第7話 パチンコで勝つ方法(その3、ゴトのあれこれ)

 1990年代、半年で2億円を荒稼ぎしたといわれる伝説のパチプロ集団「梁山泊(りょうざんぱく)」はたしかに存在していました。「尿蛋白」ではなく「梁山泊」です。彼らは自前でパチンコ台を購入し、隅々まで調べつくしては独自の攻略法を生み出し、実際にパチンコ店であっという間にドル箱の山を築いていったのです。有名どころではCR春一番やCRモンスターハウスといった人気機種が梁山泊によって攻略されています。同じ店では一度しか攻略を行わないというのが彼らのポリシーで、ある日突然ハゲタカのように店へやってきては、信じられないほどのぶっこ抜きをかまして颯爽と去っていく、というのが彼らのやり口でした。梁山泊の攻略法は不正器具などを使ったいわゆるゴト行為とは一線を画したものであり、その機種の大当たり抽選周期の特性を見抜いて、タイミングよく玉を入れることにより高確率で大当たりを誘発する、という至極真っ当なものであったと言われています。


 さて、実際に彼らの行った攻略法とはどういうものだったのでしょうか?


 まず、当時のパチンコの大当たり抽選の仕組みについて説明します。パチンコの大当たりはヘソと呼ばれる盤面中央の穴に玉が入った瞬間に抽選されます。演出上は液晶の数字がくるくる回って数字が揃って大当たりとなるのですが、それはあくまで後追いの演出に過ぎず、実際はヘソに玉が入った瞬間に抽選結果が確定しています。仮にその機種の大当たり確率が319分の1だった場合、ヘソに玉が入る319回に1回の完全確率で大当たりということです。そしてこの抽選は周期抽選という方式によって行わています。時計の秒針を思い浮かべて下さい。その秒針は通常の100倍の速度、すごい勢いでくるくると回っています。あなたの目の前にはボタンがあって、ボタンを押した瞬間にその秒針は止まります。さあ、あなたは秒針が7を指した瞬間ぴったりに止めることができるでしょうか。簡単に言ってしまうと、これが梁山泊の攻略法です。くるくる回る秒針、これが大当たり抽選の周期を表します。大当たり抽選周期は時間の流れに対して常に一定で、大当たりのポイント(この場合は7)もあらかじめ決まっていたのです。ボタンを押す、という行為はヘソに玉が入った瞬間の抽選と同義です。つまり、針が今どこを回っているのかを見抜き、くるくる回る針が7を指したタイミングでヘソに玉を入れることができれば、見事大当たりを引き当てることができるということです。


 嘘か誠かこの攻略法、本当に通用しちゃいます(理論上は今でも一部で通用します)。しかし、言うは易し行うは難しで、実際やるとなるとめちゃくちゃ難しいんですよ。


 この攻略法のポイントは2つ。


①周期抽選の針が今どこを回っているのか見抜く

②大当たりが抽選される瞬間に玉をヘソに入れる


※時計の針というのはたとえ話で、実際に台の中で針が回っているわけではありません。念のため。


 まず①ですが、普通にパチンコを打っていたのでは、抽選周期の針がどこを回っているか見抜くことなどできません。梁山泊はここを徹底的に解析します。パチンコっていろんなランプがくっついていてピカピカ光っていますよね、演出も派手で多種多様なものがあります。例えば、このランプとこのランプが同時にチラッと光った時は、針はここを回っている、というようなポイントを明らかにしていったのです。次に②です。パチンコは盤面に無数の針が設置されていて、玉の動きをコントロールするのは一見不可能に思われます。しかし、梁山泊は機種ごとの釘配置や玉の打ち出しパターンを研究し、血の滲むような努力を重ねてこれを達成したのです。言ってみれば彼らの行った攻略法は職人芸みたいなものだったんですね。


 ちなみにこの周期抽選ですが、2004年に改正された遊戯規則では次のように定められています。


・一周期が0.05秒以下であるか、あるいは周期が規則的にならないようにすること 

 

 つまり今では梁山泊のような攻略法が一切通用しなくなるように、人間のレベルでは感知できないような複雑な抽選方法にすることが義務付けられています。


 体感機というゴト道具があります(ゴトは業界用語で仕事の略で、これをする連中はゴト師と呼ばれます)。体感機はパチンコやパチスロの周期抽選の特性を利用し、大当たりのタイミングを知らせてくれる特殊な器具です。初期の体感機はイヤホン型でメトロノームのようにリズムで大当たり抽選周期を知らせてくれるものでした。当時この影響で、店内イヤホン禁止のルールを設けるパチンコ店もあったほどです。その後も体感機は進化を続け、ついには低周波パルス(電流)を腕に接続するタイプのものまで登場します。これは主にパチスロ向けに使用されますが、大当たりのタイミングで、パルスが腕の筋肉を刺激し、ビクンビクンっと無意識に痙攣する腕が自動でレバーを叩いてくれるという優れものです。冗談のような話ですが本当です。僕はこの器具を使用したゴト師を見たことはありませんが、実際に目にしたとしたら、そのあまりの間抜けさに笑いを堪え切れない自信があります。当然ですがゴト行為は犯罪で、刑法235条の窃盗罪に当たります。皆さまは決してマネされませぬよう。


 余談ですがゴトには色々なタイプがあります。店員とグルになって、特定の台に大当たり確率をアップさせる基盤を仕込んだり、パチスロメダルを不正に取得することのできるクレ満くんという道具が流行ったこともありました。漫画カイジに出てくる「磁ビール」もその一つ。これは磁石を仕込んだビール缶をパチンコのヘソ付近に掲げ、念仏を唱えながら磁力を用いてパチンコ玉をヘソへ導くというものでした。さすがに磁ビールは漫画の世界ですが、磁石を用いたゴトというのも古くからある手口の一つです。


 パチンコ全盛後期、外国人犯罪者集団によるゴト行為が横行していた時代がありました。彼らは必ず二人以上の複数人で不正行為を行い、一人は見張り役、一人が実行役といったチームワークを駆使して不正に玉やメダルを抜いていたのです。僕の友人に某大手パチンコチェーンの管理職がいます。彼曰く、当時は実際に店でゴト師を見つけても直接注意することは難しかったようです。中には悪質な輩がいて、注意した店員が特定され、後から危害を加えられるリスクなんかもあったそうです。当然ですが、ゴト師が不正に搾取した分(店の赤字)は、他の善良なプレイヤーから回収されることになります。たまったもんじゃないですよね。




 ……すみません。


 今回は一歩踏み込んだパチンコで勝つ方法を真面目に考察するつもりだったのですが、梁山泊の話から脱線してゴトの話を長々としてしまいました。次回はしっかりと考察を進めていくつもりです。そのあとは僕が過去にパチンコ屋で実際に経験した面白い話と題して、渋谷のパチンコ屋でギャルに逆ナンされた話、自称寿司屋の大将に金を貸した話、ヤンキーと喧嘩した話なんかも書いていきたいと思っています。パチンコ屋は免許更新で数年に一度訪れる免許センターのようなもので、普段の生活では遭遇しないであろう、香ばしい面々が揃う場所でもあります。面白い話には事欠かなかったりするんですよね。今回のような脱線の方が書いていて面白いので、これからも適宜盛り込んでいけたらと思っています。パチンコの後はパチスロ編、そしてカジノ編へと進んで行く予定です。


 作者のミトイルテッドは「うまのほねダイアリー」という半自伝的なエッセイもカクヨムでネット掲載しています。興味のある方はそちらも読んで頂けると嬉しいです。

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ギャンブルで勝つ方法 ミトイルテッド @detlily

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