第6話 パチンコで勝つ方法(その2)

 それでは、パチンコにおける「ボーダー」の意味について一緒に考えていきましょう。「ボーダー」は英語ですが、日本語に直すと「境界」という意味です。パチンコにおける「ボーダー」とは勝ち負けの境界線のことを指します。勝ちも負けもしない状態、つまり期待値100%の状態のことを「ボーダー」と言います。前話で紹介した【とある人気機種のスペック】に以下のような記載がありました。


ボーダー:4.0円/20.3回転、3.57円/21.2回転、3.33円/21.8回転


 パチンコに縁がない人にはさっぱり理解できないものでしょうが、これら数字はパチンコで勝つことにおいては最も重要な情報といっても過言ではありません。これを読み解くために、まずは前提としてパチンコ屋における「交換率」を理解する必要があります。一般的にパチンコ屋ではお店から500円で125玉を借り(貸玉率:1玉4円)、これを使ってプレイを行います。500円分の持ち球は数分でなくなりますが、大当たりを引くまでこれを繰り返します。いざ大当たりを引いて5000発分の出玉を獲得したとしましょう。あなたはまずこの出玉を景品カウンターのお姉さんのところへ持っていき、薄っぺらくて妙なかたちをした金の景品へと交換してもらいます(景品の束を輪ゴムでとめてくれたり、余った玉でチョコなどの駄菓子やドリンクへの交換を勧めてくれる親切なお姉さんです)。次に、たまたま近くにあった謎の古物商にこれを持参し、現金2万円で買い取って貰うのです(換金率:1玉4円を5000発分)。ちなみにこの古物商の店構えは不思議なつくりになっていて、まるで刑務所の面会室のような防弾ガラス越しに不愛想なおばちゃんと対面し、無言で景品と現金のやり取りを行います。厳重なセキュリティで守られたこの堅牢な古物商には多額の現金が保管されており、強盗の標的になってしまうこともあるのです。


 さて、「交換率」については理解して頂けたでしょうか。1玉4円で借りて、1玉4円で換金する。これを「等価交換」といいます。「交換率」には二種類あって、現金から玉へと交換する際の「貸玉率」、また景品から現金に交換する際の「換金率」があります。ちみに数年前までは「貸玉率」は1玉4円が当たり前でしたが、消費税増税に伴い、500円で114玉しか借りれないなど、近年ではこの「貸玉率」は悪くなっていく一方です(当然その分はプレイヤーが損します、125玉が114玉になった場合、114 ÷ 125 = 91.2%となり、現金投資をしている間は実に8.8%も期待値が下がります)。


 さて、ここでもう一度【とある人気機種のスペック】の数字に戻ります。


ボーダー:4.0円/20.3回転、3.57円/21.2回転、3.33円/21.8回転


 回転数の左にある金額は「換金率」を指します(貸玉率については等価交換、つまり1玉4円が前提になっていることに注意)。また右側の回転数は千円あたりに大当たりの抽選を受けられる回数を指します。ボーダーが4.0円/20.3回転ということは、換金率が1玉4円だった場合、千円で20.3回転回れば期待値が100%という意味です。その隣の数字もまた然り、換金率が1玉3.57円の場合、千円で21.2回転回れば期待値は100%になります。簡単に言うと、千円あたりの回転数がボーダーより多ければ勝ち、少なければ負け、ということです(これはあくまで期待値なので、短時間勝負の結果とは整合しません)。このボーダーという数字は機種によって異なりますが、基本的に全て公開されており、ネットでも簡単に調べることが可能です。この数字を信じるかどうかはあなた次第ですが、しっかりとした計算に基づいて出されているものなので、個人的には信頼に足るものだと思っています。専用のソフト等を使えば個人で算出することも可能ですが、非常に複雑な計算になるので、素人が一から計算するのは至難の業でしょう。しかし兎にも角にも、突き詰めてしまえばパチンコはボーダー回転数より回る台に座ることができれば勝てるのです。


 パチンコというギャンブルの性質についても考えてみましょう。


 パチンコは「受け身」のギャンブル、ということができます。プレイヤーがやることと言えば台を選んでハンドルを捻るくらいで、プレイヤー側の行動の選択肢、自由度は極端に少ないです。表向きは違法とされていますが、パチンコ店は平然と閉店後に釘を金づちで叩いて調整します(近年では封入式といって、店が釘調整できないタイプのパチンコも開発されていますが、リリースはまだ先になりそうで、仮にリリースされたとしても当然ながら客が負けるスペックになります、でないと店が購入しません)。究極の受け身のギャンブルは宝くじですが、受け身のギャンブルは総じて勝てない、というのがギャンブル界の常識です。麻雀やポーカーで勝てる人がいるのは、プレイヤーの自由度が高いからです。


 結論から言います、パチンコは勝てないギャンブルです。やればやるほどお金を失います。なぜなら、ボーダー以上に回る台などほぼ存在しないからです。厳密にいうと、今でも勝っている人は極々少数いるかもしれません(長期的なスパンで見てです)。それは、イベンターや開店プロといった人たちです。新装開店等のイベントでは、店側がプラスの釘調整をして、千円あたりの回転率を上げて、プレイヤーに利益を還元することがあります。パチプロ達はそういったイベント情報を調べ上げて、時には遠方まで出向き、早朝から並んで狙い台を確保します。いざ狙い台に座っても回転数が悪ければ打たずに帰ります。パチプロの世界はとてもシビアで、素人が暇つぶしにふらっと駅前のパチンコ屋に行って勝てるものではないのです。いかに期待値の高い台を長時間打つか、パチプロの思考はこれだけです。加えて現在ではパチンコ店は法令でイベント告知の禁止を余儀なくされ、更に客足減速から経営悪化の影響を受けて、とてもではありませんが客に利益を還元できるような状況ではありません。現在ではこの種のパチプロ達はほぼ絶滅してしまったといっても差し支えないでしょう。


 1980年代から2000年代にかけて、日本中がパチンコに熱狂していた時代がありました。今では信じられないことですが、民放でもパチンコ専門番組が流れ、和田アキ子、石橋貴明など大御所がゴールデンタイムにパチンコを打つ姿が放送されていたのです。TVチャンピオン・パチプロ王選手権なるものもありました(YouTubeで見れます)。この時代はどこのパチンコ屋も満員御礼。平均期待値が90%以上あった夢の時代です。店もプレイヤー側の期待値プラスの見せ台を設置する余力が十分にあり、パチンコファンが何百人もイベントに列をなし、攻略雑誌を買いあさり、釘を読み、パチンコ屋はさながら鉄火場の様相を呈していたのです。しかしそんな熱狂も今は昔……。


 今のパチンコは勝てないギャンブルです。断言できます。勝とうと思ってやるギャンブルではありません。しかし、本稿のタイトルは【ギャンブルで勝つ方法】。本当にどうやっても勝つことはできないのか、せめて負けを減らすにはどうしたらいいのか、次話では更にもう一歩踏み込んだ考察をしていきたいと思います。パチンコ全盛期に業界を震撼させた伝説のパチプロ集団「梁山泊(りょうざんぱく)」が如何にして攻略法を生み出し、大金を荒稼ぎしていたかにも触れていきます。

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