【RGW E】GWの終わり

牧野 麻也

最終話

*** 目次 ***


【RGW 1A】始まりはいつだって……GW

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木沢 俊二

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【RGW B】一万円札

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@wizard-T

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【RGW-C】 日常

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仲乃 古奈

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【RGW D】 足音

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秋夜檸檬

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*** ****


 現実の物として、類似したものを見たことが無いので例えようも無いけれど。

 一目見て、思った。


 ──悪魔がいるとしたら、きっとこんな姿なんだろう、と。


 人間のような姿はしてる。

 あくまで、人間の、だが。

 立ち上がったゴリラと人間の中間のような、肉感的なムキムキの上半身と比率的に細っそりとした下半身を、無理矢理黒のスーツに収めている。

 一目見て『人間じゃない』と分かるのは、その頭と足だ。

 黒いネクタイをキッチリ締めたその上は山羊の頭と捩じくれた大きな角が二本。

 そしてスラックスから出た足は猛禽類のような鋭い鳥のソレである。

 背中にはデカイ蝙蝠の羽のようなものが生えていた。


GWゴールデンウィークとやらは楽しめましたか?』


 そいつが、どう発音してるか分からないその喉で妙に響く低いザラザラとした声でそう尋ねてくる。

「だ……誰だ? お前……」

 俺は緊張で締まった喉で辛うじてそう漏らすが、そう言いつつも自分に気づく。


 そう、ヤツだ。

 だ。


『そろそろ時間ですよ。覚悟は出来ましたよね? 十日間も猶予をあげたんですから』


 悪魔──名前が分からないからそう呼ぶが──は、動いているそぶりもないのに、ジワリジワリとこちらへと近寄ってくる。

 カメラでズームしているかのような妙な感覚。

 眩暈と、で感覚がおかしくなってきた。

「あん時も……言っただろうが。『対価もなく搾取されんのはもう嫌だ』って」

 安い酒で悪酔いした時のような胸焼けで吐き気まで催してくる。

 揺れてもいない筈の地面に立っていられなくなり、俺はアスファルトに膝をついた。

 いっそ吐いてスッキリしてしまいたい。


『おや? 対価は毎日お支払いしていたでしょう? 受け取ってましたよね。まさか、それをなかった事にするおつもりですか?』


 悪魔が、三本しかない指で顎をスルリと撫でた。

 ヤツのその言葉で、頭を殴られたかのような衝撃を受けた。


 ──茶封筒に入った一万円。

 毎日居間に置いてあったアレ。

 今日で十日。全部で十万……


「俺の……俺の命の対価が、たった十万だってのかよっ……」

『ははっ。むしろかなり多めに支払ったつもりですよ。

 ──貴方、自分の存在をどれだけ崇高だとお考えで?』

 そう吐き捨てられ、言葉に詰まる。

『対価はお金じゃなくても良かったんですよ。現に、貴方の同僚は【望んだ時に望んだものを口に出来る権利】でしたしね』


 同僚?


 ヤツの言葉に疑問が浮かぶ。

 誰の事だ?

 誰の──


 その瞬間、日中の会社で昼休み中とはいえビールをかくっらってウニ食うかとしきりに喚いていた男の顔が浮かんだ。


 もしかして……


『彼はまた、格別にでしたね。

 やはり、人間としてのは癖になる。

 貴方は、どんな味なんでしょうね?』


 山羊が口を開けた。

 本来草食の山羊には有り得ない鋭い牙と蛇のような長細い舌が見える。


 アイツも……アイツも喰われた?

 たかが仕事の同僚で友人ではない。

 でも、普段一緒にいる人間が悲惨な目にあったと思うと、気分が悪くなる。

 さっきからする眩暈と吐き気、痛みとになって、頭をあげているのも辛くなってくる。


 しかし、何もせずにいたら喰われてしまう。

 ダメ元で、なんとか言い募ろうと頭を巡らせた。

「俺は……食事も貧相だし不健康だから……旨くないぞ……」

 そんなツマンナイ言葉しか出てこない。

 社畜として搾りカスになってる脳味噌じゃこれが限界か。

『いえ。むしろ、それがいい。

 嗜好品とは、一歩間違うと食えたものではないもの──人間の世にもあるでしょう?

 珈琲、煙草、酒、それ以外にも。

 それらは、一概に【美味しい】と言えるものではないでしょう?』


 嗜好品──


 寒気まで感じてきた。

 俺は、ヤツのの栄養ですらない。

 ただの娯楽と言われた。

 ショック過ぎて上手く考える事も出来なくなってきた。


『我々の間では、貴方がたのような人間を【GW】と呼びます。

 Glorious Weed栄光の雑草の略ですね。

 ──ああ、偶然にもこの十日間と同じ略称ですね』


 栄光の……雑草?

 酷い言われようだな……

 仮にも、人一人の命が。


『そして、そんなGWの愛好家の我々は、こう呼ばれています。


 Reep Glorious Weed栄光の雑草の収穫者──


 RGW、と』


 その声とともに、眼前に迫った口が俺の頭を飲み込もうと開かれる。



 最期に見たのは、ヤツの真紅の口蓋と、


 その先にあった、どこまでも暗い、ただの闇だけだった。



 了

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