Bパート


「おりゃああっ!!」


 妖封剣を振りかぶり、俺は敵に向かって斬りつける。

 相手は俺の華々しいデビュー戦で戦った一つ目入道。例にもよって長髪の女性を襲っていた所を捕まえた。


 今回はちゃんと霧玉を使ったし、前みたいに被害を与えたり通報される心配はない。つまり、安心してこいつをぶっ飛ばせるって訳だぜ!


「こんな時間に何やってんだ強姦魔。俺ァな、授業中に『トイレ行きたくなった』つって抜け出してきてるんだぞ」


 妖怪は何も夜だけに現れるのではない。朝だろうが昼だろうが、こちらの都合も考えずに人間の世界で悪さをする。

 そのため一流の妖怪退治師は、妖気を感じればいつでも現場へ出動できるように精神を研ぎ澄ませている。

 

 無論俺もそれに倣って研ぎ澄ませまくってるが、そのせいで当てられても答えられないとか、授業に集中できなくなる弊害が起きてしまっている……。

 しかも今回はマジやばくてな。


「さっさと戻らねえと居残りの上、課題倍にされるんだよ!」


 そんな事お構いなしとばかりに、一つ目入道はこちらに光線を放ってきた。

 前回この妖封剣をカチカチに固めてくれた石化光線だ。あの時は貰ったばかりの剣が早くも使い物にならなくなったと思って本気で焦ったが……。(数分後に元に戻った)


「同じ手が通用するかっての!」


 俺は一直線に向かってくる光線を右に避け、相手のガラ空きのボディに剣をぶつけ強烈な一撃をお見舞いしてやった。


 それを受けた一つ目入道は、大きな悲鳴を上げながら逃げていく。


「あっ……」


 本当ならすぐにでも追いかけてとどめを刺したい。……が、居残り課題がかかっている以上早く学校に戻らないとマズイ。


「……い、命拾いしたな! おととい来やがれ!」


 去っていく一つ目入道の背中に捨て台詞を吐きつつ、俺は大急ぎで学校に向かった。





「あ“ーーっ……。やっと終わったー……」


 結局、授業の終わりに間に合わなかった俺は山ほどのプリント課題をするはめになった。

 今日は大事な歓迎会の日だってのに、なんてタイミングの悪い……。


 集合時間よりだいぶ遅れて部室に到着した。


「悪い! 遅くなった!」

「あ。先輩……」


 部室では既にハカセと、歓迎会の主役である三神さんが待っていた。


「キンさん、また残されてたでありますね……」

「へへへ……どうもすいません……。てか朱音は? まだ来てねーの?」


 俺達の中で一番この歓迎会に乗り気だったはずの朱音の姿が見えない。体調不良で休むとは聞いてないし、まさかあいつも居残り? いや、そこまで馬鹿じゃないよな。


「それが、買い出しに出かけたっきり帰って来ないのでありますよ。連絡を取ろうにも……」


 ハカセは自分のスマホで電話を試みるが、


『ゲッ♪ ゲッ♪ ゲゲゲ……♪』


 無情に響く着メロ。彼女のスマホは、部室に置きっぱなしになっていた。携帯電話を携帯してないとはなんて無頓着な。


 学校から近くのスーパーまでは歩いて五・六分ほど。買い物の時間を入れても三十分もしないうちに戻ってこれる時間のはず。

だが、ハカセの話しによると部室を出ていって一時間以上帰ってこないと言うのだ。


「俺ちょっと探してくる!」

「わ、わたしも行きます!」

「三神さんはここでハカセと待っててくれ。大丈夫、何かあったらすぐ連絡するから」


 心配する三神さんに対し、俺はスマホをチラつかせつつ部室から飛び出した。





「くそっ! 一体あいつどこ行きやがったんだ……?」


 とりあえず彼女が行きそうな場所を町中くまなく探してみるものの、どこにも見当たらない。

 ここまで探していないとなると、何か事件に巻き込まれている可能性が高い。


 例えば、妖怪に攫われているとか!


 この考えに至る根拠はある。先程から俺の背後に微かな妖気を感じるのだ。

 何かがいる。そうじゃなくとも、この事件が妖怪絡みだというのは断言できる。

 ……ほら。言ってる側から妖気が近付いてきた。


「そこだ!」


 俺は不測の事態にと背負っていた刀袋から妖封剣を取り出し、背後に迫った謎の妖気に向かって剣先を向ける。


「きゃあっ!?」


 すると、聞こえてきたのは聞き覚えのある可憐な声。


 見下ろしてみるとそこには、三神さんがしゃがみ込んでいた。

 何でこんなところに……? まさか心配してきてくれたのか?


「悪い! 大丈夫、……か……?」



 彼女に手を差し伸ばそうとしたところで、思わず絶句した。


 頭に大きなネコ耳、黒色の長いしっぽ。

 どちらもウニョウニョと忙しなく動いている。コスプレにしては出来すぎだ。

 いや普通こんなところまでコスプレしてこないだろ。


「いたた……、……あ! そ、その……! 怪しい者じゃありませんよ!?」

「いや怪しいだろ。明らかに猫耳と尻尾生えてるぞ」

「これはビックリすると出てきちゃうだけで……普通の人間ですよ」

「普通の人間はそんなもん出てこねーよ」


 彼女の狼狽えている姿を見て、俺は確信した。

 謎の妖気の正体……、それは……!



「三神こたま! お前……、妖怪だったんだな!」


 俺はすぐさま後ろに下がり、三神に剣を突き付けた。


「ちょっ……!? そんな物騒なモノ向けないでください!」

「……初めて会った日からおかしいとは思ってたんだ。手を握られたとき、ほんの少しだけ妖気を感じていたからな。あの時は気のせいかと思ったけど……やっぱりこういう事だったのか!」


 かわいい後輩だと思っていたらとんだ裏切りにあったぜ。まさか学校に憎き妖怪が混ざりこんでいたとは。

 俺が憎悪の炎を燃やす中、一方の彼女はまだ何が何だかわかっていない様子だった。


「一体どうしたんですか先輩!? いきなりそんなモノ取り出して……。わたし知ってますよ、街中で刀を振り回すと銃刀法違反ジュートーホーイハンで捕まるって!」

「ぐっ……」


 こいつ、妖怪の癖に正論カマしてきやがって……。


「そ、それより答えろ! 朱音をどこへやった!?」

「え?」


「え? じゃねー! お前が朱音を攫ったんだろ!」

「ご、誤解です! わたしそんな事してません!」


 首をブンブン回しながら否定する三神。

 だが、俺にはその言葉が信じられなかった。


「妖怪の言葉なんか信用できるか。どうせ何か悪いこと考えてるんだろ!」

「わたし悪い事なんかしません! 横断歩道は手を上げて渡るし、プラスチックごみは分別して捨てます! ……というか、学校に遅刻したり写真集持ってくる先輩の方が悪いと思います!」

「ぐはあっ!? コレまたぐうの音も出ない正論を……!」


 妖怪にここまで言われては、人間の面目丸つぶれである。

 写真集はともかく何故遅刻の話を知ってるんだ。さては、誰かが話したな!?


「とにかく、朱音先輩を探しましょう。力を合わせば見つけられますよ!」


 三神は俺に手を差し伸ばしてきた。


「……断る。俺は妖怪の手を借りるつもりはない」


 が、俺はそれを払いのける。


「俺は妖怪退治師だ。妖怪を倒すのが俺の使命……、そんな俺が妖怪と手を組むだって? ふざけんな。朱音は俺が見つけ出す。お前は帰って人間世界の勉強だけしてろ」

「そんな言い方……!」

「いいから帰れ! 俺はお前ら妖怪なんか大嫌いなんだよ!!」


 俺がそう怒鳴ると、三神は大きく身体をビクつかせた。

 そして顔を伏せて、何も言う事もなくその場から立ち去っていく。


 ちょっと言い過ぎただろうか。

 いや、妖怪に遠慮なんていらない。これくらいで十分だ。


 プルルル……♪ と、ここで俺のスマホの着信音が鳴った。電話の相手は。


「……ハカセ? どうした?」

『キンさん! あの後三神さんが……!』

「あー、自分も探すって出てったんだろ? 知ってる。さっき会った」


 といっても、俺が追い返したんだけどな。


『そうでありますか……。それで、朱音さんは?』

「いや、まだ見つからねー。町中探したんだけどな」

『……実は僕も、ドローンを飛ばして捜索してるのですが、中々発見できず……』

「ドローン!? お前そんなの持ってたの!? てか作ったの!?」


 ハカセは色んな知識を持ってるだけではなく自ら発明品を作ったりもしている、凄腕の技術者だったりする。

 さすがは【博士】。後はもっとビジュアルが良ければモテたりするんだろうけど。


「でも、妙なんであります」

「妙って?」

「一ヶ所だけ調べられない所があるんでありますよ。そこ周辺で異常な妨害電波のようなモノが発生しているようで、近寄れないのであります」

「……! ハカセ、その場所はどこだ!?」


 ハカセから場所の名前を聞いた俺は、スマホの通話を切り急いでそこへ向かった。


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