第29話 ものれーる ①
ルーカスはタンスの方へ歩く。
なにかがいるのかとタンスを皆の力を合わせてどかすと…。
「これはッ!」
所々が破損し今にも機能停止しそうなラッキービーストだった。
ロボットであるゆえ、虫の息というのは語弊があるかもしれないが、見た目の痛々しさに誰もが胸を締め付けられる。
「これってこのごこくエリアのラッキーさん!?」
「酷い怪我してる。ボス、なんとかならないの!?」
『残念ダケド、外殻ハモチロン、内部ユニットニモ破損ガミラレルヨ。コノママジャ完全ニ壊レテシマウネ。デモ、大丈夫、壊レテモ、別ノ…』
「いや、そういうわけにはいかないんだラッキービースト。実は今、このごごくエリアのラッキービーストは減少しているんだ」
「げんしょーって、減ってるってことなのか!」
「ボスが減ってるってどういうことー?」
「…………」
ルーカスは迷った。あの恐るべき存在『大統領』のことを言うべきか。
あれは従来のセルリアンとは一線を画している。
女王にはない邪悪な知性を持つ大敵を彼女等に教えてよいのだろうか。
「あの…ルーカスさん、何か心配事が?」
かばんがルーカスの顔を覗きこむ。
思案の顔が不安な表情に映ったらしい。
しかし本当に気配りが上手な子だと、内心感心をする。
「すまない。少し考え事をしていたんだ。ラッキービーストの減少については改めて言う。今はこのラッキービーストを直してあげたいんだ。早速だが僕と協力してはくれないかい?」
「はい!よろしくお願いします」
「任せるのだ!」
「ドンとこいだよ~」
「うん!皆で頑張ろー!」
さて、どこかに施設かなにかあれば、もしかしたら直す為の設備があるかもしれない。
(何か手掛かりがあればいいんだが…、あ、これは)
タンスの引き出しに入っていたのはパンフレットだ。
コミカルなイラストと可愛げのある文字に、ある乗り物の写真。これはモノレールだ。
この付近の大掛かりな建造物はこれしかない。
「なんですそれは?」
『コノ区画ノパンフレットダネ。ルーカス、ソノパンフレットの端ッコヲ見セテ欲シイ。QRコードヲスキャンシテ、ルートヲ探ルヨ』
「おー、道を探してくれるんだね」
「流石ボスなのだ!」
ラッキービーストがコードのスキャンし終わった。
この付近の地形はかなり入り組んでいたりしてバスでの走行は難しいようだ。
一旦戻ってバスに乗るか、それともモノレールの方へ行ってみて動いていたら乗ってみるか。
実際早くこの壊れたラッキービーストを修理しなければならない為一分一秒でも惜しい。
一度戻るよりもモノレールの駅はここからずっと近い所にある。
もしも稼働していたならばそれに乗って次の駅に降りる必要があるのだ。
そこに施設があるとボスは教えてくれた。
(しかしバスを船に改造してここまで来るだなんて…いやはや、アニマルガールはすごいな。実際僕より発想力は上じゃあないのか)
『モシモ稼働シテイタラソレニ乗ロウネ。バスハ、遠隔操作デ、ボクガ動カスヨ』
「え!? ボスぅ、バスって離れてても動かせるの!?」
『ココヘ来ル途中ニ、モシモノコトガアッタラト思ッテ、設定ヲイジッタンダ』
「すっごーい! やっぱりボスは頼りになるよぉ」
「ふふふ、じゃあ行きましょうルーカスさん」
「あぁよろしく頼む」
こうして歩き出す一行、草木をかき分けながらトラブルを乗り越えていく。
サーバルがツタに絡またったり、かばんが転びそうになったり、アライグマが紐を引っ張った数秒後に錆びたタライがルーカスの頭上に落ちてきたりとハプニングが絶えない。
そんなこんなで辿り着いたモノレールの駅。
所々破損していたが機械の稼働音が聞こえるあたりまだ動けるようだ。
予定通り、ボスはバスを遠隔で動かし次の駅の方まで回り道させる。
ルーカス達がモノレールへ乗り込むと、そこからこのごこくエリアの景色が一望出来た。
「わぁあああっ」
「すっごく綺麗な場所だねサーバルちゃん!」
「フェネック! 海、海なのだ! アライさん達が渡って来た海なのだ!」
「おぉぉ~凄いねアライさぁん」
4人の輝く目にルーカスは心に落ち着きを持ちながらイスに座る。
このモノレールは専用のラッキービーストが動かしているらしい。
発車の合図と共にモノレールが動き出し線路に沿って次の駅までルーカス達を運んでいく。
「すっごーい! バスが空飛んでるみたい!」
「あはは、サーバルちゃん。流石にバスは飛ばないんじゃない? でも本当にすごいね。こんな乗り物もあるだなんて」
「こんな凄いのあるんだから、きっと素敵なフレンズがいっぱいいるよ! 早く会いたいねかばんちゃん!」
とても仲睦まじい姿を見せてくれる2人。
ヒトとフレンズのあるべき姿が今ここにあるのかもしれないとルーカスは満足そうに微笑んでいた。
「おぉー前の方はすごいのだ!」
「アライさーん、あんまり前へ出ると危ないよぉ」
フェネックとアライグマもお互い強い信頼関係が結ばれており、とてもいいコンビに見えた。彼女等を見てルーカスはふとあることを思い出す。
(リョコウバトさん、ドールさん、サーベルタイガーさん…………今頃どうしてるかな? キュウビキツネさんや他の華撃団の皆も。怪我をしていなければいいが)
ルーカスは彼女等に心配をかけているのではないかと非常に悔やんだ。
今になってセンチな気分となり、遠くの景色がどこか寂し気に映る。
そんな時、かばんが歩み寄ってきて話しかけてきた。
「あの、ルーカスさん」
「あ、かばんさん。どうしたんだい?」
「いえ、なんだか元気がないかな、って思って。すみません、僕の勝手な思い込みだったら」
「あぁいや、うん。ちょっと考え事をしてたんだ。悪かったね。折角楽しんでいるのに」
「いえ、なんだか少し心配で」
「心配?」
そういうとかばんはルーカスの隣に座り、真剣な眼差しで彼を見る。
「ルーカスさん、このごこくエリアのこと教えてもらえませんか? ボクは知りたいんです。今、パークに何が起こっているのかを。ボクはパークで生まれました。パークに何か起こっているのならボクは自分の出来る事をしたい」
その瞳は誰かに似ていた。とても胸が締め付けられる誰かに。
ルーカスは一息ついてから眼鏡を押し上げ考えを整理する。
このごこくエリアにいる以上、現状は知っておいた方がいいかもしれない。
ハシブトガラスの預言通りなら、なにか途轍もない運命を感じる。
「いいだろう……ここで君達と出会えたのは運命かもしれない」
ルーカスは詳しく話し始める。
途中からサーバルやアライグマ、フェネックも参加し、このエリアで起こっている身の毛がよだつほどに恐ろしい異変の内容を話した。
サーバルが怯え、アライグマが怒りに震え、フェネックの表情が若干険しくなる中、かばんは表情一つ変えず真剣な眼差しでその絶望の話を聞いていた。
正直勝ち目はない。大統領は女王よりもずっと凶悪で計画的な側面を持つ。
「――――――とまぁ、ここまでが込み入った話だ。このラッキービーストも恐らくは大統領の被害者だ。どういう理由かはわからないが奴の手を逃れて隠れてたようだ」
方針は決まった。
まずこのラッキービーストを助けて、それからジャパリ寺へと向かう。
そこでみんなと合流だ。希望を信じて進もうと決意した、その瞬間。
ルーカスの脳内に電流が走った。
頭脳に自信のある彼だからこそ思い描くことの出来る可能性。しかしそれはけして考えたくもなかったものだ。
(そうだ………どうして、どうしてなんだ? これまで奴はラッキービーストを襲ってそれを発明の部品にしていた。でもそれだけじゃ足りないハズなんだ。じゃあ、他はどこから調達している?)
そう考えた時のルーカスの行動は早かった。素早く立ち上がり運転席まで行こうとする。
「モノレール! モノレール止めてくれ!!」
「ルーカス? いきなり何言い出すの!?」
「ど、どうしたのだルーカスぅ!」
「ルーカス、凄く焦ってるみたいだけ―――――――」
フェネックが言いかけた時、どこからともなく物凄い音が響き渡る。
そして同時に鉄と鉄が軋んで動くような不気味な音。
「いや、驚いた。ちょうど調達の為に移動していたら、何故モノレールが動いているのか。なるほど。合点が行ったよ―――――兄弟」
モノレールの前方から現れた黒い影。
2本のスネークアームを器用に操り、線路を登ってくる。そして滑り込むように中へと入って来た。
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