最終話・祝福のない世界、それでも人は歩みを止めず

 《ギフト》が消えた世界。

 人々は女神フリアエが人間を見限っただの、神の怒りだの、この世界は終焉に向かい始めただの、好き勝手なことを言い始めた。

 答えを知る者はほんのわずかだ。まさか女神フリアエが精神崩壊を起こし、世界中にバラまかれたギフトが制御できず消失したなど、誰が答えに辿り着くのだろうか。

 

 世界は、いい方向に変わる場所もあれば悪い方向に変わる場所もあった。

 ギフトが消えたことで皆が平等になり、ギフト頼りで生活していた者は生活ができず破綻することも珍しくなかった。

 女神フリアエを称え祀る新興宗教団体ができたり、各地で暴動が起きたり、生活苦で死を選ぶものも出てきた。

 そういった暴動は、大都市ほどよく起きた。逆に、地方の小さな村では起こることはなかった。


 冒険者ギルドの勢力図も大きく変わった。

 ギフト頼りで成り上がった冒険者は一気に弱体化、肉体一本で戦う冒険者が上位になり、ギルド内でもめ事も多くなった。中には冒険者を引退する者も。

 それでも、時間は過ぎていく。

 今日も一日が始まり、そして終わる。


 女神フリアエが消えて一年……ライトたちはワイファ王国にいた。


 ◇◇◇◇◇◇


「ふぁぁ……ん」


 ライトはカーテンの隙間から入り込む日差しで目が覚めた。

 妙に身体が重い。視線を下げると、ツクヨミがライトの胸の上でスヤスヤと寝息を立て、隣にはマリア、さらに反対側にはシンクがいた。ちなみにメリーは床に転がっている。

 四人と関係を持ち、毎晩毎晩搾り取られているライト。悪い気はしないがなかなかにきつい……だが、拒否はしなかった。


「ツクヨミ、ほら起きろよ」

「───んん、おはよう」

「おはよう。今日は依頼を受ける約束だろ? 起きろ」

「───はぁい」


 ツクヨミはするりとベッドから降り、裸のまま洗面所へ。

 マリアを軽く揺さぶると、ぼんやり目を開け……唇を奪われた。


「っぷぁ……おはようございます」

「おはよう……朝から情熱的だな」

「ふふ、いいじゃありませんか。わたしはあなたの女ですから」

「はいはい。ったく、野良猫が飼い猫みたいになりやがって」

「でも、可愛いのでしょう?」

「……まぁな」


 二人は、言葉にこそ出さないが愛し合っていた。

 死線を潜り抜け、身体を求め会い、いつしか愛し合うようになり……ライトもマリアも言葉には出さないが、離れることはなかった。

 メリーはというと、ひたすら寝るだけ。身体の関係もあるがライトたちのそばから離れることはないようだ。


『お熱いわねぇ……』

『だな。相棒の奴、オレ様というものがありながら……妬けるねぇ』

「黙れカドゥケウス。お前のことなんか愛しちゃいねーよ」

『ケケケ。つれないねぇ。でも、そんなところも好きだぜ?』

「はいはい」

「シャルティナ、あなたも茶化さないでくださいな」

『可愛いマリアが大人になっちゃうのが寂しいのよ』


 と、ライトに抱き付いたまま喋るマリアとシャルティナ。

 ライトは、サイドテーブルに置いたカドゥケウスを見る。


「カドゥケウス」

『あん?』

「……いや、なんでもない」


 結局、カドゥケウスは捨てなかった。

 正確には捨てられなかった。カドゥケウスと祝福弾がなければマリアたちを抱くこともできない。

 心情は複雑だが、自分のために捨てなかったというのが本音だ。

 それに、ギフトのない世界で【大罪神器】は非常に大きな力だ。


「ん~……ライト」

「シンク。起きろ、ご飯の時間だぞ」

「ごはん!!」


 ご飯と聞いたシンクはガバッと起き上がる。

 シンクはライトが大好きだった。なので、自然とライトの女になった。

 身体もやや成長し、女らしさが増している気がする。天真爛漫な性格は相変わらずだし、魔獣を前にした残虐性もそのままだ。

 ライトたちは着替え、メリーを叩き起こしリビングへ。


「あ、ようやく来た」

「悪い。メシの時間だな」

「もう! 早く座って!」


 リンが、ポットを手に怒っていた。

 リンはファーレン王国には戻らず、こうしてライトたちと一緒にいる。今ではみんなのお母さんみたいなポジションだ。

 リンが作った朝食がテーブルに並び、給仕服を着たゾンビ……ではなく、ツクヨミの力で作り変えられたリリカが全員に水を配る。

 リリカは、こうして永遠にツクヨミのオモチャとして生き続ける罰を与えられた。意志も持たず、ただひたすら奉仕するだけの人形として。

 ツクヨミは一度、ライトの性処理を人形にさせようとしたら、本気で怒られたことを忘れてはいない。なので、リンに好きなように使わせたり、自分の世話をさせることに使用している。


「リン、今日はツクヨミのこと頼むぞ」

「うん。ライトたちは?」

「俺は別、マリアとシンクもだ」


 ライトたちは冒険者となり生計を立てている。

 リンは元から冒険者。ライト、マリア、ツクヨミ、メリーは新たに冒険者登録をし、シンクはその手伝いをしている。

 

「ボクも冒険者登録したいなー」

「もう少し待て。まだ様子を見るから」

「んー」


 シンクは賞金首だ。

 だが、一年ほど前にシンクが倒されたとの情報があったのだ。

 二人組の女性冒険者がシンクを討伐し、賞金を受け取ったという話を聞き、ライトたちは顔をしかめた。

 それ以外にも、マリアの別荘に『ありがとうございました』という紙と共に大金が置かれていたりもした。

 犯人がパティオンとブリザラということに気付いたのは後になってからだった。どうもライトたちに礼をしたかったらしく、直接言うとライトは絶対に拒否するので、礼代わりにライトたちの身の回りの問題を解決してくれたらしい。

 ぶっちゃけ働かなくても食べていけるほどの大金を手にしているが、労働しないと怠惰な生活を送ることになるので、冒険者をしながら暮らしているのであった。

 リンは、思い出したようにライトに言う。


「あ、冒険者ギルドに行く前に、バルバトス神父のところにお使いに行ってくれない?」

「教会か……わかった」


 バルバトス神父は、このワイファ王国の教会で神父をしている。

 赤ん坊のアシュレーを抱いたまま旅をすることは難しいので、フリアエとの戦いが終わった後はしばらくライトたちと行動を共にし、ワイファ王国に落ち着いて生活を始めたのである。

 もちろん、サニーも一緒だ。というか……。


「サニー、もうすぐ出産だしね。アシュレーの弟か妹か……楽しみ!」

「まさかバルバトス神父が父親にねぇ……」


 アンジェラことサニーは、バルバトス神父との間に子をもうけた。

 アンジェラはバルバトス神父に救われ、惹かれ……アシュレーを一緒に育てているうちに急接近。

 最初、バルバトス神父は拒否していたが、『もう神はいません』というサニーの言葉に落ち、ついには結婚したのである。

 

『ダミュロンの野郎、少しは祝福してやればいいのになー』

『不可能でしょう。あの無口が喋るとは思いません。ギルデロイは祝福していたそうですが……二人の子が生まれることで、アシュレーがおざなりにならないことを心配していましたな』

『それなら平気でしょ。あの神父がそんな奴に見えるかしら?』

『……そうですね』


 カドゥケウスの言葉にイルククゥが返答し、シャルティナが答える。

 

「結婚……」

「俺たちはまだ早い。落ち着いたらな」

「えっ……あ、は、はい」


 当たり前のように返された言葉に、マリアは赤くなって俯いた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 ライトは、バルバトス神父のいる教会へ。

 改築したらしく新築同様で、ギフトを失ったことで祈りを捧げる者も増えたという。バルバトス神父は忙しそうだったので、サニーのいる裏手の自宅へ。

 手には、栄養たっぷりの果物詰め合わせのバスケット。ライトは自宅のドアをノックした。


「はーい……あら」

「よう。土産を持ってきた……バルバトス神父によろしく言っといてくれ」


 サニーことアンジェラがドアを開け、ライトはバスケットを渡す。

 過去の清算はしたが、サニーにとってライトは仲間を殺した張本人だ。命を救われ、許しを得たと言っても長時間見たい顔ではないだろう。本心は不明だがライトはそう考えている。

 母体にどんな影響があるかわからないし、心労はかけるべきじゃない。


「あの、お茶でも」

「いいよ。それより、身体を大事にしろよ」

「……はい」

「じゃあな。子供が生まれて落ち着いたらパーティーしようってリンが言ってた。バルバトス神父にも伝えておいてくれ」

「はい、わかりました……あの」

「……ん?」

「ありがとうございました」

「ああ」


 最後のありがとうは、きっと違う意味もあった……そんな気がした。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 ライトは一人、冒険者ギルドに向かう。

 道行く人、冒険者、商人など、かつてギフトであふれていた世界はなくなり、自分の力と意志だけで生きなければいけない世界となった。

 

「……まだ、時間あるな」


 ライトは少しより道をすることに。

 向かったのは、ワイファ王国が管理する墓地……ここに、親友レグルスとウィネ、父と母が眠っている。

 死体などはとっくに処分されていた。レグルスとウィネの荷物やライトの自宅もなくなり、この墓の中は何もない。

 でも、ケジメは必要だった。

 この墓を見るたびに、四人はちゃんと死に埋葬されたという事実を確認できる。

 故郷ではなく、ワイファ王国に葬ったのもライトの意志だ。

 

「ここに来るたびに思う。俺は……ちゃんと復讐できたのかな」

『…………』


 レグルスとウィネ、父と母が殺された。

 勇者レイジは死んだ。セエレは殺した。アルシェも殺した。

 アンジェラは許した。リリカは死に人形となった。

 女神フリアエがしたことは意味がなく精神崩壊を起こした。

 復讐なんて何も生まない。やるだけ意味がない……そんなことを言う奴はいるだろう。でも、なんの罰も受けずに殺した側が生きている世界を許せない。

 ここにライトがいるのは、やりおえたからだ。


「俺、この世界で生きてる。復讐を終えたこの世界で、次にやることは……死ぬまで生きて死ぬことだ」

『相棒……』

「カドゥケウス、最後まで付き合ってもらうぞ。俺が死ぬまでな……それが、お前への罰だ」

『ケケケ、当然じゃねぇか』


 ライトは忘れない。

 復讐に生きた自分を。これからの未来を歩む自分を。

 カドゥケウスは、楽し気に言った。

 

『相棒、今夜あたりリンの嬢ちゃんを抱けよ? きっと待ってるぜ?』

「はぁ?」

『あんないい女が男も作らねぇで相棒たちの世話してんのは、相棒に惚れてるからに決まってんだろ。ケケケ、女だらけの生活もいいじゃねぇか』

「やかましい」

『それとも……オレ様を抱くかい? 相棒のためならいいぜ?』

「いや、それだけは勘弁」

『……軽くショックだぜ』


 この、喋る銃カドゥケウスと共に───ライトはこれからも生きていく。





─完─





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 完結です。

 今まで応援ありがとうございました!


 やや駆け足気味になりましたが終わりです。

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 現在、新作を製作中です。ある程度書き貯めしたら投稿したいと思います。その時はぜひともよろしくお願いいたします!

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勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す さとう @satou5832

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