第30話 ものれーる ②
突如目の前に現れた、このごこくエリアの惨劇の元凶。
異様な触手を不気味にうねらせてルーカス達を威嚇する大統領。
このタイミングで奴が現れること等誰が予測出来るか。
「ほう、新しい仲間か。あの3人はどうした? とうとう見捨てたのか?」
「見捨ててなんていない。お前に吹っ飛ばされたからはぐれちゃっただけだよ」
ルーカスは4人を守るように身構えるも、戦う術などありはしない。
見た所戦闘が得意なフレンズでもないようであったし、なによりかばんはヒトのフレンズからヒトへと変わった、ただの子供だ。
「……アナタが、大統領さん」
サーバルやアライグマが大統領から感じる並々ならぬ気配に動けなくなっていたとき、かばんがルーカスの隣に来るように出る。
大統領は訝しげに彼女を見ると、スネークアームをうねらせながらかばんの眼前に鋭い爪を開かせ、カチカチと不気味な音をならした。
ルーカスやサーバルたちはそれを止めようとするもかばんに制止させられる。
その間ずっとかばんは足を震わせながら大統領を見つめていた。
「…………ただの人間ではないなお前」
「え……」
「お前からは嫌なにおいがする。ワタシがもっとも憎むべきにおいだ」
「ちょっと! かばんちゃんを怖がらせないでよ!」
サーバルの言葉に憎悪からふと我に返った大統領は触手を戻し、メガネのずれを直すような動作をする。
「…失礼、ちょっと頭に血が上ったかな。ーーーーーーさて、お前達の処遇をどうするかだ。あと、気になっていたんだが兄弟。お前面白いものを持っているじゃないか」
ルーカスは咄嗟に壊れかけたラッキービーストを守るように抱き締める。
目の前の邪悪の化身に渡してはならないという意思がサーバルたちにも伝わったのか、アライグマを先頭にルーカスの前に身を乗り出した。
「ハハハ、ワタシと戦う気かね? どうみても戦闘が得意なアニマルガールには見えないが」
せせら笑う大統領。しかし事実だ。
彼女等が話してくれたきょうしゅうエリアにおける黒い大型セルリアンは、皆の力があってこそ倒せたもの。
この男はそいつとは別格どころか、強さの次元そのものが違いすぎる。
加えてここはモノレールの中という高い位置にある狭い空間。
とてもではないが、ここまでなんなく上ってくる大統領とワタリアエルとは到底思えない。
なにより、大統領にはセル・ビャッコがいる。
風の力で不可視の状態にしているのか、それとも必要な時にだけ召還という形式をとっているのか、そのメカニズムは不明だがこの場所であの一撃を食らえば、もう命はないだろう。
「さて兄弟。お前が何の為にこのモノレールに乗っていたかなど、ワタシにとってはすこぶるどうでもいい。だがな、このままお前を殺さないというのも癇に触る。そこでだ」
突如スネークアームが不気味な唸りをあげてうねると、運転席に座っていたタッキービーストを引き剥がし、運転席に備えられているブレーキ等をメチャメチャに破壊してしまう。
「あっ!!?」
「部品回収は他のを当たるとしよう。ーーーそら兄弟、モノレール止めてみろ」
悪辣にほくそ笑みながら引き剥がしたブレーキレバーをルーカスに投げ渡すと、大統領はスネークアームを巧みに使って高所から飛び降りていってしまう。
その直後だった。
モノレールの速度がまるで咆哮を上げるようにして勢いを増す。
速度が速くなっていく一方 で、サーバルもアライグマもフェネックも完全に縮こまってしまって動けなくなってしまった。
かばんも必死に恐怖を抑え込んではいるがそれまでで、運転席まで行こうとするが体が思うように動いてくれない。
ルーカスはそんなかばんに壊れたラッキービーストを任せ、ひとり運転席へと這っていく。
たどり着いたはいいものの、もう操縦は不可能であった。
かばんの腕に巻かれているボスにどうにかできないか頼んでみるが、緊急時の権限をさっきからずっと行使しているらしいのだが、まるで反応する気配がないとのことだ。
「うわぁああああッ!!」
「あ、アライさん…………、だいじょう、ぶ、だから!」
「うわわわボス、かばんちゃぁん!」
アニマルガールたちの怯える声がルーカスの心に突き刺さる。
なんとかしなければと思う程に焦りが蓄積していき、ついには半ばヤケっぱちのように壊れた機械を殴り付けた。
だがそんなことで動くはずもなく、事態は最悪の方向へと進もうとしていた。
遠くの線路が、突如現れたセル・ビャッコによって破壊されたのだ。
あと5分もすればモノレールはそこまで行って空中に投げ出される。
「だ、大統領ォォォオオオオオオオオッ!!」
奴はこの光景を何処かで見ていてほくそ笑んでいるのだろう。
そう思うと自分の中で悔しさが一杯になった。
なんとしてもこのモノレールを止める。
そう考える前に手が動く。
壊れた機械を何度もいじくり、これでもかとスイッチと残ったレバーを操作した。
残り時間も少なくなる中、かばんもまた何かを考えていた。
かばんの中に眠る人類の叡知は、この場合における最適解を導きだそうとする。
怯える仲間達を守る為に、大切な友達であるサーバルを守る為に。
このとき、かばんの中から恐怖が消えた。
勇気を宿した目で周囲を確認する。
機械関係ともなれば、それこそ高度な専門知識を要する為、かばんにはまだどうすることも出来ない。
それ以外で自分に出来ること。
そして遂にかばんはそれを見つけ出す。
「もしかしたら使えるかも!」
「か、かばんちゃん? なに、どうしたの!?」
「な、なにか方法があるのかー!?」
かばんは返事をする前に一目散に壁側へと移動し、赤いボックスらしきものを叩いて開かせる。
中から出てきたのは信号拳銃と発煙弾5発。
説明書を読んでかばんは完全に使い方を把握した。
本来なら夜に撃つほうが効果的なのだろうが四の五の言っている場合じゃない。
手段があるのなら何でも使うべきだ。
自分にそう言い聞かせて、かばんは窓を開ける。
「皆さん、怖いでしょうけど、ちょっと手伝って欲しいんです! ボクが落ちないようにしっかりと支えてください!」
かばんの行動にサーバル達も勇気を示す。
恐怖に怯えながらも、窓から身を乗り出すかばんが落ちないように支えた。
かばんは上空に向かってまず一発。
赤い煙が天高く飛ぶ。
まるで手慣れた動作で次弾装填し、もう一発。
(お願い、誰か気が付いて!)
撃った直後、モノレールがガクンと揺れてかばんが落ちそうになった。
3人で支えていたため事なきを得たが、何事かと皆が不安になる。
「急ですまない! 速度を少し落とすのに成功したんだ! 完全じゃないけど、時間はさっきより稼げるはずだ!! そのまま発煙弾を撃ってくれ」
ルーカスのこの言葉を聞いて、皆にも勇気が湧いてくる。
ルーカスはそのまま機械と格闘し、かばんは信号拳銃を打ち続けた。
そして徐々に壊れた線路が近づく中、最後の発煙弾を天に飛ばしたときだった。
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