Cパート
「皆コップは持った? それじゃあ……」
「「「カンパーイ‼」」」
朱音の号令で、俺達はジュースが入った紙コップを手に取り、乾杯をする。
三つ目入道との戦いから数日後。ミステリー部での部室で、先送りになっていた三神の歓迎会が行われた。
というのも、結局学校に戻ってこられたのは夕方六時を大きく回った頃であり、この時間から始めるのは遅いのではないかという事もあって延期となっていたからである。
その後紆余曲折を経て、本日めでたく?開催に至ったのだった。
「か……、かんぱーいっ!」
最初は緊張した様子の三神だったが、場の空気にもすぐ慣れたようで朱音達と仲良く談笑している。
すっかり人間の世界に溶け込んでまあ……。
「でもビックリしたでありますよ。公園のベンチで寝てたなんて」
「いや~、まっすぐ帰ったつもりなんだけどねー。気がついたらベンチで目が覚めて、キンさん達がいたのよね」
朱音は今回の事件を覚えていない。おそらく『ちょっと買い物に行ったら、いつの間にか公園で寝てたわ~』ぐらいにしか考えてないのだろう。
まあ。こっちも説明するの面倒だから別にいいけど。
「一目惚れだァ!?」
歓迎会が始まるちょっと前、俺は三神から事の顛末を聞いた。
「はい。あの後、三つ目入道さんの仲間に話を聞いたんですけど……」
もともとあの茂みの奥は三つ目入道達の住処であり、昔から縄張りに近づく人間を驚かせて追い出していたようだ。何かが出るという噂の真相はこの通り。
春休みが始まる数日前、彼らの縄張りに人間の少女が迷い込んだ。それが朱音だったのだ。
最初はいつもの通り驚かそうとしていた三つ目入道だったが、彼女を一目見た瞬間恋に落ちてしまった。
その後なんとか縄張りから追い出したものの、三つ目入道は彼女の事が気になってしょうがない。そして、また会いたいと思い始める。
しかし三つ目入道の目は悪く、髪が長い事しか分からなかった。そこで部下の一つ目入道達を使って、長髪の女性を探すよう命じたという。
さて、これに困り果てたのが部下の一つ目入道である。
手がかりがそれしかないため捜索は難航し、見つけたにしても人間にはこちらの姿は見えないし、声も聞こえないので本人確認もできない。
最後の手段として直接住処に連れて行って確認しようと近づいた時に現れたのが、まさしく俺だったのだ。
「そうか。じゃああの女性達は、朱音と間違われて……」
彼女達からしてみれば迷惑な話だ。
そしてあの事件当日。若い長髪女性がスーパーから出てくるのを発見。気絶させてあの場所へ連れて来られたのが偶然にも朱音本人だった……ということらしい。
事件の真相は分かった。だが、だからといって許す気なんてない。
奴は自分勝手な理由で、朱音や周りの人達を危険に晒したのだから。
「先輩」
ボソッと三神が呟いた。
見ると、何と三神が俺に向かって深々と頭を下げているではないか。
「……おい。何のつもりだ」
「お願いします。三つ目入道さんを許してあげて下さい!」
「はっ。やっぱり妖怪は妖怪だな! お仲間の肩を持つってか?」
「そうじゃないですけど……。わたし、三つ目入道さんはそんなに悪者じゃない気がするんです」
「何?」
「確かにやり方はまずかったかもしれません。でも彼は純粋に好きな人に会いたかっただけなんです」
「……」
「きっと、もうこんな事はしないでしょう。だから最後に、朱音先輩に会わせてあげて下さい」
「……あのな、前にも言っただろ。妖怪の言う言葉なんか信じられないって。奴が今後同じ事件を起こさないって確証はないし、そもそも攫った相手に会わすって事自体――」
その時。
三神は俺が背負っていた刀袋から妖封剣を取り出すと、あろうことか刃先を自分の首に向けたのだ。
「おま……っ!? 何やってんだ!?」
「言って分からないなら、行動で示すべきだと思いまして」
「!」
「先輩は優しい人です。妖怪が嫌いとは言っていても、妖怪であるわたしを助けてくれたり、こうやって剣を向けると驚いてくれる。でも、その優しさに甘えてちゃいけない」
三神は俺の右手を手繰り寄せ、柄を握らせてきた。
「――もし、またこういう事件が起きたのなら、先輩はわたしの事を斬ってもらって構いません」
「……!」
「だから今はわたしを、妖怪を信じてください」
その目、口からは、迷いを一切感じられなかった。
自分が斬り捨てられる、覚悟は出来ている――そんな表情だ。
「…………ハァ」
俺は三神の手から妖封剣を振り払うと、三つ目入道が封印された御札を剥がす。
すると御札から霊魂が飛び出し、三つ目入道の姿に戻った。
「!? ……!?」
三つ目入道は何が起こったのか分かってないみたいだ。それもそうか。
御札の中では封印された時の状態で保存されている。奴にとっては自分が石にされて、気づいたら状況が変わっているのだから。
「先輩、これって……?」
困惑する三神をよそに、俺は奴の目の前に立ち、人差し指を立てて一言。
「一回だけだ。一回だけ、朱音の傍にいられる権利をやる。ただし、妙な事しやがったら今度は封印どころじゃ済まさねーからな」
三つ目入道は一瞬なにを言われたのかわからずきょとんとしていたが、やがて言葉の意味を理解すると、大きくうんと頷き、スッと消えていった。
何か言いたげな三神に、俺は忠告する。
「勘違いするなよ。最後のチャンスをやっただけだ、終わったらまた封印する」
「先輩」
「それより今は、パーティーの準備しなくちゃだ。お前も手伝えよ? ミステリー部の仲間なら、な」
「はい!」
三神がにこやかに笑う。
この心強さを妖怪はみんな持ってるのか?
だとすれば、俺はそんな
部室へ向かいながら、俺は複雑な思いを抱えていた。
それから色々あって、今は歓迎会の真っ最中。
中央に並べた机。
席順は玄関から手前に三神。向かい合わせの席にハカセ。
ハカセの隣に俺。向かって俺の真ん前に朱音がいた。
そして、その丁度中間地点に三つ目入道を立たせている(そのままのでかさだと部室に入りきらないので、うずくまってもらっているけど)。
約束通り、朱音の傍に配置してるのだ。
ただ、変な真似できないように『いつでも攻撃できるんだぞ?』という意味を込めて剣をチラつかせるように置いている。
開始から一時間ほど。今のところ特に問題はない。
朱音も三神達と仲良く話をしてるし、三つ目入道もそれを微笑ましく見守っている。……お前は授業参観に来ている親か。
このまま何も起きなきゃいいな、と若干フラグめいた事を考えつつジュースを一口……。
「そういえばさ。公園で眠ってた時に夢で出てきたの、三つ目のお化けが!」
「「「!!」」」
思わずジュースを噴き出しかけた。
完全に想定外だった。お前がその話するんかい!
本人は夢だと思っているようだが、実は覚えてたんじゃないか!?
「ほ、ほお……。それがどうしたって?」
声を震わせながらその夢の事を聞いてみた。
三神も三つ目入道もハラハラとしながら見つめている。
「いやマジ超~可愛かった! 愛くるしいマジキュート!」
「か……可愛い?」
あれで可愛いになるのか……。その道のオタにはそう見えるのか、なるほど……。
「周りには友達っぽい一つ目お化けもいてさ。賑やかそうだったよー」
一つ目入道の事だな。
「へー。それはなかなか楽しそうでありますな」
「……でも、なんかちょっと退屈そうだった。だから私、話し相手になってあげたの。互いに好きなものの話とかしてさ! すっごく楽しかった!」
ここはオリジナルの記憶みたいだが、とても楽しい雰囲気が伝わってくる。
「それで思ったんだ。見た目や住んでる世界は違っても、思いは通じる。きっと友達になれるんだって」
「!」
「その後すぐに銀髪の男の子に呼ばれて消えちゃったんだけど……、また会えるといいなぁ」
朱音の言葉に少しハッとなった。
――見た目や住んでる世界は違っても、思いは通じる。友達になれる。
俺にとってもそうじゃないのか?
妖怪はそんなに悪い奴じゃない。仲良くできるんじゃないか?
そんな考えが生まれつつあった。
「良かったですねっ。三つ目入道さん」
三神が三つ目入道に小声で呟きかける。
が、様子がおかしい。
「…………」
「三つ目入道さん?」
朱音の話を聞いてからずっとわなわなと震えているのだ。一体どうしたのか。
『ウ……ウオオオーーッ!』
すると三つ目入道は、大きな叫び声をあげながらピョンピョンと飛び上がりはじめた。
今の話が相当嬉しかったようである。それは良い。それは良いんだけどさ!
でっかい図体で飛び跳ねるもんだから、地響きが半端じゃなかった!
「何!? 地震!?」
「の割にはめっちゃリズミカルに揺れてるであります!」
「み、みみみ、三つ目入道さん!? お、おお落ち着いて~!」
そうしていい感じにシェイクされた結果、部室中に飾り付けた装飾は滅茶苦茶。
おまけに……。
ヒューン! ゴーン!
「カルロスッ!」
「きゃあっ!? 先輩!」
後で開けようと用意していたくす玉が、俺の頭上でストライク。
「大丈夫です……かっ!?」
駆け寄ってきた三神が足を滑らせて俺にダイブしてきた。
――ネコの爪を剥き出しながら。
『ビックリしちゃうと(ネコ要素)出てきちゃう』……。
言ってたなぁ……、そういや。
「おお! キン殿ラッキースケベ!?」
「の割には痛々しいわね、色々と……」
「せ、先輩……。その……、妖怪を信じてください……?」
顔にひっかき傷を残しながら立ち上がると、俺は悟った。
ああ。やはりコイツらとは仲良くできない。
妖怪なんて大嫌いだ!!
こたまのま!~令和日本妖怪奇譚~ 主城 @kazuki_isiadu97
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