがれ、ここから先は、一歩も進ませねぇ!!」
雄叫びと共に、オウギワシはセル・ビャッコに殴りかかる。
最初から野生解放をして凄まじいまでのラッシュをかましていった。
一方、大統領は手に入れたラッキービーストを手に、得意気な顔でセル・ビャッコの戦いぶりをモニタリングしていた。
「ふん、無駄な足掻きを……ーーーぬ!?」
次の瞬間、スネークアームが彼を守るように動き、何かを弾き飛ばした。
ーーーーーーーー銃弾だ。
しかも発砲音はまったく聞こえなかった。
ギリッと歯軋りをした後、飛んできた方向を見る。
林の陰の中に人影がいた。
「…………誰だ!?」
「なるほど、昨日キュウビキツネ様から聞いたが、ホントに生きてやがったとはな。だが、いくら蛇の名をもつ発明品を持っていようと、本物の
「ふん、その蛇の攻撃を防がれたのはどこのどいつだ? お前、アニマルガールだな? でてこい!!」
そういうと、その人物はでてくる。
蛇特有のパーカーに、その手にはフレンズには似合わないであろう人類の文明利器が握られていた。
「…………昔、俺がいた部隊にオセロットがいたんだが。銃を使うならリボルバーだってうるせぇの。あんなの隠密性もないじゃんか。こういう場合の時はサプレッサーが付けられる銃と、ナイフがいい」
「お前…………もしやフレンズ特殊部隊の生き残りか?」
「ご名答。俺はハブだ。本当は後ろからこの麻酔銃でサパッと眠らせて、捕まえたかったんだが、どうもそうはいかなくなったらしい」
ホテル『ジャパリ・イン・ザ・ミラー』の従業員、過去にはルーカスともある種の因縁を持つフレンズ、ハブ。
大統領出現とルーカスの行方不明を聞き、キュウビキツネから任務を受けたのだ。
「ふぅん、大分動いているようだな。だが、そんなおもちゃでワタシが止められるのかな?」
「無茶なことでもやるときゃやる、それが俺達フレンズ特殊部隊さ。…………セル・ビャッコってやついるんだろ? 呼び戻したらどうだ? じゃねぇと赤っ恥かいちまうぜ?」
「ふん、ワタシを見くびっているようだな。お前などワタシ一人で十分だ」
「なに?」
「ワタシの科学の粋が、あのセル・ビャッコだけだと思うな」
そう言ってラッキービーストを投げ捨てて、取り出したのは、かつて使っていた紅い光剣、そして対フレンズ用に改良したM90と言われる銃器だ。
「そんな装備だけで、俺がビビるとでも?」
「フフフ。驚くのはこれからだ」
すると、スネークアームから異様なエネルギーが漏れ始める。
稲妻のようにバチバチと音を立てるそれは、キュウビキツネからの報告であった……。
「な、なんだ、それ、まさか」
「けものプラズムに変わる新たな神の力、ーーーーセルプラズムだよ。まさかセル・ビャッコにしか使っていないと思ったのかね? これでスネークアームの性能は格段に上がった」
大統領は武器を構え、アームを不気味にうねらせる。
「さぁ行くぞぉお!!」
彼の掛け声と共に、ハブもまた武器を構えた。
Operation:QUEEN EATER 祝福の"R"へ愛を込めて 木場のみ @68nftgz
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