【短編】ヒーローマン

宜野座

ヒーローマン

 この街にはヒーローがいます。名前はヒーローマン。彼は市民を守るために、日々襲い来る怪人と戦っています。今日もコンビニでのバイト中に呼び出しがかかりました。


「怪人が現れたぞ、ヒーローマン。そこのコンビニの近くにある小学校だ。すぐに向かってくれ」

「棚卸しだけ終わらせていいですかね?」

「馬鹿言うな! 早く行かんか!」


 ちょっとマイペースなヒーローマン。渋々バイトを抜け出し、全身に真っ赤なヒーロースーツを着用して小学校へ向かいます。


「絶対時給下げられるやん……」


 着く頃にはモチベーション最悪の状態です。大丈夫でしょうか?


「来たなヒーローマン。お前に倒された仲間の恨み、今ここで『こっちはお前のせいで時給下がるんじゃコラァ!』ぬわぁぁ!? 初手で必殺ドロップキックだと!?」


 怪人はあっという間に空のお星様となりました。時給の恨みは恐ろしいのです。

 そして翌日。ヒーローマンは自宅で寝込んでいました。


「うぅ……思いっ切り風邪引いてんじゃんか……」


 計り終えた体温計の表示を見ながらヒーローマンは呟きました。


「ただでさえ時給30円下げられたのに……休んでる場合かよ……」


 何回か起き上がろうとしたヒーローマンでしたが、体調は最悪。


「くそ、しゃあねえ。しっかり休んで早く治そう」


 そんなヒーローマンの元に一本の電話が。


「怪人が現れたぞ、ヒーローマン。またあの小学校だ」

「すいません隊長。体の具合が悪くて……」

「そんなの知らん。早く行け」


 一方的に電話を切られフリーズ状態のヒーローマン。


「このブラック企業が……!」


 今にも死にそうな顔で着替えるヒーローマン。おぼつかない足取りで小学校へ向かいます。


「来たなヒーローマン! 昨日は不意を突かれてやられたが、今度はそう上手くいくと思うなよ!」

「でけえ声出すなよ頭に響くだろうが……!」

「え? あ、す、すまん」


 鬼の形相で睨むヒーローマン。とても正義の味方には見えません。怪人も動揺しています。


「……体調悪そうだな」

「ああおかげさまでこんな時に呼び出しだよこんちくしょうが」

「……なんか、ごめん」

「まったくだよこんちくしょうが」

「……出直そうか?」

「ああそうしてくれこんちくしょうが」

「ほんとごめんね……」


 なんだかんだで怪人を追い払ったヒーローマン。咳き込みながら帰路につきます。

 その後しっかり休んだヒーローマンの体調は、翌朝起きるとすっかり良くなっていました。


「しゃあ! 今日はちゃんとバイト行くぞ!」


 気合十分のヒーローマンの元に例のごとく着信です。


「怪人が現れたぞ、ヒーローマン。またまたあの小学校だ」


 無言で通話を終了するヒーローマン。淡々とヒーロースーツに着替え小学校へ足を運びます。


「来たなヒーローマン! 昨日はつい気を遣ってしまったが、今日こそ決着を『このロリコンが!』ぬわぁぁ!? 初手で目つぶしはアカンって! シャレならんって!」


 最後に必殺ドロップキックを決めてすんなり怪人退治を済ませたヒーローマンは、「もうやだこの生活…」と愚痴りながらそのままバイト先に向かいました。

 本当はもうヒーローなんて辞めてしまいたい。でも市民は街の平和を守るヒーローマンに感謝しています。

 今後も彼は、そんな市民のために渋々ながらも怪人と戦い続けるのです。

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