第60話 エピローグ
†‡†
「ブルースター、綺麗ですね」
「あいつの残した花だからな」
ラメルが栞にしていた花を、二人は命日に飾っている。
幸福な愛、信じあう心。
幸せだったと、自分の気持ちは変わらないと。
そんな思いをきっと、彼女は栞に託した。
だから月に吠えた夜、王子は人知れず泣いたのだ。
「ーーネモフィラの花言葉って、ご存じですか」
話を終えた様子の王子に、ジル・レオンは問いかけた。
「そちらには明るくなくてな。なんだ?」
「あなたを許します」
「…………」
許してくれているのだろうか。決断できないままだった自分のことを。
「ここ、花は植えたけれど、ネモフィラはどこからか種が飛んできて。それがこれだけ増えたんですよ。俺にはメッセージに思えます」
「……心配症だな、ラメルは」
さわさわと花が揺れた。
‡
元気か?こっちはかわりない。強いて言えば、最近剣の手合わせをしていると、レオンやケヴィーにどんどん勝ちをとられていくところが違った。俺の専属騎士はレオンが務めている。
女流騎士の人数も増えた。まだまだ少ないけれど、みんな訓練に励んでいる。
ルフランも、相変わらずだ。あの件以来、従者達も祖国に帰れていない。だから城下に自治区を設けて家族ごとこっちに引っ越してきている。向こうの技術を教えてもらって、学者達はよく出向いてるよ。いいお友達としてつきあってるかな。シェルとの外交は、正直難しい。なんとかしてあの事件のことは認めさせたけど、いろいろあって遺族補償はこっちが出してる。……悪いな、金の話なんかして。でもまあ、がんばりすぎずにやっていくさ。
……俺が妻をとらないことに、もう母上や父上もあきらめたようだ。何人かはラメルをだしに、新しい妻をとることを望んでいます、と進言してきたけど、流した。俺は、おまえが夢枕に立ってこんこんと説教しに来ても他の誰かを好きになることはない。自分で決めた事だ。国の後継者は、復位したケヴィーが有力になってる。
ん?…はいはい。
ああ、そろそろ慰霊祭の時間なんだ。城下でやるから、そろそろ戻らないといけない。
また来るよ。
じゃあな、ラメル。
†††
それは、司祭抜きの婚姻だった。
指輪に限らず、婚姻のための2対の装飾品もない。
静寂の中、誓いが行われた。
私は神に誓います
あなたのそばに
私は剣に誓います
あなたを一生守ります
私はあなたに誓います
生涯をかけて支えます
私は私に誓います
私はあなたを愛します。
剣の誓いとこれからの誓い。二つが一つになって、レインは手を握り返し、それに答えた。
数分間、いや、それよりも短い間、二人は世界から隔絶していた。
彼女は一人の騎士。
仕えた主人は王子。
繋いだ剣は壊れてしまったが、手は離れなかった。
sword break 香枝ゆき @yukan-yuki
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