第215話・あっけなくも儚い終わり
肉塊はカドゥケウスに喰われ、大部屋には何も残らなかった。
ライト、リン、生気を失ったフリアエ。そして……人型になったカドゥケウス。
ライトはフリアエには目もくれず、カドゥケウスを見た。
「どうした相棒? オレ様の麗しい姿に見惚れちまったか? なんなら宿屋でイッパツ……」
「ふざけんな。クソ……なんだこのあっけない、やるせない気持ちは……っ!!」
「悪いな。でもよ、勇者レイジは死んで女神フリアエは抜け殻、外の気配からすると、肉塊人形も消えちまってるはずだ。それに……《ギフト》もな」
「……なに?」
すると、背後で犬の声が聞こえた。
振り返ると、リンの影の中に住んでいた子狼のマルシアが尻尾を振っていた。リンの影を前足で叩いているが、影の中に入ることができないようだ。
「マルシア、まさか……影に入れないの?」
『くぅん……』
リンはライトを見て、フリアエを見た……フリアエは生気を失った目で何やらブツブツ呟いている。
「うそうそうそうそ、おかあさま、おかあさまが……ま、まかいの、まかいのかみと、捨てられた、捨てられた、捨てられた……わ、わたし、わたしはわわ」
壊れていた。
ライトは軽く蹴るが、全く反応しない。明後日の方向を見たままブツブツ呟いている。もう心が死んでいた。
カドゥケウスは大きく伸びをする。
「はぁ~……生きてて一番楽しい時間だったぜ、相棒。壮大な芝居を見ているようで、全てを知るオレ様が無邪気に参加して大騒ぎ。シャルティナもイルククゥもなーんも知らずに、オレ様だけが楽しんでた」
「…………」
「女神も魔神も人も巻き込んだ遊びでしばらくは満足できそうだ。それに、肉塊の消化に時間がかかるから何も食べなくても反芻できる。相棒、残りの人生は好きにしな。オレ様を深い泥沼にでも沈めてもかまわねぇ。オレ様は相棒の寿命が尽きたら魔界に帰ることにするからよ」
「…………」
「じゃ、戻るぜ。それとも……イッパツ楽しみたいなら付き合うぜ」
「カドゥケウス……」
ライトはカドゥケウスに近づき、思いきりぶん殴った。
魔神としての姿のカドゥケウスにダメージはない。それどころか避けることもライトを殺すこともできたが、カドゥケウスは受け入れた。
「いろいろありがとよ、クソ野郎」
「おお、こっちこそ」
カドゥケウスの身体が光に包まれ、拳銃がライトの手に収まった。
こうして、戦いは終わった。
不完全燃焼な、カドゥケウスだけが納得し楽しんだ戦いが。
◇◇◇◇◇◇
ライトはカドゥケウスをホルスターに収め、マルシアを抱くリンと一緒に女神フリアエをどうするか話していた。
すると……女神パティオンとブリザラが部屋に入ってきた。
二人はフリアエを見た。
「……恐ろしい気配を感じたわ。私たちやフリアエとは比較にならない、強大な……」
「ああ、カドゥケウスだ。それより……」
全員の視線がフリアエへ。
パティオンは悲し気に目を伏せつつも、ライトに礼を言った。
「ありがとう、フリアエを殺さないでくれて」
「別に。それに、こいつは心が死んでる……もう死んだようなモンだ」
「…………」
「あとは好きにしろ。こんな抜け殻、殺す価値もない」
「ええ……フリアエの心が死んだことで、この世界にばら撒かれた《ギフト》も制御を失って消滅したわ。恐らく、世界中で混乱が起きるでしょうね……」
「…………」
「でも、人は強い。ギフトがない世界でも、きっと」
「綺麗ごとはいい。さっさと行けよ」
「……そうね。私たち女神は本来、人と関わることがない種族。それでも言わせてもらう……ありがとう」
そう言って、フリアエを抱えたパティオンは歩き去った。
ブリザラは何も言わず、笑顔で手を振って出て行く。
残されたのは、リンとライト。
「ライト……全部終わったの?」
「…………ああ。全くもって不完全燃焼な終わりだ」
父と母、親友を殺されて復讐に燃えた。
力を磨き、同族の魔神とも戦った。
女神が現れ、それでも戦った。
仲間ができて、失いたくないモノができた。
セエレを殺した。アルシェを殺した。アンジェラを許した。リリカはツクヨミのオモチャとなった。
勇者レイジはフリアエに利用され、リンが終わらせた。
女神フリアエはとんでもない勘違いの中、カドゥケウスに全てを喰われて精神崩壊を起こし自滅した。そして……この世からギフトが消失した。
ライトに残されたのは、何なのだろうか?
「終わった……はは、なんか呆気ないな」
「ライト……うん、終わった」
「なぁリン、これからどうする?」
「……私は、ライトに付いて行く。マリアもシンクもツクヨミもいるしね。それに……みんなと一緒にいる場所が、私の居場所だから」
「…………」
「ライトはどうするの?」
「……そうだな。少し、のんびりしてから考える」
少なくとも、一人じゃない。
リンが、マリアが、シンクが、ツクヨミがいる。
そして、ライトはそっとホルスターに手を添える。
『───ケケケッ』
ムカつく声が聞こえたが、どうもこの銃を捨てる気になれなかった。
ライトはリンと一緒に城の外へ。
外には、マリアたちが集まっているはず。ファーレン王城にいれば面倒なことになるのはわかりきっていた。
「ねぇ、とりあえずヤシャ王国に行く? あそこにはマリアの別荘があるし、のんびりするにはいいかもね」
「そうだな。もう目的もないし、のんびり行くか」
「ん、そうだね」
こうして、ライトの復讐は終わった。
ライトの望む形で仇を討てた。そう問われれば「はい」とは言えない。
でも、もう復讐相手は存在しない。
幼馴染も、勇者も、女神ももういない。
いるのは、絆を深め合った仲間たち。
「あぁ、そうだ……」
ライトは思った。
父と母、そして親友の墓を作ろう。ちゃんと供養だけでもしよう。
そして、今日までのことを全て話そう。ちゃんと終わるとしたら、そこまでをしなくては。
やることはまだある。そう思い、ライトは外へ向かって歩き出した。
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