血まみれベートの苛立ち ジェズPART1



 依頼が終わり時間潰しに散歩していた私は、異様な匂いの子供を見つけた。

 暇潰しに丁度良い。私はその男とその友人を追うことにした。

 

 子供達は獣?を探す為、バスに乗る様だ。

 その獣と言うモノが私の事か別の奴の話か判断しなければならない。私は2人と同じバスに乗った。


 廃墟に行くらしいので危険ならそこで殺せば良い、それまでは追い続けるだけ。そう考えていたのだが。


 後ろから懐かしい音が聴こえ、私は子供の友人に話し掛けた。


 曲名を聞こうと思ったのだが知らなそうだ。廃墟で殺して持ち物を全て奪おうと思ったのだが、何故かこいつは遺産を渡すと言って紙に署名をし、それを私に渡した。

 「お前、変だな。」無欲で無気力で無頓着で、そんな性格で生きてて楽しいのか?


 廃墟に先回りすると見覚えのない顔が3人と1人、その1人は殴られたのち、縄で縛られた。

 暴力的で群れで動く、先の変人よりは人間的だ。

 この辺りは最近、妙な連中が種類問わず多く集まっているらしい、そろそろ依頼になるかもな。面倒だ。


 あっ、あの子供達が廃墟に入って行った。

 2人は案の定捕まった、バカだなあ。


 丁度良い、私が殺さなくても消してくれるな。死体からあの機械と写真を獲れば完璧だ。飯にもなるぞ。

 今日の私は運が良い。

 木の枝に寝ながら私は子供達の様子を傍観していた。



 3人の姿が消えた、何を手間取ってるんだ?その隙に子供達が逃げ始めた。

 「使えないな。」捕まえようと思ったが、2人の足は止まった。

 面倒が起こる、そんな予感がした。


 「なんだあれ、気味悪い。」猫が現れた。2足で歩いている、猫なのに。

 機械を持っていた子供が投げ飛ばされた。不味いな。このまま殺されたら機械も壊れてしまうかも知れない。直ぐに回収すべきだ。


 「これは、夢か?」現実逃避してやがる。現状を受け入れられないのだろう、今こそ逃げる好機だろうに。

 「現実だよ。」


 機械は取った、だが外枠が割れている。

 「ちっ、鳴らないぞこれ!」なんだこれ、やっと鳴ったと思っても音が酷い。


 こいつならこの機械を直せるか?もしこれが珍しい物なら、今この変人を殺すのは勿体無い。最悪これを直す手立てが無くなる。


 私はこの変人を生かすことにした。

 この壊れた機械を直させる代わりに助けてやる、分かり易い交渉だ。


 日頃の鬱憤を晴らす良い機会だ。本当に今日は運が良い。だが相手が弱かった。


 久々に殺し合えると思ったが、拍子抜けと言うやつだ。蹂躙して終い、再生出来るとは思わないのでこれでお仕舞い。

 でも死ぬ瞬間は良かった。死ぬしかないと悟ったその顔が、生存本能を踏み躙るこの感触が心地好い。


 はっくんとか言ってたが、本当に変な奴だな。

 何故か死体を見て泣いている。少し前にはお前が殺されそうだったのに。

 そしてそのまま意識を失い倒れた、これでは当分起きない。


 渡された紙に住所が載っている、運んでやるか。もう1人は死体を投げつけられ吹き飛んだままだが何処だろう。


 「嘘だろ?」居ない。自力で逃げたとは思えない。私が気付かない筈がない。


 解らない問題を考え続けるのは低脳のする事だ。私はその場の死体を片付けた。

 「見た目通り軽いな。」私は変人を背負いこの町を出た。



 「さて、次の家だ、面倒だな。」時雨だったか?確かこの町に時雨と言う名字の奴は居ない。

 私は部屋の中を漁った、出来れば日が変わる前に終わらせたい。


 名簿帳があった、名前やら電話番号やらが載っている。簡単にその人物についての特徴まで書かれている。


 獅暮?時雨じゃないのか。こいつだけ名字も住所も載っていない。

 行数も分量も揃えて書く奴が書き忘れたとは思えない。書く迄もない当たり前の事なのか、文面として残したくなかったか。


 窓の外に何かいる。何者かが付いて来てたた?

 ベランダに入っていた。息も聞こえない。同居人とは思えない、まず人じゃない。


 私はソファーに寝た。5分を越えた時、相手はベランダを降り走り去った、私はそれを追った。

 寝たふりに気付かなかったふりだろう。だが、もうこれ以上逃がす訳にはいかない。


 着いた場所は豪邸だった。この辺りの物件の中では最大だ、そのベランダに獅暮は寝ていた。

 殺そうと思えば直ぐ出来る距離だ、が。


 「見逃してやる、感謝しろ。」

 暇潰しに相手に出来る奴ではない。

 私は先の家に戻った。


 獅暮と言う奴、あれには何かが付いている、憑いていると言うべきか。

 日付が変わる、軽く眠るか。



 このバカと出会った日から3日経った。昨日は散々な目に遭ったが今日も同じだろうか?憂鬱だな。

 「いってきます。」シロが出掛けた。箱があるので飯には困らないが、暇になってしまう。


 最近は依頼は少なく楽しみもない、玩具を拾ってもその玩具に殴られる始末だ。

 苛立つ。


 部屋の中を見渡す。あの機械がもう1つある筈だが見付からない。何処にあるのか本人も忘れたらしい、まあ思い出しても言わないだろう。


 私はあいつ自身が面白いから生かしてる、だから機械が見付かり次第殺すなんて事は無いんだがな。まあ見付けたら少し遊んでやるか。


 箱から薄い雑誌を取り出した。暇なので読む。服の記事を読んでも面白くはないが、知識は増える。読書は私の素晴らしく豊かな暮らしの為に必要だ。

 「気になる彼に猛アピール、か。」この知識が必要になる事は無いだろう。


 「行くか。」特にやりたい事が思い付かないので依頼を進める。化け猫退治の続きだ。


 昨日聞いた情報だと、あの化け猫達は最近になり突然、別の地域からあの町に越して来たらしい。

 前は大人しく暮らしていたが、ここに越す前突如対立、集団は2つに別れたそうだ。


 「その内の半数、推定10匹が隣町の廃墟近くを拠点にしました。彼等は分かり易く言えば穏便派、必要な狩りしかしない主義です。」

 「なんで依頼になった?」

 「もう1つのグループ、所謂過激派の行動から、彼等も危険因子と思われたのでしょう。」暴れる前に消してしまおうと言う事か。


 廃墟に着いたが特に気になる事は無い。

 この近くで息を潜めるとしたら?人の手を借りずに隠れられる場所が思い付かないが、人間に協力者がいるとは思えない。


 この近くではない?他の勢力のいない場所。そして何かしら自分等に特の有る場所。

 わざわざ殺しに来た奴等、執念深い奴等が今、求めるもの。


 そうか、仇討あだうちだ。数も残り少なくなった今、最期にするとしたらそれ位だ。

 普通なら逃げるべきだが、もし逃走より仇討を求めていたら?

 急いで戻る、私の住み処が危うい。



 シロが家にいる。窓の前に居るのはあの猫。

 あのバカ、自分で窓を開けやがった。

 私は飛び上がり口を開いた。猫はシロに向かって腕を振り下ろす。腕が当たる前に私が猫の左肩を加えた。


 「わっ!」シロが腰を抜かす。

 私はベランダから降りた、壁に引っ掛かった猫が暴れる。

 壁に全ての脚を置く、首の力で外に投げ出した。猫は隣の家に着地する。


 「許さない、許さないぞ!」

 「これの何処が穏便だよ、獣其の物だろうが!」壁を蹴り飛び掛かる、猫は右腕を構える。

 学習しない奴等だ。私は振り下ろされた右腕を爪で裂き首に噛み付いた。

 顎を閉める、首が潰れ血が飛ぶ。

 これで終い。頭部を加え、噛み砕いた。


 「ありがとう、助かった、はぁ。」ソファーに寄り掛かっている。腰を抜かした様だ。

 「少しは注意しろ。私が間に合わなかったらお前」

 「交渉しただろ、僕の命は君が保証してくれている。」出会った日の事か。まあこいつを他人に殺させる気はないし殺させないけどな。

 「その代わり、お前が死んだらお前の全てを貰うからな。」こいつの遺産に価値があるとは思わないがな。



 夜。

 「ラジオ無いのか、箱で出すか。」

 「これ以上部屋を狭くしたく無いです。」

 「棚だらけの癖に便利な物は無いよな。断捨離って言葉知ってる?」部屋の左側は棚で埋め尽くされている、その上には槍やら短刀やら色々置かれている。


 「物騒な部屋だな、親の遺産にしては多種類だよな。」

 「これでも少なくなったんですよ、動物の剥製とか大きくて使えない家具とかは獅暮に譲ったから。」あの家か。この町1番の大きさの家、孤児が何故あんな都会の豪邸に住める?


 「あいつ、なんであんな大きい家に住んでる?変だろ。」

 「知らないです、そう言えば聞いた事無いですね。」こいつの過去や親よりもあの豪邸暮らしが気になる、私の記憶だとあの家は空家だった筈だが。


 「ジェズ、夜食する?」

 「いや、今日の獲物食ったからいい。」依頼も進んだ、今日は眠れる。

 「寝るか。」

 「なら僕も。」

 「風呂位入れよ、もう入ったのか?」帰って来て直ぐ入ったのか。入浴中に襲われたら堪ったもんじゃないだろうな。


 「ジェズは?入ってないでしょ?汚れてないなら気にしないけど。」

 「入る、布団敷いとけ。」私は着替えの準備をし、浴室に入った。



 シャワーを浴びる。湯気で姿見が白く曇る。

 この姿になって何年だろう?名前は鷲と考えた名だが、姿はその前から使っていた。

 名前、か。


 ベートと呼ばれる事も、もう無くなった。

 今の私はジェズだ、昔の事は覚えていない。

 思い出せない記憶、私の昔の思い出。

 むかしむかしの思い出。


 「ジェズ?大丈夫か?」シロが扉を開けた。少し呆けていたようだ。

 「あっ、ごめん。かな?」

 「気にしなくていい。本当の性別なんて分からないからな。」私は浴槽を出た。


 枕には濡れないようにタオルが敷いてある。シロが敷いたのだろう。

 「気が利くな。」私は布団に入った。


 「ジェズ、質問しても、良い?」

 「私の性別か?良いぞ。」寝る前の小話位、付き合ってやるか。


 「ジェズは記憶が無いのかな?」

 「ああ、昔の事は覚えてない。」何世紀も前の事だがな。

 「自分の名前や性別も?」

 「性別は分からない、でも名前は知ってる。」ベート、日本語で獣、私の名前だ。

 悪魔だの怪物だの呼び名は色々あるが、名前として覚えているのはそれだ。


 「名前、聞くか?」

 「聞かない、ジェズはジェズだ。名前を変えたのには意味があるだろうから、深くは聞かないよ。」へえ、思ったよりも紳士だな。


 「記憶がないなら、昔からの知り合いとか、いないも同然か。」

 「腐れ縁ならいるがな。」

 「どんな奴?」彼奴か、最近は遭わないな。


 「蛇だ、嫌な奴だよ。男受けは良いがな。」

 「見た目は良いんだね。」

 「見た目な、私が暴君ならあいつは道化だ。」奇人変人の最上位だ。



 シロはもう寝たか。

 気になる気配も無い、休める。


 ジェズはジェズだ、か。

 ベートの頃の私も私だ。記録では100人は殺したようだ。覚えはないがな。

 その記録のベートが私だと言う証拠はない。私でないと言う証拠も又。

 はっ、私は今も昔も血まみれか。


 今日は考え事が多かったな。

 もう寝よう、少し疲れた。


 シロに礼を言いたくなった自分に、少し苛立った。

 おやすみ。

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